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ブランジア人魔戦記  作者: 長村
chapter,03
41/104

ep,039 絶望より来る

 リノンに関しては正直な所、メリルもセリアも複雑な気持ちであった。

 状況としては抜け駆けというやつををされた形ではあるが、非戦闘員であるリノンにそうしたくなる気持ちを抑えろと言うわけにもいかなかった。それに結果的にそうしてしまったことで、彼女には別の問題が発生してしまった。

 これによりある種の一時休戦という形となってしまったのだが、決着がついてしまう直前に、という所が問題だ。

 この間に何か巻き返しを講じなければいけないのだが、事態が事態なだけにそうするのは心情的に難しいものがある。


 セリアには前々から考えていた落とし所があり、現状を考えてもそうするのが良いのではないかと思っているのだが、いざそうしようと提案するには勇気がいる。卑しい女だと思われないだろうかが、怖い。彼がそんな人では無いとは思っているのだが。


 一方メリルはそうでも無かった。変な所で頭の硬い彼女は、ほぼ結果が決まってしまったこの状況で何も出来ずにいた。かと言って素直に諦められるほど人間が出来てもいないので、思考の袋小路だ。


 ……誰もがこの日1日、大きな出来事がありすぎた。考えなければいけないことが多すぎて、何1つとしてまとまることは無かった。


   ※


 多くの出来事が起こったその日、その夜。

 最後にもう1つ大きな事件が起きる。


 王都郊外にある小さな屋敷。ロウレン・ガイウス将軍の自宅。

 遠征で別の街で寝泊まりすることや、会議等で王城に泊まることが多いため、今では滅多にこの自宅を使うことは無いが、今夜のロウレンは思う所がありここに来ていた。

 留守にすることが多いこの屋敷は、家政婦も雇っておらず、共に暮らす家族ももういないため、今は少々埃っぽくなっていた。


 ……かつてはここにもう2人が暮らしていたことを思い出す。もう10年近く前だ。

 ロウレンが騎士として得た数々の輝かしい栄光の影には、彼の愛情を殆ど受けられずにいた哀しき妻がいた。ロウレンが戦地に赴くたび、妻は夫をただ待ち続け孤独に苛まれていた。

 それは武人の妻においては正しい姿であったと互いに思っていたが、男女としての幸せは無いに等しい物だった。子を作ることも無く、夫婦はゆっくりと老いて死に行こうとしていた。

 そんなある日、ロウレンは1人の赤子を連れてきた。


 ――この子を、私達の娘にしよう。


 故あって親元から離されてしまった子を、自分達の娘として育てようと言い出したのだ。彼なりに妻に辛い思いをさせていたことへの詫びのつもりでもあった。


 ――戦に出るのも減らす。これからは、3人で……。


 遅くに訪れた家族の団欒を、ロウレンとその妻と、娘となった少女は楽しんだ。

 娘の名前はフュリエス。

 ……ブランジア国王ユスティカ11世の授かった、双子の娘の片割れであった。


 伝承において、鳳凰神ブランジアの双子の弟、イーグリスは兄と別れ、人間を導き国を興させたという。それが隣国のイーグリス王国である。そのイーグリス王国とブランジア王国は当時、長きにわたる戦いを続けていた。

 そんな中ブランジア王族に産まれた双子は、不吉を予感させた。この妹がやがてブランジア王国を裏切り、不幸をもたらすのでは無いかと。

 出産後、妹の存在は極力秘匿され、城内でも知る者は少ないまま、どう扱うべきか検討が続いた。王と王妃は、そんな下らない被害妄想で命を奪うなど出来ないと、最後まで大切な娘として育てようと声を大にしていた。

 しかし出産から5日、王妃が原因不明の高熱により急逝すると流れは変わっていった。王妃の死は、双子の妹の呪いなのだという声が強まった。

 結果、妻を失った傷心もあり、弱気になった王の意見は押し潰される。双子の妹は最初からいなかったものとされることになった。誕生したブランジア王の娘は、フェニアスただ1人。そう国民には告げられた。

 産まれて間もなく、没する前の王妃から密かにフュリエスと名付けられた赤子の名は、誰に知れ渡ることもなく、王だけが知っていることになった。


 その存在しないことになった赤子の処分を、国王は騎士ロウレン・ガイウスに任せた。このような決断を迫られようと娘への愛を捨てきれなかった父は、最も信頼している騎士に託したのだった。

 ロウレンを騎士として酷使し、子をもうける暇すら与えなかった罪滅ぼしの意味もそこにはあった。血の繋がりは無くとも、1人の娘を愛する喜びというものを、共に分かち合いたかった。

 王にとってロウレンは先代国王からの付き合いである。それは父のようでもあり、兄のようでもあり、親友のような存在でもあったのだ。

 そんな彼に王は何かを返したかった。一緒に父になって、一緒に喜びを分かち合いたかった。


 そうしてフュリエスはガイウス夫妻のもとで、自らの出生の秘密も知らず、目一杯の愛情を受け普通の少女として成長していった。

 その裏で、彼女の存在を知る者達が事故や病、戦死等で次々にこの世を去っていったことも知らずに。


 ――この子は、呪いなど振り撒いていない……!


 ロウレンは、自分や王も近い内に呪いによって命を落とすかもしれない。そんな不安を振り払うようにフュリエスへと愛情を注いだ。

 だがその思いも空しく、不幸は舞い降りた。


 ある日、騎士団のとある重要拠点が急襲され、どうしてもロウレンの力が必要だということになった。


 ――おじいちゃんは、みんなのためにがんばってきてあげて。


 深く悩んだが、娘の言葉を受け、出来る限り早く事を収めて帰ってくるつもりで、ロウレンはそこへ向かった。

 だが、そのほんの数日の間にロウレンの屋敷に賊が入った。

 ずっと目を付けられていたのだ。屋敷の存在は公にはされておらず、そのため警備員も少数しか置けなかった。将軍の地位にある者があんな警備も少数、屋敷も小規模。普通の一般家庭にしか見えない風を装っているのは、きっと誰にも知られないようにしこたま金を隠している。そう思われていたのだ。

 そういった賊に狙われないよう存在自体を隠していた屋敷だったが、ほんの少しの油断から存在が割れていたようだ。

 複数の一団が共謀した盗賊達は、そこを最上級の狙い目と見定め、家主にして最大の障害であるロウレンが数日間家を空ける隙を待ち、極めて慎重かつ組織的に犯行に及んだ。


 果たして、特に使い道も無く溜め込んでいただけだった財は多くが盗まれ、妻はその場で殺された。

 そしてフュリエスは、その混乱で姿を消した。


 娘を人質に取られ、宝物庫の封印を解除させられた妻は、すぐに邪魔になり殺されたのだろう。

 その惨状を知ったロウレンはあらゆる盗賊団を探し出し、自ら乗り込み片っ端から壊滅に追い込んだ。しかし、彼らに誘拐されたと見込んでいたフュリエスは結局見つからなかった。

 人質としてさらったが、いつの間にか娘には逃げられていた。尋問にかけた賊はそう口にした。

 その後、あらゆる方向からフュリエスを探したロウレンは、ある人売りの業者が彼女によく似た少女を売ったことを知る。もちろんその業者は潰した。

 そしてフュリエスが売られたというある名家を訪ねた時、その屋敷は火の海に包まれていた。


 ……本当に、呪いなのだろうか。

 フュリエスに関わった者は次々と不幸に見舞われた。ロウレンもまた、今こうして愛する家族を失う悲しみに包まれている。

 否。辛いのは自分ではない。

 そんな運命を背負ってしまったフュリエスだろう。


 火災の跡から発見された、外見の判別もつかない子供の遺体の数は、人売り業者から押収した販売履歴とは一致しなかった。

 ……1人だけ足りなかった。

 それがフュリエスだという証拠は無いが、ロウレンは彼女を探すことを諦めなかった。

 ロウレンは盗賊団から取り戻した私財を投じて、国中で市街の警備兵の増員や育成にあてた。公に探せないなら、一般警備に紛れて浮浪の少女を保護させ、その中にフュリエスがいないか探そうとしたのだ。

 誘拐などされていないか、されていないなら今後されないよう、あらゆる盗賊団の情報を集め、そのことごとくを潰して回った。

 人売り業者も当たっていくついでに次々と潰した。

 子供達の焼死体が目に焼き付いて離れず、防災にも対策を講じた。

 やがて国民はそんなロウレンをまた賞賛した。王国は、戦時中でありながら治安が安定していったのだ。

 ……そんなつもりでは無かったのに。


 フュリエスの姿は消えたまま、時は流れた。


 そして今日、フュリエスの名を聞いた。

 よりにもよって、この国を脅かしている魔族の口から。

 本当に彼女は魔族の女王になってしまったというのか。彼女の呪いが魔族を生み出しているとでもいうのだろうか。

 あのベゼーグという魔族からも、結局何も聞けなかった。

 ……目的はやはり、復讐、なのだろうか。

 姿を消してからはきっとろくな人生を送っていなかっただろう。

 盗賊に襲われ、人売りにさらわれ、たどり着いた家は焼け落ちた。その後は辛うじて生き延びたようだが、子供が1人で生きられるほど当時は治安も良くなかった。死んだ方が楽なくらい、辛く苦しい生活を続けていたかもしれない。

 守ってくれなかった父を、この国を恨んでいても、おかしくない。 魔族の女王。そんなものにまでなってしまうほど、彼女の心は荒んでしまったのだろうか。


「……おじいちゃん」


 ふと、声がした。

 そこにフュリエスはいた。

 音も無く、気配も無く、ただ黒い影を少し残して、彼女はロウレンの前に現れた。

 喪服を思わせる黒いドレスに、色の薄い腰まで伸びた長い金髪。深く透き通る蒼い瞳。まさに王女フェニアスと瓜二つな少女。

 10年振りの再会、成長した姿であっても見紛うことは無かった。愛すべき我が娘が、10年前まで共に過ごしたこの屋敷にいた。

「フュリ……、エス……」

 ロウレンは喜びと恐怖が混じり合う中、絞り出すように彼女の名前を呼んだ。

「うん。そうだよ。フュリエスだよ」

 あの時と変わらぬ無邪気な笑顔で、フュリエスは笑った。

 ずっとずっと探し続けていた愛娘がそこにいる。

 しかし、出会えたら伝えたい言葉がたくさんあったのに、何も声が出ない。

「……どうして、何も言ってくれないの?」

 黙って視線を向け合っていると、フュリエスの方から口を開いた。

 その声に、ロウレンが返せた言葉はただ一言だった。

「……済まなかった」

 その一言をきっかけに、崩れ落ちるように膝を折って、両手を床に付け、頭を下ろしながら、絞り出すように謝罪の言葉だけを続ける。

「済まな、かった……」

「……そう」

 フュリエスが言葉を紡ぐ。ロウレンにはその表情は見えない。

「そうだよね。私がひどい人生を送ったのは、おじいちゃんのせいだもんね。あの時おじいちゃんが、私を守ってくれなかったせいだもんね」

「……!」

「……ねえおじいちゃん、知ってた? ……私って本当は、お姫様だったんだって。双子は国に災いをもたらすからって、お姉ちゃんだけ残して私は捨てられちゃったらしいの。

 不思議だよね。双子なのに、片方はお城で幸せに過ごして、片方は口にするのも憚られるくらいひどい人生を送ってたなんて」

 フュリエスは優しげな声色で、それを口にした。

「……王女は、」

「ん? なあに?」

「王女はずっと、お前のことを心配なさっていた……。公的には存在しないことになっているお前を……、行方を探すことも出来ないお前を……、ずっと。

 だから、そんなことを言ってはいけない……」

「心配していた? たくさんの優しい人がいる安全なお城の中で、暖かい食事を食べて、柔らかい毛布にくるまれながら?」

「……ッ」

「……ねえ、おじいちゃんはどうして、私のこと見つけてくれなかったの? どうして私はあんな苦しくて辛くて怖くて痛くて寒くて悲しい生活をしなきゃいけなかったの?」

「それは……ッ」

「おじいちゃんはみんなに慕われる騎士様で、悪い人はみんなやっつけてくれるのに、どうして私のことは助けてくれなかったの? いつもいつも、私がいなくなってからそこに現れていたよね?

 ……ねえ、どうして?」

「……。済まなかった……」

 ロウレンの眼から溢れた涙がカーペットを濡らした。

「……謝っても、私の受けた苦しみは消えないの」

「では、どうすれば良い!? ……私は、お前のためならば、どんな償いだってする……!」

 ロウレンは全身を締め付けられるような思いでいながら、絞り出すように声を上げた。

 今のロウレンの心にはただ後悔しかなかった。フュリエスの悲しみを解消させるためなら、どんなことだってするつもりだった。

「じゃあ、死んでよ」

「……!」

 ……そう、自ら命を断つことだって。

「出来るよね?」

「……、私は」

 王国の栄光を体現するような騎士であるロウレンが、魔族の女王の言葉に従って自ら命を断つ。

 それほどまでに不忠な行為が、どれだけあるだろうか。

「私に謝りたいんだよね?」

「……それで、お前の気が済むのなら……」

「私のために、死んでくれるの?」

「ああ……」

 それでも、ロウレンは愛する娘を苦しめてしまったこの罪の重みから、逃げ出したかった。

「……ありがとう。おじいちゃん。……でも」

「……ッ?」

「普通に死ぬだけじゃ、駄目だよ」

 そう言って笑うフュリエスは、やはりあの時と変わらない優しい笑みだった。


   ※


 王都パラドラ、南東区画2の5地区。

 ここにはブランジア王国で最も偉大な騎士であると言われた、聖なる騎士エイゼンを象った石像が飾られていた。

 時間は深夜。黒く染まった大時計塔に、市民は恐怖しながら静まり返り、騎士達は市街の警備を続けていた。

「おや、将軍殿」

 そこへロウレンが剣を携えやって来た。

「……君達、ここは私が見守りましょう。他の隊を手伝って来てあげなさい」

「え……?」

 その突然の申し出に騎士達は驚く。どういう風の吹き回しだろうか。

 いや、この将軍ならばこんな状況において市街の警備を申し出るのも、別におかしなことはあるまい。自分達の担当地区にやって来たのはまあ偶然か何かだ。

 それとも、偉大なる騎士を栄光の騎士の手で守りたいとでも思ったのだろうか。それはありそうな話だ。ロウレン将軍の尊敬する人物としてエイゼンの名が上がると言うのは、知る人ぞ知る情報だ。

「それではお任せいたします」

「ええ……。この地区は私1人で構いませんので、他の騎士も近付けないよう」

「……? ええ、了解しました」

 少々態度に疑問を感じながらも、騎士達はその地区から撤退していった。

 市民も家の中で大人しくしている。

 ……これでこの辺り一帯から人はいなくなった。これで良い。

 ロウレンは騎士の像を見上げる。

「……栄光の騎士、か」

 今から行う行為を思って自嘲する。


 王より賜った栄光の剣でもって自らの喉を裂き、返り血でこの像を汚す。

 自らの手で栄光を汚し、偉大なる先人を冒涜せよ。


 それがフュリエスの望みだった。

「申し訳ありませぬ、陛下……」

 剣を鞘から抜き放ち、その場に膝を折る。

「済まなかった、我が娘よ……」

 謝罪の言葉を呟く。

 そして。

 その剣で喉を貫いた。

「……ッ!」

 鋭い痛みが意識を掻き乱す。だがまだだ。

 この溢れ出る血で、石像を汚す。吹き出た血を浴びせるだけでなく、両手にもそれを浴びせ、塗りたくっていく。

「……申し訳、……ありませぬッ……」

 声を振り絞り、最期に謝罪の言葉を口にする。

 果たしてそれは、誰に向けた言葉であっただろうか。

 仕えた王か。敬愛する騎士か。共に戦場を駆けた親友か。信頼を向けてくれる愛弟子達か。守るべき民か。死に別れた妻か。

 ……愛する娘か。

 忠義と罪悪感の狭間で揺れたロウレンに、それはもうわからなくなっていた。

 朦朧とする意識の中、浮かぶのは60年の人生における、後悔ばかりだった。

 そこから逃げ出すように、ロウレンは意識を断った。

 その場には惨めな骸と、血に塗れた穢れし剣だけが残った。


 それを見ていたのは、心を闇に染めた少女だけだった。

 彼女の笑顔は、10年前の面影も無いほどに凄惨なものであった。


   ※


 翌朝。

 ロウレンの愛弟子レウスは、昨晩の襲撃に関する情報を書面に纏め、どうやって兄に渡そうかと考えていた。

「まあ、なんとでもなるか」

 出来れば直接会って渡したかったが、こんな状況では無理だろう。

 騎士団の様子を見て、出来る限り早く渡せる手段をその場その場で考えてみようと思う。


 広間に出ると、ショーマとステアが仲良さげに突っつき合っていた。昨夜の彼女は、壊せるとわかった以上牢屋に閉じ込めるのも無駄なので、屋敷の客間に置いておいた。少し不安だったが、ちゃんと大人しくしていたようだ。


   ※


「どうですか? 久し振りにお風呂に入れてもらって身も心も綺麗になった私ですよ。しかも湯上がりでちょっとエロエロな雰囲気です。バスローブですよ」

「ああ、そうだね……」

 風呂に入れられさっぱりして上機嫌になったステアはショーマに絡んでいた。昨日の今日で陽気なものだが、彼女なりに元気付けようとしているのかもとは、ショーマも思う。

 いつものインナースーツは洗濯中だ。着替えくらい用意してやっても良いと思う。なんだこの格好。

 ショーマは適当にあしらっていると、レウスがやってくる。

「おはよう」

「ああ、おはよう」

「おはよーございます」

「少し何か食べてから出掛けよう。いつも通り訓練所で、ってわけにはいかないかもしれないからね」

「ああ。……こいつはどうしようか」

「……また客間にいてもらおうかね」

「そう、だな」

 ショーマもステアのことは牢屋から出してやりたいとは思っていたが、こんな形でそうなるとちょっと複雑だ。

「牢屋に戻らなくて良いんですか?」

「ちゃんと大人しく出来るならね」

「変なことなんてしませんよう。こうやって衣食住保証されてるんですから。ボディガードだってしますしっ」

「まあ、昨夜は色々と君のおかげで事態が明るみになったわけだしね……」

 レウスとしても、そろそろ信用して大丈夫かと思い始める頃であった。

「わーい。柔らかいベッドって最高だと思います!」


 そうこうしていると、メリルもやって来る。挨拶を済ませ、べたべたショーマにひっつくステアにちらりと目をくれてから、ショーマに話しかける。

「あの……、なんと言うか。その……、大丈夫?」

 昨夜のことで心配するメリルに、ショーマは安心させるように笑い返した。

「……うん。まあ、ちゃんと頑張れるくらいには大丈夫だよ」

「そう……」

 ショーマにとってもありがたい。もしあんなことになったのがメリルであったとしても、同じくらい辛かっただろう。

 メリルだけでなく、他の皆も無事で良かった。そこだけは良かったと思いたい。


 その時、屋敷の玄関扉を打ち鳴らす音がした。

 誰が何を告げに来たかも知らずに、何気無くレウスは応対に向かう。

 そこで、敬愛する師が謎の死を遂げたことを聞かされる。

 暫しの間、彼はその言葉の意味が理解出来ずにいた。

 自分の目でその無惨な姿を目にするまで、理解出来なかった。

 理解したく、なかった。

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