表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

02.溜息ばかりの護衛と忘れられた庭園

 鏡の中から、黒髪に黒い目の見慣れすぎた人間がこちらを見返している。調子の良い時でもこの容姿は中の中の上。他者の意見を否定したいとも思わないし、自分でも自負している。

 そんな中途半端な、それでも16年付き合ってきた容姿に向き合う気になった原因は、あの馬鹿王子以外の何者でもない。

 そんじょそこらの女の子よりもよっぽど綺麗な顔をした王子様は、さきほど衛兵に引っ張られて部屋に戻ったはずだ。

 そしてここは、アメリアの自室。王宮から少し離れた、兵士用の宿舎の中だ。

「はあ……」

 溜息も何度目だろう。

 さっきの命懸けのちょっとした空中飛行は、イシュメルの部屋が2階だったことも幸いして、あざの一つですんだ。が、肝心な所はそこではないのだ。


 ――――そんなことになったら俺が貰ってやるから心配するな。


 馬鹿王子様は、真面目な、本当に真面目としか言いようのない顔でそう言った。しかし、そんなものは信じられるはずも無く、信じたいとも思わない。……そのくせ自分の容姿をもう一度確認したことについては、矛盾していると自覚しているが。

「私を貰ってくださるとか言う前に、婚約の件をもっと前向きに考えてくださいよ……」

 頭に響く鈍痛に目を伏せながら、鏡に背を向け飾り気の無い部屋を出る。

 もうすぐ隣国の姫――ジュナス国のミアラーヌ王女が王宮に到着するらしい。王子も迎えに出るはずなので、アメリアも行かないわけにはいかない。

 宿舎を出る。王宮までは庭園の裏から入るのが近道だと知っているのは、おそらくアメリアと、イシュメルぐらいだろう。誰も手入れのするもののいない、荒れ放題の庭をぬけつつ、ふと昔を思い出した。

 アメリアとイシュメルは、身分の違いを無視すれば「おさななじみ」だ。

 まだそれほど王子とただの少女、ということを意識していなかった何年も前、毎日のように二人で王宮をかけまわった。

 そのころはまだここも綺麗に手入れをされていて、季節ごとに色とりどりの草花が、上等な絨毯のように咲き乱れていた。

 今では新しい庭園が造られ、ここは忘れ去られている。だが、アメリアにとってここは思い出の場所だった。考え事をしたり落ち込んだときには、ここで一人過ごすのが習慣だったりもする。

 そういえば、どうしてここが心に強く残っているのだろう。ここだけじゃなくて、もっと城内なんかも毎日のように歩き回ったはず――。

「っ!」

 考えに耽っていたら、膝丈のズボンから除く素足に何かが掠った。

「………………薔薇?」

 足元、とても低い位置に、その薔薇はあった。

 蕾だが、色は赤だろう。幾つかの蕾が風に揺れる。きれいな物には棘がある――よく言ったものだと苦笑する。手入れのするものがいなくなったのに、やけにこの薔薇の周りは綺麗な気がする。相当に生命力が強いのだろうか。

 足からは多少血が滲んでいるが、さっきのあざに比べれば何ほどのこともない。

 ポケットから予備のハンカチを取り出して適当に血を拭いてから、今度は足元にも気をつけながら庭をぬけた。

読んでくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>異世界FTコミカル部門>「王子と護衛と、姫様と」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ