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ブランジア人魔戦記  作者: 長村
chapter,04
85/104

ep,081 教会騎士団騎士長カイゼルとの決闘 (1)

 カイゼルの踏み出した一歩に合わせ、ショーマも足を踏み出した。

 白く輝く剣を、降り下ろされる黒い剣へと叩き付けるように合わせる。

「……ッ!!」

 火花のように、極彩色に輝く魔力の欠片が飛び散った。

 同時にびりびりとした強烈な衝撃が、剣から指、そして全身へと伝わってくる。少しでも力を緩めていたら、一気に手から落としてしまっていたことだろう。

 衝撃の反動に乗って、一旦2人は距離を取る。

 そして再びカイゼルの斬撃。ショーマは再度自ら足を踏み出して、その剣を弾いた。


 神位剣ゼルグランドとの戦いにおいては、出来る限りその斬撃を避けないこと。打ち合わせること。それが重要だとステアから聞き知っていた。

 とは言え、避けずに受け続けることは楽なことではない。

 直接斬られるよりはマシであるが、その重い一撃は指を始め全身に衝撃を与えてくる。積もり積もればいずれ体力を消耗し、動きも鈍ってくることだろう。それはよくない。

 何より回避したことで相手に生まれる隙を突けないのは、戦いの選択肢を狭めてしまう。回避からの反撃ならこっちが一方的に有利だが、打ち合いでは互角だ。攻めには転じられない。

 となると受ける前にこちらから攻めていくことになるが、相手の実力そのものが上な以上、迂闊な攻撃は逆に反撃の機会を与えてしまうだろう。

 となれば、まずは様子見だ。相手の動き方をよく観察し、確実に攻められる機会を探す。

 攻撃を相殺しつつ、時間を稼ぐ。こちらの疲労は貯まるが仕方無い。そこはもう、気合いで耐え抜くまでだ。


「!!」

 斬撃がぶつかり合う度に、極彩色の火花が飛び散る。

 魔力そのものが刀身と化しているため、クリスセイバーは衝撃を受ける度にどうしてもそれを少しずつ散らしてしまうのだ。と言ってもそれは微々たるものだが。

 刀身の大きさや堅さは、練り上げられた魔力の強さに応じて変化する。異常な量と全ての属性を併せ持つショーマの魔導エネルギーで練られた魔力の塊である刀身は、自然、大きな刀身と強靭な硬度を兼ね備えていた。その力は神の位を持つ剣にもひけを取らない。

 それと合わせ、王族秘伝の高位魔法によって大きく身体能力を強化させた今のショーマは、教会騎士団最強の実力者と剣を交えられるだけの力を有するに至っていた。

 それでもまだカイゼルとの差は、贔屓目に見ても互角。

 何かしらカイゼルを上回れる手段を模索しなければ、じりじりと追い詰められていくだろう。だが、

(これからさ……!)

 ショーマの武器は、クリスセイバーだけではない。


 一方のカイゼルは、想像以上に善戦する少年の動きに密かに感嘆していた。

 使っている身体強化魔法のお陰だろうが、食らいつかれていることは事実だ。言葉を交わした時の印象では随分生意気で血気盛ん、自尊心ばかり一丁前と感じたものだったが、中々どうして力の差をかなり正確に理解しているようだ。ステア経由である程度情報が漏れているのは承知の上だったが。

 自分自身の力だけではどうにもならないと認め、他者の力や知識を頼ることが出来ている。自尊心の高い者には案外出来ないことだ。

 この少年は、本気で勝つつもりでいる。

(良いだろう。……ならば!)

 足元に力を込める。そして、一気に跳躍。

 単純な打ち合いをやめ、上空から攻撃を撃ち込む。

「!」

 この距離ならば斬撃は防げない。神位剣ゼルグランドの能力は発動出来る。

(本気ならば……、力を見せてみろ!)

 これを切り抜けることが出来たなら、ショーマは反撃の糸口を掴める。

 カイゼルは、実力を見定めに行った。


 高く跳び上がったカイゼルが、陽光を背に神位剣ゼルグランドを振りかざす。

(これは避けらんないだろ……!)

 ショーマは覚悟を決めてクリスセイバーに力を込めた。

 そして、斬撃が降り注ぐ。


 神位剣ゼルグランドの持つ能力は、『斬撃を実体化させる』こと。

 剣が空振った虚空には、その時振るった剣の『斬撃』がそのまま威力を減らすことなく残り続ける。

 何もないその虚空に触れた瞬間、その者の体には剣で斬られた際と同じだけの傷が発生するのだ。

 斬撃は形の無いものだ。目にも見えないし、耳にも聞こえない。あらゆる手段で探知が出来ない。これ以上無いほどに強力な仕掛け罠となる。

 また、残せる斬撃の数は、神位剣ゼルグランドの持ち主の技量に依存する。そしてカイゼルの腕ならば、ほぼ無尽蔵に残せる。

 カイゼルとの戦いにおいて彼の攻撃を避けるということは、そのまま斬撃をそこら中に残させてしまうことになるのだ。目に見えない斬撃が四方八方に設置されてしまうとなれば、もはやまともに動くことすら出来なくなる。

 防ぐ手だてはひとつ。神位剣ゼルグランドに空振りをさせないこと。斬撃を残される前に剣と剣を打ち合わせれば衝撃は消える。だからショーマは必死に自分から攻めいったのだ。

「はぁあッ!!」

 だからカイゼルはそれをさせない為に跳んだ。斬撃は残せるだけではない。放つことも出来る。

 闘気を操っても似たようなことは出来るが、大なり小なり威力は減少してしまう。神位剣ゼルグランドの真価は、通常の斬撃とまったく変わらない威力で放てることにこそあった。


「……くっ!」

 ショーマは敢えてその場を動かずに、攻撃を見切ることに集中することにした。魔法のお陰で動体視力も上がっているが、見えざる斬撃を防ぐことは難しい。微かに感じる魔力の気配や風の流れを何とか読み取って、降り注ぐ斬撃の位置を予測する。

 感じ取れた斬撃は1つだけではなかった。4つ、いや、5つ。

 だがショーマを狙ってくるのは1つだけ。

 タイミングを合わせてクリスセイバーを振り払い、それだけを確実に迎撃する。

 激しい金属音に似た音が響き、腕に衝撃が伝わってくる。成功だ。

 それからわずかに遅れて、周囲の地面に斬撃の跡が4つ発生した。

(あぶなっ……!)

 もし慌ててどこかへ逃げようとしていたら、あれが体を斬り裂いていたことだろう。迎撃することで正解だった。

 それにしてもやはり、厄介な能力だ。

 だが今は、絶好の機会が目の前にある。

 カイゼルが上空から落下してくる。どうしたってその瞬間は少なからず隙が出来るものだ。

 仕留められるとは思わないが、そのつもりで足を踏み出し、斬りかかる。


(切り抜けたか……!)

 カイゼルも着地を狙われることは承知の上だった。着地から素早く体勢を整えて、ショーマの斬撃を受け止める。

「む!?」

 だがカイゼルはわずかに驚きを見せた。受け止めたはずの斬撃が、そこから少しずつ重さを増していったからだ。


「……うおおおッ!!」

 ショーマがクリスセイバーに力を込める。刀身を形成するのに必要な魔導エネルギーを過剰に注ぎ込むことで、その質量が更に増大していく。

 それに加え、刀身に納まりきらなかった魔導エネルギーが勢いよく溢れだし、降り下ろされる方向とは逆に噴射され斬撃の勢いを加速させていた。


 さしものカイゼルもわざと作った隙とは言え、こうも見事に攻められるとなると自分の判断ミスを認めざるを得ない。

 押されながらも、膝を曲げて姿勢を低くし、強引に均衡を崩す。

「!」

 ショーマのバランスが崩れた所で、そのまま後方に跳躍、距離を取って構え直す。流石にこの体勢から反撃は出来ない。

 体勢を立て直し、再び接近するため脚に力を込める。だがその瞬間、足元に魔力の流れと重さを感じた。

「……!」

 ショーマの放った魔法『サンドバインド』であった。

 足元の砂が意思を持ったようにまとわりつき、行動を妨げている。

(小癪な……!)

 カイゼルは力を込めてそれを振りほどこうとする。だが粘りを持った砂は、中々思うように離れてはくれない。

 逆に言えば拘束力自体は強いものではない。この隙に斬りかかられても踏ん張りをきかせて耐えることは可能だろう。

 冷静に対処すれば問題はない。そう判断した。

「!?」

 だがそれもまた判断ミスであった。ショーマの次撃に対し、反応が一瞬遅れる。

 カイゼルの周囲に、猛烈な竜巻が出現した。周囲の視界が遮られていく。

「これは……!」

 上級魔法『サンダーストーム』。カイゼルは剣による攻撃ではなく、魔力による雷撃の猛攻を竜巻の中で直撃させられることになった。


「こっちの方が得意分野でね……!」

 ショーマは雷音が響き渡る中、そっと呟いた。

 そして更に畳み掛ける準備を行っていく。竜巻の上方に向けて術式を展開、同じく上級魔法『バーニングブレイド』を発動。未だ雷鳴を轟かせている竜巻の中へ、燃え盛る紅蓮の巨大剣を射出した。

 竜巻の中に爆炎が吹き上がる。轟音と黒煙が吹き上がった。

 それから少し経って竜巻が消滅してもなお、赤く燃え盛る炎は燃え続けていた。

(けど、こんなもんじゃ終わらないよな……!)

 ショーマはクリスセイバーを握り締める力を更に込め、気を引き締めた。

 どうも強い奴というのは非常識な丈夫さを持っているものだと、身をもって知っている。


 周囲の観衆達のざわつく声が広がっていく。だがそれはあくまでショーマの善戦ぶりに向けられているものだ。彼らもカイゼルの敗北は、疑っていない。

「!」

 風が巻き起こり、炎が消し飛ばされていく。

 そこには白いマントをたなびかせて立つ、カイゼルの姿があった。

 軽く息は乱れているが、負傷らしい負傷はない。

「…………」

 ショーマはクリスセイバーから片手を離し、呼吸を整えているカイゼルに向けた。

 やがて魔力で形成された氷が手のひらの先から生まれ、鋭く伸びていく。『アイススピア』が射出の準備を完了した状態だ。

 しかしカイゼルは動かなかった。

 ショーマは少し考え、その意図をなんとなく察した。

 氷の槍が、ショーマの手のひらから勢いよく飛んでいった。それはカイゼルの胸元に目掛けて一直線に飛んでいく。

「……!」

 そしてカイゼルはそれを、純白のマントで受けて防いだ。

 柔らかい布にぶつかった氷が、勢いよく砕け散った。

「なるほど」

 つまりただの布ではなく、高い対魔力を持ったマントというわけだ、あれは。ステアの物もそうなので予想はしていたが。

 先程の『サンダーストーム』も『バーニングブレイド』もあれで防がれたのだろう。……わざわざ教えてくれたらしい。

 対策を考える。あれが普通のマントならば、剣で切り裂いてしまえばどうにでもなるだろう。だがこのクリスセイバーでは、魔力で刃を形成した剣では、防がれてしまうかもしれない。

 では、どうするか。

 対魔力と言っても限度はあるだろう。懲りずに何発も魔法をぶちこめば、いつかは使い物にならなくなるかもしれない。しかしそれを許す相手だろうか。

「……考える暇まではやらん」

「!」

 ショーマの思考を読んで、カイゼルが再び接近し斬撃を振り下ろしてきた。かろうじて受け止める。

 ショーマは反撃のため押し返したが、予想外の軽さに思わずつんのめる。カイゼルが再び自ら後方に跳んだからだ。

(やばっ)

 再度距離を取ったカイゼルが、神位剣ゼルグランドを構え直すようにその場で3度ほど振り回した。

「!」

 それからその場を離れるように、横方向へ駆け出していく。

(……残ってるんだよな)

 斬撃が残されたであろう、何もない空間を意識して覚えておく。既に設置された斬撃を後から探知することは難しいが、設置された瞬間を目撃出来れば存在していることは認知出来る。

 集中すれば魔力のような気配を感じられるが、カイゼルの方に意識を集中させて立ち回っていたら、つい気付くのが遅れて食らってしまうこともあるかもしれない。

 ああやってそこかしこに斬撃を設置されてしまうと、行動が制限されていく。見えない罠を警戒して動きを鈍らせれば、そこへカイゼル本人からの攻撃が来てしまう。

 改めて厄介な能力であることを、ショーマは実感していた。

(それでも……!)

 それでも、それくらいで諦めたりはしない。


 ショーマはその場から動かず、連続で『アイススピア』を飛ばしていく。足を止めたカイゼルは斬撃を飛ばしてそれを迎撃。またその場にいくつかの斬撃を置き残すと、再び駆け出した。

(あれ?)

 そんなカイゼルの行動に、ふと疑問を抱く。先程はまるで見せつけるようにマントで魔法を防いだのに、今度は剣で迎撃した。

 やはりマントの対魔力にも限界があるということなのだろうか。ずっと攻め続ければ、あの防御を突破出来るかもしれない。それをされたくないから迎撃したのかもしれない。

 しかしそれでは先程の行動がつまり、カイゼル自身の弱点をわざとショーマに晒したということになる。……舐められている、のだろうか。

 わずかに怒りをためて、しかしすぐに落ち着く。怒りを誘発して隙を作ろうとしているのかも知れないからだ。

 ここは冷静に行く。まずはああやってそこかしこに斬撃の罠を設置されないようにするべきだろう。


 ショーマは身を屈め地面に手をついて、別の術式を展開していった。

 中級魔法『ロックウェイブ』。砂を硬化させ岩のようにし、それを津波の様に吹き上げさせていく魔法だ。

「!」

 迫り来る岩の波を、足元の揺れにも耐えながら迎え撃たなければならないカイゼル。足を踏みしめ、大きく剣を構える。

「……ハァッ!!」

 そして気合い一閃、闘気を込めた斬撃を振り抜いた。

「……!?」

 振り抜かれた巨大な斬撃が、岩の波を押し返していく。

 神位剣ゼルグランドの能力は斬撃をそのまま残す、もしくは飛ばすこと。それは剣だけの能力だ。

 つまり、その上にカイゼルの持つ闘気を乗せて威力を増すことも可能だということである。

 普通に闘気を斬撃のように固め飛ばす技は存在する。しかしそれは闘気のみによる攻撃だ。斬撃に闘気を乗せれば、威力は上がる。

 神位剣ゼルグランドは、それを飛ばすことが可能なのだ。

「くっ!」

 ショーマは押し返される岩の波と巨大化した斬撃を防ぐため、今度は『ストームウォール』を発動し、それらを強引に押し止めていく。

 風の壁に阻まれた岩が砕けて散る。それらは砂埃となり、視界を遮っていった。

「……負けるかッ!!」

 ショーマはクリスセイバーに力を込める。

 そして『ストームウォール』に向けて、振り下ろした。


 風の壁と岩の波を、白く輝く剣が斬り裂いていく。

 すると、

「!?」

 風と岩を構成する魔力が分解され、クリスセイバーに飲み込まれていった。

 同じ持ち主から生まれた魔力ゆえ、起きたことである。

 外部から更に魔力を吸収したことで、クリスセイバーはその刀身を構成させる魔力を増大させ、数メートルほどにまで巨大化させた。

「げっ」

「……!?」

 所有者のショーマ自身も考えなかった現象に、カイゼルは目を見開いた。巨大な剣の一閃が、放たれた斬撃を容易く打ち消しながら迫ってくる。

「くっ!」

 とは言えそれを簡単に食らうほど甘くはない。身をよじって回避し、その隙にショーマへ迫る。

 先程放った『バーニングブレイド』よりも更に巨大な剣と化してしまったクリスセイバーを避けられ、ショーマは隙を作ってしまう。

「……このッ!」

 だがそう易々とは終わらない。巨大化して地面に沈んでいるクリスセイバーを、そのままカイゼルの迫る方向へと振り抜いていく。

 地面を削り土埃を巻き上げながら、カイゼルを狙う。

「……!!」

 カイゼルの攻撃が届くのが速いか、ショーマの悪あがきが届くか。

 ぎりぎりの状況で、カイゼルは攻撃をやめ防御体勢を取った。

 足を止め、神位剣ゼルグランドをクリスセイバーに叩きつける。

 勢いはショーマのクリスセイバーが勝っていた。カイゼルは鍔迫り合いの状態のまま、後方に地面を滑っていく。

「おおおおッ!」

 ショーマは意識を集中し、クリスセイバーの刀身を構成する魔力を、一気に一点から噴射させ斬撃の勢いを加速させた。

 先程吸収した魔力は刀身を無駄に巨大化させているだけだ。使いようはあるが、使いやすくはない。元の大きさに戻すついでに、攻撃に転化させる。

「……ふっ!」

 押し合いをしていたカイゼルが、突如脚に力を込めた。

 ショーマはまた姿勢を崩されないようにと警戒する。

 と、予想通り、カイゼルは鍔迫り合うクリスセイバーを地面に押し付けるよう巧みに動かし、その反動で跳躍した。

(またかよ!)

 上方からの攻撃を警戒し、今度は先制攻撃を仕掛けようとする。

 術式を展開し、魔力を込めようとした瞬間、

「!?」

 手にしていたクリスセイバーが輝いた。

 そしてそこから、術式に魔力が流れ込んでいく。

(……そうか、これ!)

 理解する。

 先程までは、自分の体内にある魔導エネルギーと、大気中のマナエネルギーをいちいち掛け合わせて魔力を練り上げてから、魔法を発動していた。

 しかし魔力なら、既に用意されていたのだ。

(もっと早く気付けよな俺……!)


 術式を展開し、魔力はクリスセイバーから供給してやれば、魔法の発動までの時間を短縮出来たのだ。

 魔力を消費したクリスセイバーは、魔導エネルギーを込めるだけですぐ元通りになる。先程刀身を巨大化させてしまった件といい、この剣の性能を完全に理解出来ていなかったと反省する。

 相手のことばかりではなく、自分のことももっと知っておかなければいけなかった。


(手遅れになる前に気付いて良かったよ……!)

 そしてショーマは、まず発動した『バーニングブレイド』に続け、同じ術式を更に2つ同時展開、クリスセイバーから魔力を注ぎ込む。

 計3つの『バーニングブレイド』がほぼ一瞬の内に発動した。そしてそれらは連続して射出され、上空のカイゼルを貫かんと炎の尾を引いて飛翔した。

「ッ……!!」

 カイゼルは驚きながらもそれらをまず1つ、渾身の一撃でもって迎撃する。爆発が起こり、その勢いで更に上空へ飛ばされた。

 遅れてやって来た2つ目も、体を捻り同様に迎撃。しかし流石にこれで、大きく体勢を崩す。空中では建て直しも難しい。

 3つ目は、マントで防ぐ。熱は遮断されるが、風圧は食らってしまう。更に勢いよく飛ばされ、そのまま地上へ落下していく。一瞬意識が飛びかける。

「……おおおおッ!!」

 だが着地の寸前に叫び声を上げ、強引に呼び戻す。そこから半ば無心で着地体勢を整えつつ、この隙を狙って仕掛けに来たショーマの斬撃を受け止める。

「な……!」

 ショーマはそのカイゼルの動きに思わず驚愕する。ほぼ意識が無い状況で、こうも見事に着地と防御を成功させるとは思わなかった。


 ぎりぎりと、白く輝く剣と真っ黒な剣が鍔迫り合う。

 時折火花にも似た魔力の欠片が飛び散っていく。

 そんな中、言葉を紡いだのはカイゼルであった。

「さて、こんな所か? ……お互いに」

「!?」

 ショーマはその言葉で、ようやく理解する。

 これまでの攻防は、手の内を探るためのものしかなかったと。

 それはショーマにとっても、カイゼルにとっても。


 これは『真剣』な戦い。

 互いに能力を包み隠さず、全てさらけ出してからこそが、本当の始まりなのだ。

 ようやく、理解した。

 ここからが、お互いに持てる全てを出し尽くす『決闘』なのだと。

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