依頼
翌朝……日がまだ昇る前にコウは目を覚ました。
小屋の中をぐるりと見渡すと一緒に休んでいた筈のネネの姿が見えない。
どこかに行ったのか、と考えていると何やら外の方から良い香りが小屋の中に入ってきた。
もしや、と思ったコウが外へ出てみるとそこには彼よりも早く起きていたであろうネネが朝餉の支度をしていた。
「おはようございます」
「おはよう……相変わらず早いな」
「えぇ、まぁ……朝早く起きてしまうのは私の癖のようなものですから……お食事の方はもうすぐ出来ますので暫しお待ち下さい」
「すまないな」
コウは詫びは入れながら昨日小屋を作った際に余った竹を手に取る。
そして、自分はポイヤウンペから貰った小刀を取り出すと徐に持っている竹の中を削り始めた。
「何をしてるんですか?」
「ん? あぁ……竹の中にある節を取ってるんだ。この中を空にしてあの岩から出ている清水に差せば上手く水が引けるんじゃないかと思ってな……」
「なるほど……その竹筒の先に瓶でも置けば自然と水を貯めることが出来そうですね」
「そういうことだ」
そう言いながらコウは器用に小刀を使って竹の中をくり抜いていき、ネネは煮炊きしている火が消えないよう木の枝を焚べていく。
朝霧に周囲が覆われ、清々しい空気に包まれながら二柱は昇る日を拝み、朝餉を摂った後……コウはネネを連れてアマテラスの居る神殿へと向かって行った。
※※※※※※
昨日同様、アマテラスの朝の挨拶が済んだ後……コウは彼女に会う為に神殿の中に入り、その奥へと進む。
いよいよ、今日から本格的に万神として務めることなる。
最初の務めはなんだろうか―――そう思いながら、アマテラスが待つであろう奥の間の扉の前に着いたコウはその手を扉に触れる。
すると、中でアマテラスと誰かが話しているような声が聞こえた。
(……ツクヨミか? それともスサノヲか?)
取り敢えず思い浮かぶ者の名を上げつつも、コウは躊躇わずに扉を開いた。
中に居たのはアマテラスともう一柱……コウと面識のある神がいた。
とはいっても、そこに居たのはツクヨミでもスサノヲでも無い。
「お前は―――」
「あら、おはようございます。アラハバキ」
「良い朝だな。アラハバキ殿」
丁寧に挨拶をするアマテラスの隣に居たのはタケミカヅチであった。
コウはその二柱の姿を確認すると挨拶を返しながら彼らの元へ近付く。
「おはようございます、アマテラス様。タケミカヅチ。だが、どうしてここに?」
「それは少し頼み事があってな……」
「頼み事?」
「それは今から伝えます。タケミカヅチ、あなたは務めに戻りなさい」
「はっ、それでは…………アラハバキ殿、またいずれ……」
そう言ってタケミカヅチはその場から去って行った。
アマテラスは彼の姿が見えなくなるとホッと息を吐き、砕けた口調でコウに話した。
「ふぅ……朝早くからこの状態は少し辛いわね」
「まぁ、仕方が無いだろう……ところで、タケミカヅチは何の用があってここに?」
「それを今からあなたに話すわ。今日の務めのことだから……」
「務め? 俺のか?」
「えぇ」
アマテラスはそう言うとコウに先程タケミカヅチが尋ねてきた訳を話した。
タケミカヅチは普段、神殿の番の務めの傍らで剣の鍛錬を行っているのだが、昨日の鍛錬の際に自身の剣である布都御魂剣を誤って石に強く打ち付けてしまい、剣を折ってしまったとのことであった。
「剣が折れたならばすぐに直せばいい。高天原にも鍛冶が出来る神は居るだろう?」
「えぇ、確かに居るのだけれど……問題はその布都御魂剣に使われている物なの」
「使われている物?」
「布都御魂剣には普通の鉄とは違い、特別な鉄が使われていてね……天金山は知ってる?」
「あぁ、高天原で唯一鉄が採れる山で山頂に行くにつれてより純度の高い鉱石が採れるとか……」
天金山のことは高天原に着いた際にオモイカネから教えてもらったので大筋のことは分かる。
「よく分かってるわね。誰かに教えてもらったの?」
「オモイカネからな……というと、今までの話しから察するに布都御魂剣に使われている鉄は天金山の頂上付近にある鉄ってことか?」
「呑み込みが早くて助かるわ。まぁ、頂上まで行かずとも布都御魂剣に使われている鉄は中腹辺りで採れるらしいんだけど……あの山、見ての通り急でしょ? だから、中腹まで行く者がいないのよ」
「なるほど……つまり俺の今日の務めは材料である鉄を取ってくる、という訳だな?」
「そういうこと。タケミカヅチはあの通り神殿の番の務めが忙しいからなかなか行けないのよ。だから、今日はよろしくね。詳しいことはタケミカヅチから聞くと良いわ」
「分かった……それじゃあ、早速行ってくる」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
アマテラスの見送りを背にし、コウは神殿の外に居るであろうタケミカヅチに話しを聞く為、その場を後にした。




