突然の襲撃
ミズチに誘われるまま洞窟の中へと入ったコウはその奥に居る、青みがかった黒髪を持つ男の姿を見て声を掛けた。
「久し振りだな、スイ」
「おぉ。コウ、久し振り! まずは国津の長になったこと……おめでとう!」
「ありがとう」
そんな言葉を交わしながらコウはミズチと共にスイの前に座る。
スイは先に酒を飲んでいた為か、少し酔いが回っていた。
「これで国津も安泰だな。ミズチ」
「あぁ。我もコウが力になってくれるので一安心だ」
「そういえば、コウ。旅はどうだった? 探しものは見つかったか?」
「あぁ……とても良いものだった。探しものはまだ見つからないがな……」
「だが、手掛かりは得た…」コウは続けて言うとカグツチについてスイに話し始めた。
「カグツチか……一体その手掛かり、どこで得たんだい?」
「……北の地だ。アイヌという一族から得た……どうやら、俺が父上、母上を失った年に同様のやり方で殺められた者がアイヌに居たらしい。そして、殺めた者は炎を扱い…自身は天津神のカグツチだ、と名乗ったらしい」
「……アイヌか、確かにあの一族は誇り高き一族だ。我ら国津神と同じく天津神と敵対しているが……我らと共に居ようとしない。難儀な者達だ……我も声は掛けようとしているんだが……」
「仕方無い。自身を守る為に他を信じることが出来ない……今の国津と同じだ。それにしてもカグツチ、か……聞いた事がある。確か、奴は……」
スイがそう言い掛けた時、洞窟の中から物音が聞こえてきた。
今、この場にはコウ、ミズチ、スイの三柱しか居ない……けれども、誰も物音を出すような事はしていなかった。
「誰だ!」
「まぁ、待てコウ。どうせ、ミズチの使いの者だろう?」
「……いや、今使いの者は傷を負ったツチグモ達を運んでいる為、この場には来ない。それに、我が出てくるまで決して中に入るな、と言っている」
「じゃあ……誰だ?」
三柱は互いに顔を見合わせながら洞窟の入り口に目を向ける。
すると、そこには口をすぼめて曲げたような奇妙な顔をした男が立っていた。
「……なんだ、あいつは?」
「いや、よく見ろ。あの顔は……面だ!」
ミズチが見破ると共に奇妙な男の面をした者はとても長い剣を取り、向かって来る。
そんな中、三柱の中でコウが先に太刀を持って前に出て、面の者と刃を合わせた。
面の者が持つ剣は先がとても鋭利に出来ており、斬る為よりも貫く為に特化した剣のように思えた。
「この剣は……」
「普通の剣よりも長い剣……まさか、天津神達が使う十拳剣か!?」
スイが驚くと同時にコウは面の者から離れる。
十拳剣とは高天原に居る天津神達が使う剣である。
種類は数多く存在するが、そのどれもが拳を十個束ねたかのように長いという特徴がある。
この者がその十拳剣を使っている…すなわち、これが意味することは……
「お前……天津神か!」
敵であると認めたミズチは自身の腰からうねる蛇を模した剣…蛇行剣を抜く。
それを聞いたスイも自身が持ってきた羽根飾りの弓矢を手に持つ。
「わざわざ尋ねてきた、という事か……ご苦労だな。こんな危ない所まで……」
コウは呟きながらも、気は緩めず構えたまま面の者を睨みつけた。
だが、面の者はその眼力にも怯まず、隙を待つようにジッと佇む。
そんな静かな攻防が暫く続いた後、その空気に堪えかねたのか……スイが持っていた弓矢から面の者に向かって矢を放った。
面の者はそれを避ける為、横へと動く。
だが、その動いた先には蛇行剣を持ったミズチが待っていた。
「はあぁぁぁ!!」
気合いを入れて振ったミズチの蛇行剣を十拳剣で防ぐ面の者。
その隙を見て、弓を引くスイ。
状況はコウ達が有利となっていた……が、太刀を持ったままコウは何か言い知れぬ不安に襲われていた。
(なんだ、この感じ……なんだか分からないが、嫌な予感がする……)
そして、その予感は最悪な形で当たることとなる。
「ぐあぁ!?」
「ミズチ!」
一瞬だけ気を逸らしてしまったコウはスイの言葉にハッとしてミズチを見る。
そこには肩に大きな火傷を負い、その箇所を押さえながらうずくまるミズチと、なぜか炎に包まれた十拳剣を握り、ミズチを見下ろす面の者が居た。
「ミズチ! 一体、何が起こった!?」
「わ、分からない。ミズチとあの面の者が互いの剣を合わせている間に……面の者が持つ十拳剣が急に燃えだした……もしかしたら、奴の神力かも知れない……」
スイの震えた声での説明にコウはまさか、と思いつつも尋ねる。
「天津神…炎……まさか………………カグツチ……なのか?」
その言葉を聞いたのか、面の者はピクリと身体を僅かに動かし……コウの方を見据えるように向いた。




