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ブランジア人魔戦記  作者: 長村
chapter,01
9/104

ep,009 朽ちた風車搭における戦い

 α分隊、β分隊、γ分隊の3つに別れた第1小隊は、所定の位置で待機し攻撃の開始を待っていた。

 β分隊。ショーマとメリルが魔法の準備を開始すると、α分隊に随伴していた騎士ルーシェがやってきた。

「私は君達のそばにいることにした。攻撃開始の号令も兼ねる班だからな。それにここからなら他の分隊も目に入れやすい」

「はい。こちらはそろそろ開始しようと思っていたところです」

「うむ」

 メリルが確認を取る。

「じゃ、始めましょう、ショーマ。『サンダーストーム』を待機状態にして。私が攻撃した後、合図を出すからそれに合わせて撃ち込んで」

「ああ」

 魔力を練り上げ、術式を組み上げる。

 何度も練習してきた。狙った場所に正確に撃ち込む自信はある。怖くも無い。

 メリルも同様に魔法の準備を行う。襟のリボンに添えられた宝石が淡く輝き、竜の力が引き出される。

『竜操術』は例えるならば1人で2人分の魔法を使うような物である。人と同じように魔法を使う竜という生き物。その力を借り、1つ上のステージに行く魔法の使い方だ。

 メリルの頭上に1つ、2つ、3つ。長さは1メートル、幅は30センチメートルはあろうかという氷柱が浮かぶ。中級魔法、『アイススピア』の3重発動だ。

 複数の魔法を同時に発動させるのは初級魔法でも難しいとされる。それを、中級魔法を3つも同時に発動させる。それだけのことが出来るのが竜操術であり、メリル・ドラニクスという少女であった。

「じゃあ、行くわよ」

「ああ。こっちも大丈夫だ。」

 最後の確認をする。これが初めての戦闘。その開始の合図だ。

「それじゃ。……ッ!」

 3本の氷の槍が、1本ずつ連射される。目標の風車塔、頂点付近に1本目が突き刺さり、ぐらりと傾かせる。2本目、3本目はその位置から一定の間隔を開け突き刺さり、傾きの勢いを加速させる。

「今よ!」

「!」

 氷結の魔力が氷の槍から完全に伝わり、風車塔自体が氷に包まれる直前、ショーマの『サンダーストーム』が発動する。

「行けッ!!」

 拡散しようとする氷の魔力は竜巻を起こす暴風によって閉じ込められる。さらに雷撃が発生。氷を伝導し、さらに威力を増した雷撃は破壊の限りを尽くそうとしていた。


   ※


「……来た!」

 崖の下で待機するレウス、デュラン、バムスのα分隊は、巨大な魔力の奔流を目にする。

 轟音と共に、朽ちかけていた風車塔は、氷と雷の暴風により木っ端微塵に爆砕されていく。

「よし、行くぞ!」

 レウス達は暴風がおさまり始めると、武器を手に駆け出していく。

 すぐに慌てて塔から飛び出したであろう1匹の獣を発見する。狼の魔族だ。敵もこちらに気付き、牙を剥いて飛び掛かってくる。

 レウスはそのまま駆け抜け、すれ違い様に一閃。肉を斬り裂く確かな手応えを感じる。一瞬だけ反転し、確かに仕留めたことを確認。そのまま勢いを殺さずにさらに反転、前へ向き直り、疾走を再開する。


   ※


「出て来ましたね」

 γ分隊。ローゼは魔法攻撃の発動と、それを受けて風車塔から辛うじて逃げ出す魔族の姿を確認した。

「狙撃を開始します。皆様はそのまま待機を」

「はい!」

「り、了解です」

 弓を構え、矢を添え、精神を集中する。闘気を込め、狙いを付ける。

 ……目標は空に飛び立った鳥類の魔族。

「――!」

 射る。

 狙い違うこと無く命中し、燃え盛る炎がその体を包み込んだ。弓術技、『烈火迅』。闘気を込めた矢の一撃で、命中した相手に炎の追加攻撃を与える技だ。

「今ので他の敵にも気付かれたでしょう。……来ますよ」

「は、はい!」

 セリアも腹を決めていた。


   ※


 α分隊は暴風のおさまった風車塔近くで、散開した敵に斬り込んでいく。迎撃を目論見、身を潜めていた所へまさかの大破壊を許した魔族達には動揺があったようだ。こちらの急襲に対応が遅れている。

 ……作戦通り。

 だが優勢に思えた状況は、すぐに改められることとなる。

「おい……」

「囲まれているのか……?」

 周囲の草むらから魔族達が続々と集まってくる。

 伏兵か。否。気配は無かったはずだ。ならば風車塔から飛び出た連中か。それにしては数が多い。

 ……まさか。

「こいつら……、氷の魔力持ちか……!」


   ※


「……では、最初の『アイススピア』が効かなかったっていうことでしょうか」

「いや。効いてはいただろう。耐えられた敵が多かった、ということだ」

 騎士ルーシェの分析に、メリルは愕然とする。

「氷の魔力に耐性があった奴等は2撃目、『サンダーストーム』が放たれる前に、すぐさま逃げ出したのだろう」

 潜んでいた魔族は、ほとんどが氷の魔力を持ち、それゆえ『アイススピア』のダメージを受け流したことで、仕留められると予想した数を下回ったのだ。というのが外に飛び出した魔族達の様子を見て、騎士ルーシェが推測したことだった。

「私が……、失敗……」

 思いの外ショックを受けている様子のメリル。

「いや。これは異常事態だ。君の責任では無い。こんなこと今までは無かった事例だ。とにかくまずは分隊を合流させるぞ」


 魔族は、少なくとも今までの調べでは、統一性という物が無いのが当たり前だった。魔力の属性や、種族の一致等、一定の法則に基づいて徒党を組むということは無かったことだ。

 今回のように氷の魔力を持つ魔物が多いから、氷の魔法で攻撃するのは止めよう。なんて考えは持つ必要が無いのが当たり前だった。

 だから、このような失策は有り得ない事態なのだ。


「まずはα分隊と合流する。ここは私も剣を執らせてもらう。さあ、行くぞ!」

「ほら、メリル。しっかりして」

「ど、どうしよう。私……」

「1回ミスしたくらいで何だよ! しっかりするんだ!」

 ショーマは動揺しているメリルを叱責する。

 責任感も自信も人一倍強い彼女だ。失敗に動揺を見せてしまうのも分かるが、これは……。

「ほら、行くぞ!」

 強引に手を取って駆け出す。まずはレウス達と合流する。孤立することになるセリア達が不安だが、ならばこそ急がねばならない。

「……!」

 駆け抜ける途中、魔力の流れを察知する。こちらに向かって――、

「危ないっ!!」

 視界の端に敵が見えた瞬間、メリルを押し倒して庇う。


「ぐ……痛……ってえ!!」

 右腕に激痛が走る。すれ違い様に二の腕から肩にかけてをやられたようだ。

(う、腕……、き、斬られた……。ヤバイ……。ま、まだくっついてる……?)

 初めて感じた痛みに、もしや腕を丸ごと斬り落とされたのでは無いかと思った。だが、自分の目で確認すると、そこまででは無い様子だった。

(あ、でもうわ、すげえ血……)

 まさに鮮血と呼ぶにふさわしい真っ赤な血が白いローブを染めていた。自分のことながら気が遠くなりそうだった。

「クッ……!」

 前を走っていて対応が遅れた騎士ルーシェが舌打ちする。すぐさま閃光のような斬撃で、襲撃した魔物を斬り伏せる。

「大丈夫か! 派手だが傷自体は浅いぞ。自分で治癒出来るぞ! 気をしっかり持て!」

「あ、はい……。大丈夫……」

 左手を右腕の怪我にかざし、治癒魔法を使う。すぐに傷は塞がった。

 治癒の魔法は、魔力を肉体の自己治癒力へ変換する。魔力が大きければそれだけ効果が増すのだ。

「ふう……」

「さあ、早く立ち上がれ。急ぐぞ。」

「は、はい」

 と、そこでようやくメリルを押し倒していたことに気が付く。

「あ、う……」

「あ、ごめん……。怪我とか、無いか?」

「う、うん……、平気。……あ、貴方、血が、」

 出血はもう無いが、服に染み付いた血が消えるわけでは無い。元々白いローブだったので、かなり目立つ。

「ああ、これはもう治療したから、大丈夫だよ」

「あ、うん……。また、私のせいで……」

「責任感じすぎだって。どうしてもって言うなら、みんなを助けてからだ。……良いな」

 またも動揺を見せるメリルに、少し語気を強める。

「……ごめんなさい」

「……ほら」

 もう1度手を取って起き上がらせる。

 メリルのこんな顔は見たくなかった。

「行くぞ」

 そのまま強引に手を引いて走り出す。

 ……皆は無事だろうか。


   ※


 γ分隊。ローゼの矢はここまで必中必殺を守り続け、今の所脅威は迫っていなかった。

「α分隊の方に敵が集中しているようです」

 ローゼはこの異常に気付きつつあった。『烈火迅』が氷属性の敵には効果的で、ここまで一撃必殺が出来ている。だがこちらが順調と言っても他の分隊がそうとは限らないのだ。案の定、地上の敵の動きを観察すると、すぐに仲間が危険に晒されているとわかった。

「え、じゃ、じゃあ、助けに行った方が良いんじゃ」

 その情報にセリアは動揺を隠せない。

「駄目です。ここを離れるわけにはいきませんし、かといってこれ以上隊を分けるのも危険です」

「あ、じゃあ、どうすれば……」

「β分隊がα分隊に合流して何とかしてくれるのを期待するしかありません」

「そんな……」

「信じましょう……!」

 ローゼは矢を放ち続ける。


   ※


 α分隊の3人はお互いを背にし、周囲を取り囲む敵に備えている。状況は危機と言って良かったが……、活路はある。

「どうするよ小隊長殿?」

「タイミングを合わせて一点突破を仕掛けよう。目標はβ分隊のいたあちらの方向」

 レウスは顎で目標方向を指す。2人も頷く。

「じゃあ、行くよ。……3、2、1、0!」

 号令に合わせて3人は駆け出す。周囲を取り囲んでいた魔族も一斉に襲いかかる。

「破ッ!」

 バムスが拳術技、『飛炎撃』を飛ばす。闘気を乗せて撃ち込むことで、拳のリーチを越えた一撃を叩き込む奥義だ。

 進行を妨げる敵をまずは1匹仕留める。

 続けてレウスが魔族の1匹に肉薄。素早く急所を突き刺し仕留める。そのままその肉体を盾にしてもう1匹からの攻撃を防いだ。

 剣に刺さったままの肉体を蹴飛ばして引き剥がし、襲い来る別の魔族にぶつけて足を止めさせる。

 出来上がった隙間を、3人は一気に駆け抜けた。最後にデュランは置き土産に槍の斬撃を地面に向けて凪ぎ払う。抉られた土が目潰しになり、さらにもう一瞬の隙を作る。

「行くぞ!」

 開いた包囲網を抜け、その勢いで駆ける。だが、

「……追って来ない?」

 不可解なことに、3人を取り囲んでいた魔族は彼らを追っては来なかった。

「……!? おい伏せろ!」

 巨大な影がレウスを覆う。反射的にその場に倒れ込と、それにわずかに遅れて巨大な腕が振り抜かれた。

「こいつ……!」

『アイスベア』。氷の魔力を持った熊である。分厚い脂肪と筋肉による防御と攻撃力を併せ持つ。氷の爪と牙で切り裂かれれば、傷口から氷の魔力が流れ込み体温を一気に奪い体の自由を奪う難敵だ。

「こいつと挟み撃ち、ってことか……」

 前には身長3メートルにも及ぶ巨体と、後ろには1匹1匹は大したこと無くとも、20弱はいようかという魔族の群れ。

「……うおおおお!!」

「ッ!? このバカ!」

 勢いにかまけてデュランがアイスベアに突貫をかける。だがそれは余りにも無謀であった。

「ッ!!」

 渾身の力を込めて突き刺す槍は、しかしその腹を貫くこと無く刃先が埋まるのみ。

「……ッ」

「バカ離せ!!」

 なおもその槍を押し込もうとするが、横凪ぎに振り抜かれた豪腕がデュランを襲う。バムスの言葉が耳に届くと同時、反射的に腕を槍から離し、頭と脇腹をガードする。

 だが威力を殺しきれるはずもなく、腕の骨は砕かれ、体は浮き、地面へと無惨にも叩きつけられた。

「デュラン!!」


   ※


「デュラン!!」

 ショーマが地面に叩きつけられるデュランに声を上げたのは、レウスのそれと同時であった。

「ショーマか! 早く治療を!」

「ああ!」

 アイスベアの脇に回ってデュランのもとへ駆け寄ろうとする。だが背後からの新たな襲撃者へ、アイスベアは破壊の豪腕を振り上げる。

「させるか!」

 バムスが果敢に接近する。渾身の闘気を込め左脛に強烈な蹴りを叩き込む。若干バランスを崩しただけに終わったが、こちらに注意を向けさせれば十分だ。

「急げ!」

「すまない!」

 倒れたデュランに駆け寄るショーマ。さらに彼の横を騎士ルーシェが駆け抜ける。

「有象無象は私がやる!」

 アイスベアと挟み込む形で展開していた魔族へと斬りかかる。

「冥剣技……『猛火覇斬』!」

 抜剣の勢いと共に噴き出される炎の斬撃が魔族の集団を凪ぎ払った。

「向こうは任せて、僕達はこいつを!」

「応!」

 バムスも声を張り気合いを入れ直す。アイスベアは槍の一撃を容易く防ぐ強敵であるが、バムスには策があった。


「デュラン! おいしっかりしろ!」

 気を失っている。ショーマは彼に呼び掛けながら傷の具合を確かめる。

(腕が……)

 骨が砕けて有り得ない方向にねじくれている。まずは骨の位置をを正常に戻す魔法をかけてから、治癒の魔法をかけなければならない。

 すぐさま魔力を練り始める。

「デュラン! デュラン!!」

 ……仲間が倒れている。それは思いの外、心には動揺が走るものだった。これこそが恐怖なのだと気付くには、少し時間がかかった。

 頭を振って気合いを入れ直す。骨の形は元に戻すのには成功。腕も正しい方向に伸びている。次はこれをくっつけ、一緒に出血も治癒する。

「……う」

 魔法が聞いたのか、デュランが呻き声をあげる。

「デュラン! 気が付いたのか! しっかりしろ!!」

「俺、は……」

「今治してる! 大丈夫だから!」

「お前、か……」

 デュランはまだ虚ろな目でショーマを見た。

「……俺は、ダメ、だった……。いけすかな、い……貴族の、連中に、なんか……、って、思っ、てた、くせに……」

 デュランは弱々しい調子で、想いを吐露し始めた。

「あいつら、だって……、勇敢に、前に立って……、戦って、いるのに、俺は……、こんな、無様を晒して、いるだけ、だ……」

「弱気になるなよ! お前らしくない……!」

「……俺らしくって、何、だよ……。……何だ、ったっけな……」

「デュラン……」

 デュランの傷は問題無く治ろうとしていたが、心はそうでは無かった。


   ※


 アイスベアは腹に軽く刺さっただけの槍を引き抜き、放り捨てる。その拍子にわずかに血が飛び散った。

「俺がやる。ヤツの気を引いてくれ」

「……わかった!」

 レウスはバムスの言葉を信じる。

 剣を構えアイスベアに迫り、だが斬りかからない。豪腕が迫る。だが避けることにだけ集中すれば、単純な攻撃であるがゆえ、その軌道はわかりやすい。凶悪な一撃ではあるが、難しいものでは無い。

 大振りな腕を戻し、第2撃を繰り出そうとする。その瞬間が好機だ。

 素早く接近するバムス。狙いは先程わずかにできた傷。

「――ッ!!」

 地面を抉る強烈な踏み込み、全身を使って振りかぶった渾身の一撃を叩き込む。狙い違わず傷口に突き立った拳先から、衝撃が脂肪と筋肉の鎧を伝わり、内臓で弾ける。

 さしものアイスベアもこの一撃には体がくず折れる。

 バムスは前のめりになり頭が下がったところを狙う。再び地面を抉り、ほぼ垂直の上方へ蹴りをぶちこむ。

 顎から衝撃が伝わり、脳を激しく揺らされたことで、ついにアイスベアは倒れた。

「……止めを!」

「ああ!」

 まだ絶命まではしていない。また起き上がられたら、次はこう上手くは行かないかも知れない。渾身の連撃を叩き込んだバムスは息が上がっていた。止めはレウスに任せる。

「ごめんよ……」

 ついそんな言葉を出してしまうレウス。しかし躊躇いは一瞬だ。喉元に剣を突き刺して絶命させる。血が吹き出し、氷の魔力の影響で青白く染まっていた体毛は褐色に戻っていく。魔力が消え本来の姿に戻ったのだ。

「こちらも片付いたぞ。何匹かは逃げ出した、劣勢を承知したのだろう。まもなく終局となるはずだ」

 騎士ルーシェが魔族の群れを蹴散らし戻ってくる。

「はい。ありがとうございます。……ショーマ、デュランは!?」

 騎士ルーシェには一言だけで礼を済ませ、負傷したデュランに駆け寄る。

「ああ、もう大丈夫だよ、一応は」

「そうか、ありがとう……。デュラン、すまない。無茶をさせた」

「お前が、謝ることじゃない。……俺が、俺の……」

「まだ戦いは終わっていないよ。さあ。……γ分隊に合流を急ぐ!」

 レウスはデュランの弱音を遮り、全員に号令をかける。レウスはその時になってようやく棒立ちになっていたメリルに声をかける。ショーマと一緒に合流した時から視界に入れていたが、彼女は何も出来ずにいるようだった。

「メリル、……どこか怪我でもしたのかい」

「……あ、いえ、それは大丈夫……。ごめんなさい。役に立てなくて。それに、最初の攻撃でも……」

「良くあることさ。あまり気に病まないでくれ。それより、急ぐよ」

 デュランにしろメリルにしろ、責任感が強いのは結構だが後悔してばかりもいられない。

 ……これは今後の課題かな。

 小隊長として、レウスはそう思った。


   ※


「来ました」

「え? あ!」

 ローゼが仲間の到着を確認する。

 γ分隊は、何度か接近を許すも、上手くセリアの魔法で迎撃できていたため、負傷は無かった。

「おーい」

 セリアが手を振る。α分隊、β分隊、騎士ルーシェ。全員無事だった。

「待たせてすまない。大丈夫だったか」

「ええ、問題ありません。そちらの方こそ」

 ローゼが代表して答える。彼女の冷静さがあったからγ分隊は無事だったのかもしれない。

「こっちは少しきつかったかな。……ちょっと異常事態が起きているみたいだ」

「ええ。こちらも何かおかしいとは思っていました」

「……。ルーシェ殿、ここは判断を仰いでもよろしいでしょうか」

 随伴騎士の存在はあくまで保険だ。戦闘や判断は基本的に小隊内で済ませなければならない。

 だがそれは作戦が予定通り進行するならの話だ。このような異常時には積極的に頼る判断も必要だ。

「うむ。よくこの場を調べれば何かわかるかもしれないが、それは君達に任せて良いとは判断しない。魔族もおおかた散っていったようだし、ここは……、ッ!?」

 騎士ルーシェは状況を見定めた結果、目標は果たしたとして撤退を指示しようとしたが、急な地響きが一行を襲った。

「何かいます……!」


 瓦礫と化した風車塔の残骸が盛り上がっていく。周囲の瓦礫を吸収して、それはさらに肥大化していく。

「あれは……」

「ゴーレムか!?」

 瓦礫の集合体はさらに巨大化し、手を作り足を作り頭を作り、ついには人の形を取った。周囲の土を取り込み体の外側に纏っていく。

 やがて、8メートルにも及ぶ土と瓦礫の巨人が出現した。

 ぱらぱらと自身を覆う砂をこぼしながらも巨大な足を振り上げ、こちらに向かって踏み出す。

「……精霊種もが、魔族に堕ちたというのか」


 精霊。人とも動物とも異なる幻想的な存在で、マナエネルギーによって肉体が作られていると推測される生物である。魔導エネルギーを注ぎ込むと、その者の意のままに操れるようになるため、同じく魔導エネルギーを持つ魔族達にも操られるのではと懸念されていた。


 魔族のねぐら跡から精霊が現れ、人間に襲いかかる。

 それは懸念されていたその時が来てしまったのだと言うことを意味していた。

2012年 03月01日

話数表記追加、誤字等修正

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