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ジンダイ  作者: 吉田 将
第三章 高天原
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既視感

 チヂヒメを背負い、臭木の葉の入った籠を抱えたコウは小屋へと戻る道中、ワカヒルメに自身が彼女達を探していた経緯を詳しく語った。

 背負われているチヂヒメは疲れてしまったのか今はぐっすりと眠っている。


「まぁ、それではハヅチオ様に頼まれて私達を?」


「あぁ」


「それは……ご足労お掛けして申し訳ありません」


「いや、元々衣を作って欲しいと頼んだのは俺達の方だ。それに初めから材料を調達する手間がアンタ達を探すだけで済むなら容易い……感謝こそすれど手間だなんて思わない」


「そう言って頂けるなんて……なんとお礼を言えば良いのか……」


 コウは頭を下げるワカヒルメを横目で見る。

 アマテラスと初めて会った時もそうだが、ワカヒルメと彼女はやはりよく似ていた。

 けれども、似ているとはいえコウは確信が持てない。

 雰囲気や見た目はそのものなのだが、纏う神気がやはり違うのだ。

 例えるならアマテラスは威厳と慈悲を象徴とした神気に対して、ワカヒルメは優しさと温もりを象徴とした神気といった方が良いだろうか。

 いずれにしても、似てはいるが決定的な部分が異なっている為、コウは彼女達がそれぞれ別であると勝手に自分の中で結論づけた。


「とはいえ、なるべく早く戻らないとな。ツクヨミを待たせている上、これ以上アマテラス……様に失礼をする訳にはいかない」


 思わず、いつもの癖で呼び捨てにしようとしたコウは一旦区切りを付けた後に“様”を付ける。

 するとそれを聞いたワカヒルメは彼に尋ねた。


「と、言いますと……アラハバキ様はこれからアマテラス様と何か?」


「あぁ、あとから神殿の中で会う約束をしている。俺が万神に命じられたからな。恐らくそれでだろう」


「万神?」


「天津神達の頼みを聞いて回る任だな。アンタも知っているとは思うが俺が昨夜、天津神達を倒した責……それの償いだ。まぁ、その元となったスサノヲを殴った件については許されたが―――」


「まぁ! アラハバキ様、スサノヲ様をそんな風に呼んではいけませんよ!」


 三貴子であるスサノヲを呼び捨てにするコウを咎めるワカヒルメであったが、当のコウ自身は微塵も反省している様子は無い。

 それどころか、逆に堂々とした態度で言い放った。


「アイツが三貴子だからか? 悪いが俺にはそんなの関係ない。いくら貴い神であろうが狼藉を働いている以上、敬う気は無い」


 きっぱりした物言いであった。

 その言葉には何の曇も無い。

 そんな彼の態度にワカヒルメは思わず息を呑み、言葉を繋ぐことが出来なかった。

 そんな彼女を気にせず、コウは言葉を続ける。


「…………まぁ、そういうことだからアンタも何か頼み事がある時は遠慮なく言ってくれ。とは言っても、こんな乱暴で粗暴な奴に頼むことなんて無いとは思うが……」


 コウはそう言うと自嘲気味に笑った。

 だが、その言葉を聞いたワカヒルメに笑みは無い。

 代わりに真剣な眼差しだけがコウを捉えていた。


「……そんな事、ありませんよ」


「ん?」


「確かにあなた様は傍から見たら少し態度が悪いように見えますし、力で解決してしまうように見受けられます。それでは誰も近付いてはくれません」


「だろうな」


「ですが――」


 ワカヒルメはそこで一度、言葉を止めるとコウに向かって優しく微笑んだ。


「そう見えるだけであって、本当は違いますよね? 私にはあなた様が優しい力強い殿方に見えますよ?」


 コウはそれを聞いて一瞬、驚いたような表情になるがすぐに顔色を戻した。


「……それは助けてもらったからそう見えるだけだ。そんなことは無い」


「いいえ、そんなことありません。ならばどうしてツクヨミ様がアラハバキ様と一緒に居られるのです? あの方はとても賢い方です。余程のことが無い限り、誰かと一緒に居るなんてことはありません」


 断言出来る、といったはっきりした物言いに今度はコウが思わず口を噤んだ。

 そうして、彼は前を見てそっとワカヒルメに言った。


「……そろそろ着くぞ」


 それを聞いたワカヒルメが先を見ると確かにタナバタヒメの小屋が見える。

 コウはそれを確認させた後、急に足早となって小屋に向かって行った。


「……ずるいお方」


 ワカヒルメは彼に聞こえないようそう呟くと、コウを追い掛けるように後に続いた。




 ※※※※※※




「ありがとう、アラハバキちゃん。この子たちを探してくれて……」


「気にするな……それよりその“ちゃん”と付けて呼ぶのはやめてくれ……」


 ワカヒルメとチヂヒメを小屋まで送り届けたコウはタナバタヒメにお礼を言われるものの、あまり気にしていないように軽く返す。

 それよりも“ちゃん”付けで呼ばれる方を気にしている様子であった。


「それよりもチヂヒメはまだ眠ったままだが……」


 タナバタヒメに引き渡してもまだ眠ったままのチヂヒメをコウは見る。

 タナバタヒメもその方を見て暫く思案した後、口を開いた。


「さすがに起こすのもかわいそうねぇ~……ワカヒルメちゃん、申し訳ないけど先に戻って事情を伝えてくれないかしら?」


「はい、分かりました」


「……という訳で、アラハバキちゃん。悪いけれど、ワカヒルメちゃんを忌服屋まで送り届けてくれないかしら~?」


「それは構わないが……“ちゃん”はやめてくれ」


「重ね重ねありがとう、アラハバキちゃん」


 もはや何を言っても自分の頼みを聞き入れてくれないタナバタヒメにコウはついに無言になる。

 それを見たワカヒルメは慌てて間に入り、タナバタヒメに頭を下げた。


「そ、それでは私達はこれで……チヂヒメ様をよろしくお願いします。さっ、アラハバキ様行きましょう!」


 少し気を落とすコウの手を引き、ワカヒルメは彼と共にタナバタヒメと別れ、天香具山を離れた。


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