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ブランジア人魔戦記  作者: 長村
chapter,03
46/104

ep,044 蹂躙の魔人ベゼーグとの戦い (1)

 グランディスと別れ王女フェニアスの自室へと向かったレウス達は、そこで王女を守る親衛騎士達と、なぜか一緒にいたグルアー・ドラニクスに出会った。

「グランディス殿から護衛を手伝えとの命令でこちらに参りました。……ご無事で何よりです、王女」

「ええ。力を貸してくれること、感謝します」

「それで、グルアー殿はなぜここに?」

「ん? いやなに、新しく親衛騎士隊に配属されることになってね。そのご挨拶に」

「はあ、そうでしたか……」

 意外な話ではあるが、ここはあまり深く気にせず納得しておく。

「グルアー殿。こちらは大丈夫ですので、どうか父上の救援に向かってはいただけませんか?」

 フェニアスがグルアーに声をかけた。

「……私は親衛騎士ですよ?」

「今は非常時。貴方ほどの力はここで持て余しておくべきではありません。……それに、正式な任命はまだです」

 フェニアスは先程からグルアーが落ち着きなさそうに、足で床を叩いていることに気付いていた。

「……やれやれ。ではありがたくそうさせていただきます。レウス君、後はよろしくっ!」

 グルアーは恭しく頭を下げると、勢い良く駆け出していった。俊足には定評のあるグルアーだ。すぐに王の元へ辿り着くことであろう。

「……何か、嫌な予感がするのです」

「……?」

 残ったレウス達はフェニアスと共に、窓から市街の様子を見下ろす。あちらはまだ静かなままであった。


   ※


 そして王の自室前に到着したグルアーは、力を共有する契約を交わした地竜、エイメラとメラーダと共に、魔人アーシュテンへと攻撃をかける。先んじて交戦していたショーマは、一旦距離を取って様子を窺うことにした。

 まずエイメラに騎乗したグルアーは、身軽なメラーダに先行させる。迎え撃つアーシュテンは鋭い牙で噛みつこうとするメラーダを避けて、すれ違い様に蔓を叩きつける。

 しかしメラーダは背中に眼が付いているかのごとく、その攻撃を見もせずに回避した。

 グルアーとの契約によりある程度の五感までもが共有されているため、メラーダは見ていなくともグルアーが見ていれば、その攻撃は回避することが可能だったのだ。

 蔓を回避したメラーダは首を捻り、伸ばされた蔓に噛みつく。そしてそのまま体ごと頭を振るい、アーシュテンの体を引き寄せた。

 そして体を反転させ、強靭な尻尾を叩きつける。

「……!」

 その勢いで石造りの壁に叩きつけられるアーシュテン。そこへ今度はグルアーを乗せたエイメラが接近する。

 壁にもたれたままのアーシュテンからエイメラの足元へ、払うように迎撃の蔓が振るわれる。グルアーは背を蹴って飛び上がると同時に、エイメラの召喚だけを解除する。

「……ッ」

 攻撃を回避したグルアーは、両手の剣に風の刃を纏わせていく。

「覚悟!」

 そのまま落下の勢いに乗せてアーシュテンへと降り下ろした。

「……ふん」

 だがアーシュテンは髭をわずかにつり上がらせて笑うと、その攻撃を空間転移で回避する。その能力を未だ目にしていなかったグルアーは虚を突かれ、一瞬の隙を作ってしまう。

「……ッ!」

 気配を感じ、背後から突き出された蔓を何とか急所には当たらないよう、体を捻る。

「ぐっ……!」

 脇腹に刺さった蔓の痛みを耐えながら振り返ったグルアーの視界に、醜悪な笑みを浮かべたアーシュテンの顔が映る。

「!?」

 ……そして、その背後から迫る、鬼気迫る形相の少年も。

「だあああッ!!」

 ショーマが空間転移直後のアーシュテンに斬りかかっていた。

 何度かの斬り結びにおいて、連続で空間転移を使うことは出来ないと推測していたのだ。つまり、転移直後ならば回避は出来ない。

「……!」

 魔法で加速された斬撃が、アーシュテンの首を両断しようと迫る。

 無数の蔓が伸びて鎧のようにアーシュテンの首周りを覆っていき、剣の勢いを打ち消していく。そして、剣の刃が蔓を断ち斬り首の半分ほどまでに到達した所で、その動きは止められる。

「餓鬼が……ッ!」

 憤怒と憎悪がこもった声が発せられた。

 人間ごときにしてやられたアーシュテンの、怒りの声だった。

 その隙にグルアーの剣が腹部に突き立てられ、さらに背後からは、グランディスの『バーニングナイブズ』が次々と突き立てられる。

「……おのれッ!」

 直後再び空間転移を行い、それらからまとめて脱出を兼ねて、どこかへとアーシュテンは姿を消した。

「ぐあああッ!!」

 王の自室の方から苦悶の声が響いた。

 ショーマ達は急いでそちらへ駆けつける。

 近衛騎士の内2人が、アーシュテンの蔓によって体を貫かれていた。そしてさらにアーシュテンは、王の体を縛り付け首筋に鋭い爪を突き立てようとしていた。

「貴様!」

 王を人質に取られ、グランディスが叫ぶ。

「……こやつは私の命を奪うことは無い! 私に構わずやるのだ!」

 首筋に爪を押し当てられ今にも命を奪われかねない王は、しかし気丈に叫んだ。

「あまり調子には乗らないでいただきたいですな……」

「……ま、魔族の脅しなどには屈しぬッ!」

 冷や汗を浮かべ体を震わせながらも勇ましい王に、アーシュテンは不気味に笑った。

「おやおや……。ではこれを聞かされてもそんな口が聞けますかな?」

「……ッ?」

「……我々はユスティカ一族の封印した、呪われし『真実』を知っている、と」

「……な!?」

 アーシュテンの発した言葉に驚愕の表情を見せる王。そしてそれを見て眉をひそめるグランディス。

「これが知れ渡れば、貴方は愛する民達の王ではとてもいられなくなる……。そうですね?」

「……なぜ、貴様らが……」

 王は冷や汗を浮かべて声を震わせる。

「出会ったからですよ。その『真実』そのものに」

「まさか……」

「……ふ。ではそろそろお暇させていただきますよ」

「ま、待て……!」

「……異界人よ、この傷の恨み覚えておくぞ」

 アーシュテンは王を突き飛ばすと同時、空間転移によってその姿を消した。

「待てッ! アーシュテン!」

 ショーマは叫ぶ。しかし長距離を跳んだのか、その気配はもう感じられなかった。

「……陛下!」

 膝をつく王に駆け寄る近衛騎士達。グランディスも周囲に気を払いながら、同じように王へ駆け寄った。

 そしてメリルは、息を上げているショーマに声をかける。

「……大丈夫?」

「ん、ああ……。ちょっと、反動があるみたいだ」

 ショーマは身体強化魔法『マイティドライヴ』を解除する。強化されていた体が急に元に戻され、鈍い痛みが身体中を襲う。

「おーい、お兄ちゃんのことは無視かい」

「……グルアーお兄様は元気そうでは無いですか」

「おっと妹が冷たい。一応怪我してるんだよ? もう自分で治したけど」

「……結局あの魔人も取り逃がしてしまったし」

「ふぅ。……あれを討伐するならもっと入念な下準備がいると思うよ。いや何となくだけど」

「……?」

 グルアーはアーシュテンの戦いで感じたことを語り出す。

「あの空間転移、不思議な魔法だね。僕らの竜召喚に形こそ似ているけど、やはり根本的に違う感じだった」

 竜操術によって行われる契約竜の召喚は、魔力体に変換された竜を実体化させるもので、竜の肉体そのものを別の場所に転移させているわけではない。

 だがアーシュテンの転移はそうではなく、肉体を丸ごと別の場所に転移させていた。

「……あれも、やはり魔法なんですか?」

「みたいだね。……兄上ー、私はそろそろ戻ってよろしいでしょうかね」

 王の自室にいるグランディスに了解を取ろうとするグルアー。

「ああ、その2人も連れていってやってくれ。私は陛下の傍にいなければ」

 それにグランディスは顔を出して答えた。

 確かにショーマとしてもアーシュテンを取り逃がした以上、仲間の元へは早く戻りたい所だった。


   ※


「ざっと相手をしてみた所……、あの空間転移は連続使用は出来ないっぽいのかな」

 王城の廊下を進みながら、3人で先程の戦いで感じたことを伝えあう。

「そうみたいです。俺が相手をしてる時もそんな感じでした」

「ふむ。それと、長距離を転移する時は溜めが必要なのかもな」

「……わざわざ王を人質に取っていたからですか?」

「うん。会話の内容からするに単なる脅しともとれるが、あれは時間を稼いでいたように見えたね」

 そこでメリルはまた別の考えに至る。

「会話と言えば、あの魔人の言っていた『真実』ってなんなのでしょうね」

「察するに王様には隠しておきたいことみたいだけど。つっつくのはやぶ蛇な予感がするよ」

「王でいられなくなる、ですものね……」

 考えても答えは出るわけもなく、やがて3人はフェニアスを連れて大広間へ避難してきていたレウス達と合流した。


「王女。陛下はご無事でした。賊も討伐は叶いませんでしたが、追い返すことは出来ました」

 グルアーがフェニアスに報告する。

「そうですか、良かった……。貴方がたも無事で何よりでした」

「痛み入ります」

 一方、レウスはショーマとメリルに声をかける。

「……奴は、逃がしてしまったか」

「ああ……」

「そうか。まあみんな無事で良かった。グランディス殿は、陛下とご一緒かい?」

「ええ。いずれこちらにもおいでになると思うけど……」


 その時、城の外、市街中心の方向から鈍い地鳴りが響いてきた。

「今度は何だ……?」

 ショーマや騎士達は窓際に駆け寄り様子を見る。

 市街の建物のいくつかが倒壊し、大きな土煙を上げていた。

「市街にも現れたか……!」

 魔族による宣戦布告があったその日に良く似た状況だ。

「……行こう!」

 ショーマが声を上げる。それに対してレウスは苦言を呈した。

「しかし僕らは命令を受けていない。そういうわけには……」

「そんなのもうどうでも良いだろ」

 しかしショーマは否定する。

「ああ、そうか。……そうだったね」

 この日ショーマ達は、騎士になることをやめて独自に行動するための話をしに来ていたのだ。

 ちょっと順番はずれてしまうが、もう騎士団の命令をいちいち気にすることもないのだ。

「……じゃあ、ここでお別れだね」

 レウスはデュラン達に顔を向けて言う。

「……本気なんだな」

「ああ。……良いよね?」

 一応、言い出したショーマ以外の2人にも確認する。

「ええ、もちろん」

「うん……!」

 騎士になる道を選びたいというデュラン、バムス、フィオン、ローゼ。

 それを捨ててショーマと共に行くと言うレウス、メリル、セリア。

 一緒に小隊を組んで、長いようで短い日々を、戦場を、共に駆けてきた仲間だが、それは今ここで解散となる。

 はずだったのだが。


「グルアー殿」

「ん、何かなレウス君」

「我々レウス、ショーマ、メリル、セリアの4名は今この時、騎士士官学校を自主退学致します」

「ええ?」

「後で正式な手続きは行います。了承を取っていただくだけで結構ですので」

 上官にあたる人物がすぐそばにいるのに、命令を仰がずにこれから戦闘行動を行おうとしている。それは騎士団の規律に違反する行為だ。

 既に除隊しているなら話は別だが、それはそれで除隊許可を取る必要がある。候補生はまだ学生なので、この場合は士官学校を退学するという形になる。

 事後に手続きを行う場合でも、その時に責任ある人物から了承を取っておく必要があるのだ。この場合、元大隊長であるグルアーなら十分適切だ。

「あそこに行きたい気持ちはわかるけど、騎士を諦めるほどか? 確かに君達はあそこに行かせないつもりだったけどさ」

 グルアーは彼らの意思に困惑する。

「それだけの理由では無いのです」

「……?」

「私からもお願いします」

 渋るグルアーに、フェニアスが後押しした。

「王女までですか……」

「彼らには私にも大きな借りがあります。どうか自由に」

「あーもう……。いや、やっぱ聞けん」

「……そんな」

「その代わり、君達の小隊には正式に市街防衛増援の命令を出す。……本当にやめるかやめないかは、もっとちゃんとした場所で決めなさい」

「……あ、ありがとうございます!」

「あと、……ちゃんと無事に戻ってこいよ。危険な無茶はしすぎないこと。……これは命令じゃなくて人生の先輩からの助言なので、絶対守るように」

「はい! ……では、行こう!」

「ああ!」

 こうしてグルアーのちょっとした責任逃れの気持ちから、第1小隊の解散はもう少しだけ引き伸ばされることになった。


   ※


「はぁっはは!」

 王都市街南東区画を横断し、立ちはだかるものを人間、建造物問わず、次々と蹂躙していく魔人ベゼーグは高笑いを上げた。

「歯ぁごたえがねえぞ!」

「ぐぅっ……!」

 立ちはだかるボーダ中隊長が苦悶の表情を覗かせる。

「これ以上はやらせるか……!」

 ベゼーグの周囲に風が巻き起こり、そこから中心地へ向けて次々と雷撃が叩き込まれていく。ボーダ中隊長が放った『サンダーストーム』だ。

 だが。

「駄ぁ目だなああッ!」

 ベゼーグはその風をぶち破り突撃を仕掛けてくる。

「……がぁっ!!」

 その剛腕が振り抜かれ、ボーダの腹部に突き刺さる。肉にめり込み骨が砕ける音が2人の間に響いた。そしてその勢いでボーダは騎士達の展開するバリケードへと突っ込んでいった。

「おらおらぁ! 次は来ねえのかッ!」

 余裕の笑みを浮かべ、ベゼーグは騎士達を挑発する。

「……撃てッ!」

 その挑発に、ルインズ中隊長の率いる魔導師達が一斉に魔法を撃ち込む。

「効ぃっかねえ……、なああぁ!!」

 だがベゼーグは剛腕を振るい次々と炎の弾を、氷の矢を、雷の槌を叩き落としていく。

「ん!?」

 そこへルインズの放った『フローズンブレイド』が放たれる。一際巨大なその氷の剣にはさすがのベゼーグも面食らい、両腕で受け止めようとする。そしてその腕に氷の魔力が伝わり、そこから全身を凍りつかせようとしていく。

「ほぉう……? 少しは面白え。……が! 駄ぁあ目ぇだぁなぁあああ!!」

 ベゼーグは全身の筋肉を隆起させ、身体中を覆う氷をまとめて打ち砕いた。

「!」

「もぉうちっと歯ごたえのある奴ぁいねぇえのかッ!?」

「おのれ……!」

 尚も挑発を行うベゼーグに、下唇を噛むルインズ。


 その時、人垣の隙間を縫って疾走する影が、3つ。

 まず先行した1人が、ベゼーグの懐へ飛び込んだ。

「お!?」

 その者は魔力を円錐状に纏い、その身をさながら1つの槍のようにしながら突撃を仕掛けた。

「こいつぁ……、いや!?」

 両腕を交差してその突撃を耐えるベゼーグは、先日の襲撃で自らに挑みかかり、命を奪っていった男を想起し頬を吊り上げる。

 だが、違う。赤い魔力を纏ったその男は、もっとずっと小柄だった。

 ショーマの放った『マイティドライヴ』にて身体能力を向上させた、デュラン・マクザスであった。

「ほぉう……!」

 意外な強敵の気配に、ベゼーグはほくそ笑んだ。

 それを見てデュランは一気に後方へ跳んだ。何のつもりかと警戒するベゼーグの後頭部に、激しい衝撃が走る。

 同じく『マイティドライヴ』を受けたバムスの飛び蹴りが延髄にぶちこまれたのだ。

 気配も無く打ち込まれた攻撃にベゼーグはたたらを踏む。勘に任せて後方へ腕を振るったが、難なく回避される。

「チッ! ……!?」

 さらに上方から第3の影が現れる。

 レウスは強化された筋力と魔力噴射、そして落下の勢いを乗せて、雷を纏った剣を降り下ろす。聖剣技『雷旋大覇斬』。巨大化した雷の刃がベゼーグに叩き付けられる。

「ぐおおぁあああ!!」

「……どうだ!」

 雷撃を浴びたベゼーグの動きが止まる。レウス達は距離を取って慎重に様子を窺った。

「…………ふふ、はははははは!!」

 ベゼーグはゆっくりと高笑いを上げ始めた。

「良いぃぜぇ! ちょっとはぁ楽しめそうだ!!」

「……ちっ!」

 獰猛な笑みを浮かべ両手を広げるベゼーグ。そこへレウス達は、再び攻撃を仕掛ける。

 

 速度と重さと正確さを兼ね備えた3人の波状攻撃を、しかしベゼーグは的確に捌いていく。こちらが強ければ強いほどに、この者もまた強くなるようであった。

「良く見りゃお前らぁ、あの異界人の仲間かッ! ハッ、……あのガキは殺すなって言われてるが、別にお前らはどうこうすんなとは言われてねえんだぜ!?」

「……!」

「精々たぁあのしませてくれよおおおお!?」

 咆哮するベゼーグ。それに対し3人は顔を見合わせ頷き合う。

 タイミングをずらしながらそれぞれ駆け出し、すれ違い様に一閃を浴びせる。そしてその度にまた素早く距離を取っていく。反撃の的を絞らせない連続攻撃だ。

「ちょこまかと……!」

 苛立ちを見せるベゼーグ。頃合いと見て3人は攻撃を止め、今度は距離を取る。

「!?」

 そこへ今度は、ショーマ達の放った魔法が次々と撃ち込まれていく。それを見たルインズの中隊も、続けて魔法を放った。

「ぬう!」

 激しい爆撃に、さすがに身を固めるベゼーグ。市街に被害も及んでしまうが、既にベゼーグによってかなりの被害が出ている。大して変わりはすまい。


 そしてそんな事態になっていれば、多少離れていようが事態は目につく。

 ……そこに奴はいる。そう察しを付けた男は、その場へと向かって高く跳躍した。

 高空から爆撃の中心にいるベゼーグを確認した男は、歓喜の声を上げたのだった。


「会いたかったぜぇえええああ!!」

 黄金の装飾が施された剛槍を構え、獅子槍将軍ヴォルガムは地上へ向けて突撃を仕掛けた。

「!!」


 爆撃の中心に飛来した黄金の輝きを目にした騎士達は、魔法の手を止めた。

「……どこ行きやがったかとずっと探して回ってたが、まさか貴様の方からまたここに現れるとはな……!」

 吹き上がる土煙の中から、剛腕で受け止めるベゼーグと、剛槍を突き立てようとするヴォルガムが現れる。

「おう。俺もお前とぉまた殺し合いたいと思ってた所だ。……活きの良いのもいるみてぇだがあ、やっぱりお前をぶっ殺してからじゃあねえとノリが悪い……!」

 好敵手に出会えて、嬉しそうにニヤリと笑みを浮かべるベゼーグ。

「……貴様はロウレンの仇だッ!! この俺が殺す!!」

 しかしヴォルガムはそんな言葉など耳に入れず、ただかねてよりの戦友を無様に殺害されたことへの恨みにうち震えていた。

「あん? ……あのジジイなら俺じゃあねえぜ?」

「知ったことかァ!! 貴様は8回どころか1000回ぶっ殺したって足りやしねぇんだッ!!」

「ハハッ、まあ何だって良い。やる気になってんならなぁ!!」

 腕と槍を弾き返して距離を取ったベゼーグは、獰猛に牙を剥いて笑った。

 対するヴォルガムも、黄金の闘気を吹き上げて野獣のような雄叫びを上げた。

「……グゥオオぉぉおおああああ!!」

 やがて吹き上がる闘気は凝縮されヴォルガムの身に集っていく。

「まずい……、総員後退せよッ!」

 騎士の誰かが思わず指示を出した。


「こいつぁ……!」

 その威容に目を見開くベゼーグ。そして。

 瞬間、疾駆した黄金の獅子が、魔人の上半身を消し飛ばしていった。

2012年 06月05日

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