夢幻世界 シュスベークア
急遽、避難訓練をすることを知らされた私は、担任のキョーちゃんこと滝村恭一先生の背におぶられながら、避難することになった。
べつにどこかケガをしているというわけではないが、今朝までネトゲしてたために自力で動く体力を登校時に使い果たしてしまったためでもあり、直前まで寝ぼけていたからでもある。
私はキョーちゃんの背の上から周りを見ていたんだけど・・・なんだろう?変な気分というか、廊下や階段担当の先生方が誰もいない?っていうか、廊下に響くはずの他の生徒のざわつきも聞こえない。
あれ?そんなに遅くなってないはずだよ。耳だけっていうか頭は起きてるもん。
さっきまで晴れていたはずの階段の窓から見える空は、どんよりと曇りだし外は薄暗く感じるほどだ。
そんな状況でもひたすらに真面目なキョーちゃんの視界には入ってこないらしく、「ふっ、ふっ、ふっ」とリズミカルに私をおぶさりながら階段を降りていく。
そして、昇降口ではなくグランドへの最短ルートに急ぐ。出ることができるが普段は開けると怒られるドアを開けて、キョーちゃんと私は校舎の外へと出た。
キュィーーーーン
あれ?耳鳴りかな?
「・・・・・・」
視界に広がるのは、豊南工業高校のグランドではなく、遠くに山脈を望むことができるほど空気の澄んだ、青々と茂った草原だった。
「なぁナミ?俺に眠気移したのか?」
キョーちゃんがわけわかんないことを聞いてきた。そして私を地面へと下ろす。
そのとき、ガシャッっと金属が擦れる音がした。慌ててその音のする部分を見ると、私たちの服?装備?が擦れる音だったようだ。
「・・・そ、装備がすれる音? 装備?」
さっきまでキョーちゃんはスーツだったし、私は制服だった。あれ?
「なぁ、ナミ。インベントリって念じてみ? そしてギルドカード出して、“ステータスフルオープン”って唱えてみ。」
ふいにキョーちゃんは私にそんなことを言う。
はぁ、何を言ってるのやら。それはゲームの話でしょ。
というか、現状を考えれば、「異世界トリップ」をしているという認識になるのはどうしようもないことだったし、もしも日本のどこかにいるのだとしても、こんな緑いっぱいの平地は北海道の牧草地か、田園風景くらいだろうし、それに、少なくとも電柱がどこかにはあるはず。あとは送電線があるはずと思って見回しても何もない。
そればかりか、自分たちはなんかゴワゴワしているものを着ているのだ。
しょうがないので“インベントリ”と念じてみると、目の前の空間に今朝までやってたゲームと同じような半透明の窓が出てきた。そのインベントリをみるとやはりというか、今朝のゲームでのクエストの獲得商品である暗殺盗賊専用武器「翠双牙空」が入っている。早速装備してみたくなるが、その前にギルドカードを見つけて取り出した。
「ステータスフルオープン」ぼそっと言っただけでも反応したようだ。
***ステータス***
名前:ナミリア・アステリア・リカルード
性別:女 年齢:17 種族:ハイブリット・キメラ
登録ギルド:旧王都冒険者ギルド・旧王都商業ギルド・旧王都生産ギルド
所属クラン:なし
拠点エリア:旧王都「夢想都市・ジェルガイア」
総合レベル:102
HP:251510
(レベル適正:225200+種族特性:26310)
MP:272870
(レベル適正:225200+種族特性:47670)
SP:339740
(レベル適正:301200+種族特性:38540)
戦術系職業1:回復療養師・99レベル
戦術系職業2:暗殺盗賊師・86レベル
生産系職業1:装備錬成師・90レベル
生産系職業2:符術技工師・71レベル
戦術特化属性:影・闇・水・風
生産特化属性:火・水・風・土・木・金
右手:睡双縁香(右)/龍姫の指揮棒/巨匠のハンマー
左手:睡双縁香(左)/闇蜥蜴のクロスボウ/コビトの細工針
頭:千里眼の鉢巻(目元で巻くと遠くが見える気がする・気配察知効果+10)
上半身:猫狐のブラ/鰐蜘蛛の帷子/黒鷲のジャケット
下半身:猫狐のショーツ/黒鷲のキュロット
背:闇影の無限空間バック(インベントリと同期)
足:黒鷲の安全足袋(つま先と足裏にミスリル強化済み)
種族特性:全世界魔法開放/付加効果持続時間設定可/****
(レベル制限に関係なく使用出来るが保持MPに依存。)
種族技能:天魔属性(吸血・魅惑・呪加・祝福・長寿)
/龍神属性(炎系ブレス・氷系ブレス・龍脈操作・皮膚の龍化・長寿)
/妖精属性(演舞・聖歌・寿命無限)
/エルフ属性(樹木操作・緑化・調薬・長寿)
/ドワーフ属性(製造特化・生産特化・効果付与)
/獣人属性(肉体強化・俊足・加速・跳躍・冬眠・体力温存)
/人族属性(交渉・話術・知略・語学認識・性力操作・従属操作・隷属操作)
称号
異界の巫女神
異界の来訪者
創世神の眷属
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「ねぇ、キョーちゃん、これって「空想物語」の夢幻世界ってことになるんだよね?」
「あぁ、たぶん、夢幻世界シュスベークアだな。」
「そかぁ、向こうに帰れるのかなぁ。 まぁ、べつに心配する人居ないからいいけど。」
「そうだな。先生方はそれなりに心配するだろうけど、それまでだろうな。」
キョーちゃんは一人暮らしが長いらしいから、ふらっといなくなっても職場以外で問題にはならないみたい。
私も一人。去年、両親や祖父母は慰安旅行に行った時に乗っていた船が沈没。遺体どころか遺留品さえ見つからなかった。
先週、私のパソコンをカスタマイズしたのは、母の再従兄弟に当たる親戚のお兄さんで、たまに私の様子を見るためって言うよりも私にメロメロだったから、ついでに過剰なスキンシップで攻めつつ、改造を頼んだ程度。
べつに婚約とかはしてないから、いいんじゃないかな?
「っていうか、キョーちゃんの声、かわいいね。」
「か、からかわないでよ。もう。」
「あれぇ? 認識した途端、言葉も変わるんだぁ。へぇ」
「・・・・・」
照れてる照れてる。
そうなのだ、キョーちゃんは「空想物語」で女の子のキャラクターを操作していた。いわゆるネカマ。
ただし、“キャラがカワイイから”という理由だけで“女の子”にしたのに、自分が“そのモノ”になるとは普通は思わないから、なったのを自覚してか話し方を女の子モードにしたらしい。
ついでに仕草まで女の子そのものだよね。もしかしたら、無意識なのかもだけどね。
穏やかな日差しとともに、ほのかに草の匂いのする風が、私たちの髪を撫でるのだった。




