01.ろくでもない王子と振り回される護衛
……ありがちな内容だと自負しております……(汗
「よし、アメリアついてこい。城を出る」
そんなことを言いながら、アメリアの名を呼んだ彼は外套を手に取った。
「は――……、は?」
不覚にもはい、と頷こうとしてしまったのは、その言葉を呑み込めなかったから。しかしそれも尻すぼみに消え、王子である彼、イシュメルに不適切な単語で問い返す形になった。
イシュメルはばさりと外套を羽織ると、自室の扉ではなく、窓を開け放す。そこでアメリアを振り返り、
「なんだ? まさか護衛のくせして俺を一人で行かせるわけはあるまいな」
不適な笑みに背筋が凍る。
「お、お待ち下さいイシュメル様! 何を申されますか、もうすぐ隣国の王女様がこちらへ来られるのですよ!?」
「ふん。どうせ縁談だろう? 今回も俺は破棄するつもりなんだから、別にこなくても良い物を」
窓枠に足をかけたとんでもない王子を、アメリアはがっしりと捕まえた。
「それでもっ、それでもせめてお食事くらい一緒になされて、その間だけでも微笑んでいるのがイシュメル様のお仕事でしょう!」
「嫌」
即答ですかこのろくでなし王子! アメリアはべそかき声で心の中で毒づく。
ほらいくぞ。そう言って柔らかく笑んでこちらに手を差し伸べるイシュメルは、肩まである金色の髪と、空色の瞳が小さな顔にきちんと並べられていて、乙女であるアメリアからしても羨ましい。
この外見で、その中身。
どこでどう育て方を間違ってしまったのかと、愚痴の一つも零したくなる心情を誰かにわかって欲しい。
しかし、自分以外の護衛は全てイシュメル自信が「いらん」の一言で片付けてしまい、王子殿下の部屋に無許可で入ることを許された者は王族以外でアメリアのみ。
よって、イシュメルの暴挙を抑えるのはいつもアメリアの役目だった。
「駄目ですったら駄目です! イシュメル様もご存知ならば申し上げますが、今回の縁談はとくに重要で、向こうの国からやっと色よいお返事がいただけたらしいです。このたびは何としてでもご婚約にこじつけたいと国王陛下は仰っておいででした! そんな陛下のお心を、さらに痛ませるおつもりですか王子!」
はあ、と息を荒くしながらまくしたててから、何も言わないイシュメルにもしかして、と期待にささやかなサイズの胸を膨らませた。
上目遣いにそっとイシュメルを見やる。と、
「そんなもの、俺が知ったことか」
一蹴するとともにアメリアの手首を掴む。「おら!」乱暴に引っ張られ、一瞬世界がぐるんと回り――。
無意識に受身を取ろうと首を丸め、地面につく直前、手首からの反動で自分の体を転がした。それでも2階からの不意打ちの飛び降りはさすがに予想外で、しばらく丸まったまま動けなかった。
「アメリア起きろ。早くここから離れなければ衛兵に見つかる。まあ見つかったら見つかったで買収なり力ずくなりすればいい話だけどな」
さらりと言ってのけた言葉に黒い部分が含まれていることには、敢えて何も言わない。ただ、
「こんの……っ馬鹿王子! 私を殺すつもりですかああそうですか! あんなもの常人に強いるあなたは正真正銘の馬鹿です!」
けろりとして立っているイシュメルに、アメリアは涙目で叫んだ。
「まだお嫁にも入ってないし貰ってくれる先も見つかっていないのに、死ななくとも顔に傷でもついたらどうしてくれるつもりなんですか! 王子を守っての名誉の傷ならともかく、こんな馬鹿げたことで傷がいったら笑いものどころか――」
「そんなことになったら俺が貰ってやるから心配するな」
馬鹿だとかの暴言には、幼い頃からの付き合いなので慣れているイシュメルだ。その部分には全く触れず、変わりに思いもよらぬ所をついてきた。
一瞬呆けてしまったアメリアは、その言葉を咀嚼する為に十分な時間を要してから、
「私を貰う前に隣国の王女様を貰ってください――――!」
アメリアのその声の所為で衛兵が駆けつけてきたのは、言うまでも無い。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
もう少し続く予定……です(何故つまる
宜しければもう少しだけ、お付き合いくださいませ。