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ジンダイ  作者: 吉田 将
第三章 高天原
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称号

「……ごめんなさい」


「いや、気にするな」


 夕方……神殿の外に出て神々へ姿を見せたアマテラスは挨拶もそこそこにして神殿の中にいるコウの元へすぐに戻ってきた。

 自身の話しに付き合ってもらってばかりでまだ彼に万神としての役割について説明していなかったのだ。

 そんな訳で彼女は申し訳なさそうに少し気を落としているのだが、コウはそんなに気にしていなかった。


「俺も少し話しがしてみたかったんだ。この高天原を治める天照大御神とは如何程の者なのか……話してみてだいぶ分かった」


「そう……そう思ってくれるのなら助かるわ」


 アマテラスは息を吐くと改めてコウの方へと向き直った。


「それじゃあ、万神としてのあなたについて……これからの役割について話すわね」


「頼む」


「まぁ、この高天原にいる神々の頼みを聞いて回る……それは今朝言った通りなのだけど、それらが無い場合。あなたには私の従神となって補佐をしてもらうわ」


「……具体的には?」


「私が務めを行う際やどこかへ出掛ける際の同行、補佐といった所かしら?」


「補佐か……俺はそういうのは苦手なんだがな……」


「贅沢言わないの! とにかく、あなたに出来ることは何でもやってもらうからそのつもりで……」


「分かった」


「今日はもう遅いし、実際に働いてもらうのは明日ね。明日からは朝、夕には私の所に来て挨拶をして頂戴。この神殿への出入りは自由にするから……」


「あぁ、分かった」


「……これで一通りに説明はしたわね。それじゃあ、これから正式に任命するから……」


「正式に任命? それは今終えたんじゃないのか?」


 コウはそこで疑問の言葉を口にする。


「いいえ、まだよ。それを今からやるの」


 アマテラスはそう言うとゆっくりと深呼吸をして自身の心を落ち着かせた後、真剣な眼差しをコウに向けた。


「……国津神、アラハバキ。あなたをこれより天津神として任命します。明日より務めに励んで下さい」


「なっ!?」


 アマテラスの突然の言葉にコウは驚いた。

 それもそうだ。いきなり天津神に任命するなど言われても訳が分からない。


「どういうことだ!?」


「本来、国津神とは中つ国に住む神々の称号……すなわち、これから高天原に住むあなたは自然と天津神になるのです」


「……なるほど、そういうことか」


 コウはその言葉を聞いて得心する。

 要は名前が変わるだけであって、根本的なものは変わらないということだ。


「ついてはあなたもみことと名前に付けてもらいたいのだけれど……」


「それは断る」


 今度はコウの言葉を受け、アマテラスが驚いた。


「どうして!? 他の神々は皆付いているのよ?」


「名には強い力がある。もし、俺が命と付けたら俺は本当に従神になってしまう。それだけは承諾しかねる……俺のこの名は小さき友から貰った自由な名だ。これまでお前に委ねるつもりは無い」


 真っ直ぐなコウの眼差しがアマテラスを貫く。

 彼女はその視線を受け、思わず目を背けてしまうがやがて消え入るような声で言った。


「……分かったわ。でも天津神の称号は受け取って頂戴……」


「あぁ、それは受けよう」


 その言葉を聞いてアマテラスはようやく背けた目を元に戻す。


「それじゃあ、これであなたもようやく天津神の一員で明日から万神としての務めを行ってもらう訳だけど……今日はどうするの?」


「どうする……というと?」


「寝る所が無いでしょ? なんだったら、この神殿にあなたの住まいを作っても良いのだけれど……」


 アマテラスの優しい申し出にコウは内心感謝するもスサノヲとのいざこざが起こったばかりである。

 その為、彼は丁寧に断った。


「心遣いありがとう……だが、それには及ばない。自分の住処くらい何とかするさ。これ以上、迷惑は掛けられないからな……」


「そう……でも、今日はどうするの?」


「それに関してだが……アマテラスに頼みがある」


「なに?」


「天香具山の周囲に俺を住まわせてくれないか? あと、家を作るのに木や草、土地を少しばかり貰いたい」


「それは良いわよ。天香具山の周りはまだ使っていない土地があるから……でも、どうするの?」


「今から簡単な家を建てに行く」


「えぇ!?」


 アマテラスはコウの発言に驚いた。

 刻はもう既に夕方……もう暫くすれば夜が訪れる。

 とても家なんて建てられる時など無い。


「こんな遅くに無茶よ!」


「いや、普通の家ならまだしも“寝るだけ”の家なら作れる……それには天香具山周囲に住む許可が必要だったんだ。ありがとう。それじゃあ……もう家を作らなきゃならないから今日はこの辺で失礼しても構わないか?」


「え、えぇ……」


「それじゃあ、また明朝…………失礼する」


 呆気に取られたように固まるアマテラスに背を向け、コウはしっかりとした足取りで謁見の間を後にした。

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