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ブランジア人魔戦記  作者: 長村
chapter,02
26/104

ep,025 獅子槍将軍ヴォルガムとの模擬戦 (1)

 事の発端は単なる気まぐれだった。

 珍しく訓練所にやって来たヴォルガムを、騎士達は不思議に思いながらもあまり気にはしないでいた。しかし、伝令兵にリヨールから出向してきた士官学校生達が到着したという知らせを聞き、自ら出迎えに行くと言い出したあたりで不安が大きくなってきていた。

 そして案の定である。


 言い出したら聞かないヴォルガムのために、騎士達はせめてもと訓練所の野外広場を模擬戦の舞台に選んだ。周囲に被害が及ばないよう準備を始め、土嚢や魔力障壁を設置し安全を確保。そしてこの戦いのルールを定めて、ヴォルガムと学生達に通達する。

 ヴォルガムには手足に重力発生魔導板を装着させ、行動を制限。装備は訓練用のウッドランスと、これといって特殊な加工がされていない革の鎧のみ。

 ウッドスピアは円錐状の突撃槍で、長さは2と半メートルほどの巨大さである。主に騎馬兵が持つ武器だが、今回ヴォルガムは馬には乗らずにこれを使う。

 学生側は各小隊ごと8人で戦闘を行う。全員が戦闘不能と認められるか、降参したら負け。勝利条件は1人でも残っている状況でヴォルガムが敗けを認めること。そんなことはまず無いだろうが、と添えられたが。

 そしてまずはレウス率いる第1小隊が挑むこととなった。

「ていうかあの人は何者?」

 ショーマは着々と進む模擬戦の準備に戸惑っていた。そもそもこれから相手をする人物のことも知らない。

「あの方はヴォルガム・ディジン将軍。見ての通り豪放な性格で、暇さえあれば若い騎士を訓練しているんだ。

 将軍っていうのはわか……らないよね。簡単に言うなら、1人で大隊に匹敵する戦力と権力を持っている人に与えられる、騎士団の特別な役職の1つだ。地位で言えば最高位の総団長に次ぐね。騎士団全体の方針を決める重要な会議に参加出来る権利もある。

 ……で、今はその将軍自ら僕達の腕試しに付き合ってくれると言うわけだ。せっかくだから全力でぶつかっていこうと思うけど、皆良いね?」

「あ、ああ……」

 足早に説明されて全てを理解出来たとは言い難かったが、1人で大隊に匹敵する戦力と言う所は気になった。ちょっと想像が出来ない例えだが、それはそれは恐ろしく強いのだろう。

 そんな人と模擬戦を行うと言うらしい。本当に良いのだろうかと仲間の様子を見てみたが、自分以外の7人の内5人ぐらいはやる気に見えた。

「よーし! 今から5分後にお互い攻撃開始といくぞ! それまでに作戦会議でもすると良いぞ!」

 と、でかい声で宣言するヴォルガムの言葉が耳に届いた。

(なぜこんなことに……)

 ショーマは急な話で気持ちが上手く乗らないままではあったが、レウスはどんどん話を進めて行くのでそうも言っていられなかった。

「良いか皆。まずは相手を人間だとは思わないこと。特にあの人に今日初めて会ったという人は特にね」

 レウスは作戦会議を始める。しかしいきなりのその発言には少々理解が追い付かない。

「とりあえずは各々、特に遠距離組は自分の最大威力の攻撃を準備していてくれ。ショーマ、メリル、セリアは今使える最強魔法を、ローゼは良い矢があったら惜しまずに使ってくれ」

「わかったわ」

「了解いたしました」

「フィオン、君は最大威力と言うと、何が出来る?」

「あ、えっと……、こんなの、ありますけど」

 フィオンは鞄から手のひらに収まるほどの大きさの茶色い石の玉を取り出した。

「よし。それで頼む。もったいないとか思わないでね」

「あ、はい……。でもこれ、発動までどんなに急いでも10分は……」

「それじゃあ、今すぐ準備を始めてくれ」

「あっ、はは、はい!」

 フィオンは少し離れて、地面に何か術式を書き込んでいく。あれが何なのかはいまいちわからないが、それより良いのだろうか。

「5分後からだろ?」

「攻撃開始は、ね。魔法の準備はさせてくれるってことだよ。君達も今から始めてくれ」

「あ、ああ……」

「本気で殺すつもりでやってくれてちょうど良いと思うから」

(殺すつもりで、って……)

「しかしあくまでこれは模擬戦だろ? 勝っても負けても得られる物は無い。あんなもんまで使う必要はあるのか?」

 やけに真剣な顔付きでヴォルガム打倒の策を指示するレウスに、デュランが少々疑問を感じて質問した。

「得られる物ならあるよ。……今の僕達の全力ってものが、どれだけなのかを知ることが出来る。意外と無い機会だよ、こんなこと。特に負けても失う物が無い状況ともなればね」

「……む」

 デュランは木の槍を手に悠然と立っているヴォルガムをちらっと見ると、レウスの言葉に頷いた。

「僕達近接班は最初の魔法連射が止まり次第、とにかく次の魔法発動まで時間を稼げるよう、ひたすら攻めること。そして味方の魔法が来たら、巻き込まれないよう上手く逃げる。うちの隊の強みは強力な魔法だ。それを活かす」

「わかった」

「了解、だ」

 作戦説明が行き届いた所で、ショーマは確認をとる。

「本当に、良いのか?」

 どうにも殺すつもりでやれ、というのが引っ掛かってしまう。

「良い。ヴォルガム将軍の耐魔力はそれこそ上級魔法の4、5発なら耐えられる代物だ。人殺しにはならないよ」

「ちょっと言ってる意味がわかんないんだけど」

「言葉通りの意味だ。……まあ実際やってみないとわからなさそうだな。とにかく準備をしてくれ。そして撃ったら即座に次の魔法の準備。良いね」

「……わかったよ」

 命を賭けた戦場にいる時と同じ目をしているレウスの言葉には、どうにも拒否出来ない力があった。

 ショーマはこの距離と範囲にちょうど良さそうな『バーニングブレイド』の魔法を準備し始める。人に向けるのはやはり気が引けるが……。

「ショーマ」

「あ、はい!?」

 悩んでいるショーマにメリルが声をかけた。

「まず開始時間になったら貴方がそれを撃って。そしたらその後に私が続く。その後はセリア。良い?」

「は、はい!」

「……俺がやるのか?」

 セリアは頷くが、ショーマはそうしない。

「ええ。開始と同時に向こうも突撃してくると思うわ。そうなったら、私達は一瞬で全滅することになる。だからまず貴方の魔法でそれを止められるかにかかっているわ」

「そんな責任重大な」

「だからこそ貴方に任せるの」

「……う」

 どうやら迷っていることを見抜かれたらしい。

 まるで人質を取られた気分である。人には撃ちたくないが、撃たなければ皆やられる。それで死ぬわけでは無いだろうが、やる気になっている皆を失望させかねない。それは、嫌だ。

「……わかった」

 レウスの言っていたことを信じることにする。

(……思いっきりぶちかましてやろうじゃないか)

 ショーマの頭上に、魔力で作られた炎が、巨大な剣の形をとって浮かび上がる。

 隣のメリルの正面には4つの炎の球体が浮かび上がっている。『ファイアボム』の4重発動だ。セリアも同じ魔法だがこちらは1つのみ。

「では私は3人の後に射らせて頂きます」

 と、ローゼ。

「了解。4人のローテーションで出来るだけ隙間無く連続で撃ち込むわよ。……近接組は絶対避けてよね。避けやすいように気を使ってなんかはいられないから」

「ああ、わかってる」

「……あの竜は、呼ばないのか?」

「あの相手では召喚に魔導エネルギーを割くより、私の魔法に回した方が良いと思うわ」

「そっか、わかった」

 そろそろ5分が経つ。

「さあ、デュランよ。お前の目指す『将軍』の力、精々目に焼き付けろよ」

「……ふん」

 バムスの言葉に、デュランは唾を飲み込む。

「……良いわね?」

「ああ、やるさ」

 メリルの確認に、ショーマは頷く。

 猶予時間の5分、ずっと目を閉じて作戦会議の様子を見ないようにしていたヴォルガムが、残り5秒の所でカウントダウンを始める。

「ごーお、よーん、さーん……」

 ショーマ、メリル、セリアの3人は魔法を待機状態にしておく。ローゼは魔矢を構えて弓を引き絞る。レウス、デュラン、バムスはその4人の前に並び、武器を構える。そしてフィオンは術式の展開中。発動までは、あと6分ほどかかる。

「にーい、いーち、」

「行って!」

 メリルの号令にあわせ、ショーマは紅蓮に燃え盛る巨大剣を射出させた。


   ※


「うお!」

 時間になったと同時に目を開いたヴォルガムの眼前に、炎の巨大剣が迫る。

 新人にしては予想以上にデカいのが来たものだ。手持ちのウッドランスは炎には弱い。

 だが、これくらいならどうとでもなる。

「ムン!!」

 闘気を込めて、それを打ち払う。火花と轟音を散らして軌道を逸らされた『バーニングブレイド』は、ヴォルガムの斜め後方に突っ込み大爆発を起こした。

「な!?」

 撃ち込んだ若者の顔が驚きに歪むのが見えた。

 それを見てヴォルガムは満足げにニヤリと笑う。

 続いて飛来するのは4連発の炎弾。あのタイプは恐らく衝撃を与えれば爆発を起こす魔法だと見極める。今度は慎重に、それでいて大胆に、1つずつ槍ですくいあげるように炎弾を受け流し、衝撃を与えないように軌道を逸らして後方で爆発させる。3人目の魔導師から放たれる5発目も同様に受け流す。

(順番にってのは失策だなあ。5発同時に撃ってたら……、どうだったかな!)

 魔法を防ぎきると、休む間も無く魔矢が飛んでくる。3本折り重なった炎の矢は、先程の巨大剣に匹敵する威力を持っていた。だが所詮上回ってはいない以上、同じように弾き飛ばすだけだ。

 これで全員分防いだかと判断しかけたところに、再び炎の巨大剣が飛んでくる。

(早いもんじゃないか……ッ!)

 素早く正確な発動。上級魔法でこれが出来るなら、確かに大したものである。だが、それだけでどうにか出来るほど、獅子槍将軍は甘くは無い。

 初撃目と同様に槍をぶち当てて弾き飛ばす。今度こそ終わりかと思えば、左右から氷の槍が挟撃してくる。

 ここは左腕で1発を甘んじて受け止め、右腕の槍でもう1発は確実に防ぐ。

 それを防ぐと今度は足元から氷の針が出現し、地面と足を縫い付けた。左腕と両足に、じわりと氷の魔力が伝わり動きを縛ろうとしてくる。

 動きが制限されようとしている所に、再び炎の魔矢が飛んでくる。

(これ1本だけでも結構な値段したよな。……それだけ本気とは、見上げたもんだ!)

 その心意気を評して、こちらも気合いを入れるとする。

「どりゃあ!」

 叫びと共に闘気を放出して手足を覆う魔力の氷を弾き飛ばす。自由になった両腕で槍を構え両足で踏み込み、迫り来る炎の矢に突撃していく。

 木の槍と炎の矢の一瞬の競り合いを制して、勢いを殺さずそのまま前衛に立つ3人に突撃を仕掛ける。

 だが、直前に不可視の魔力壁が出現し、それは阻まれた。

「重ね掛けして! すぐに破られるわよ!」

 魔導師の1人が指示を飛ばす。確かにこの程度の薄い壁では、数秒もあれば勢いを殺すこと無く破れるだろう。

 果たして、2枚目の魔力壁が展開されたのは、1枚目が破られるとほぼ同時であった。

「散開!」

 それを見て前衛の1人が指示する。この隙に正面に1人、左右から1人ずつ回り込んで攻めこむつもりのようだ。ならば。

 2枚目の魔力壁を打ち破ると同時に、左右から剣と槍の挟撃が来る。突撃をやめ槍を横向きに持ち変えて、穂先と柄で同時に防ぐ。

「!?」

 見かけとは裏腹に器用なことをされて、驚きに歪む顔が見えた。

「オオオオ!!」

 そして残った正面からは、振りかぶった拳が頭部に迫る。両腕が塞がっている以上防ぐ手だては無い。……普通ならば。

 剣と槍を強引に防いだ体勢から、背を後ろに反らして振りかぶり、頭突きを拳に合わせる。

「な……ッ!」

 頭と拳のぶつけ合いは、頭の勝利に終わった。拳術師の拳は強烈な衝撃に痙攣を起こし、握りが甘くなっていく。

「力って言うのはな……!」

 槍を振り上げ、防いでいた剣と槍の主を弾き飛ばす。

「固さと!」

 腰を落とし両足を踏みしめる。

「重さと!」

 槍を両手でしっかりと握り込み、肩に担ぎ上げる。

「速さで決まる!」

 そして全力でもって、巨大で重い槍をぶん回す。

「!!」

 まさに破壊的な威力を持ったそのフルスイングは、闘気を纏って暴風のような衝撃を巻き起こし、前衛の3人を一撃で吹っ飛ばした。

 ちょっとやり過ぎたか? と笑った所に、3度目の炎の巨大剣が飛来する。さすがにこれには虚を突かれ、一気に後方へと飛びすさって避ける。地面に突き刺さり爆発が起き、粉塵が舞い上がる。槍を振って風を起こし、これを晴らしてやる。

「はっはっはァ! こんなもんかッ!?」

 3人をぶっ飛ばしたことと距離をとったことで、少し余裕が出来ていた。挑発だってしてやれた。


   ※


「やばくないか……?」

「やばいわね……」

 ショーマは、本当にああも容易く次々と魔法を無効化されるとは思いもしなかった。頬を汗が伝っていく。

「とにかく時間を稼ぐわよ……!」

 メリルは『アイススピア』を2重発動、先程のように左右から撃ち込む。しかし。

「ふん!」

 気合い一拍。豪快に槍を振り回して今度は2発とも破壊されてしまった。

 だいたい、高速で飛来する氷の槍に命中させるというだけでも尋常では無いというのに、触れた瞬間魔力を伝播させるのを難なく無効化までさせているとは……。

「あれが騎士団の誇る獅子槍将軍ってわけ……?」

 まさにでたらめな強さと言った所である。

 ショーマは何か通用しそうな魔法が無いかと考えを巡らせる。そして思い付いたのが1つ。

「!」

 ヴォルガムの頭部を水の玉が覆った。『アクアボール』の魔法である。いくらでたらめとはいえ相手も人間、呼吸ができなければ……。と思ったのだが。

「げ……」

 ヴォルガムは体の力を抜いて楽にすると、頭部周辺に闘気を溜め込み、一気に放出した。その勢いで水の玉も一気に弾き飛ばされてしまう。

「ふん……。こういう小細工も悪くは無いが……、もっと派手なので来る方が楽しいねッ!」

 まだ少し顔面に水滴を滴らせるヴォルガムは、固い髪をかきあげながら笑った。

「ん? これで終いか……?」

 動きが無いと見るや、槍を構えて突撃の体勢をとるヴォルガム。

 ショーマは後ろを見るが、フィオンの術式はまだ構成中だ。ここで終わるわけには……。


「まだだ……!」

 周囲に配置された土嚢の山の中から、デュランが這い出てくる。

「ほう……?」

 ヴォルガムは獰猛な笑みを浮かべ、槍の先をデュランへと向け直す。一方デュランは体を横に向け、右手で槍を前に突き出し、左手では剣を肩の上に乗せて構えた。

 独特な構えに警戒をするヴォルガム。しかしすぐに見習い騎士の奇策に遅れを取るようなことは無いと思い直す。

「良い度胸をしている……!」

 ヴォルガムの持つ突撃槍は、その巨大さゆえの重さから来る攻撃力と、表面積から来る防御力を兼ね備えた強力な武器である。片手で扱う軽い攻撃など容易く弾き飛ばせるのだ。

 睨み合っていたのはほんの数秒のことで、ヴォルガムの方から先に仕掛ける。策も何も無い、闘気を纏っただけの突撃だ。だがそれで何も問題は無かった。小細工など正面から全てぶち抜く。それが『獅子槍』だった。

「……!」

 デュランは突撃に合わせ、その場にわずかに放り上げるように右手の槍を捨てた。自ら空中の槍に目掛けて飛び込んでもらおうと言うわけだ。もちろんそんな簡単に行くとは思わない。放ると同時に身を回転させて槍の軌道のぎりぎりを回避しながら、突撃するヴォルガムに両手で握り直した剣を叩きつける。

 槍と剣の二段構えのカウンター。高速にして強烈な突撃を見極め懐に飛び込む精密さと度胸が必要な攻撃であり、果たしてデュランはそれを成功させた。

 否、成功ではあっても失敗であった。

「!」

 所詮それは小細工でしか無い。ヴォルガムを2方向から襲う攻撃は、しかし身に纏っていた闘気の鎧によって完全に防がれ、さらにデュランごと吹き飛ばしていった。

 ヴォルガムの突撃とは、槍の威力と強靭な肉体による疾走だけでは無く、高密度に纏った闘気と合わせることで、自身を1つの巨大な槍と見立てた突きなのである。例えその身に触れることが無くとも、敵を貫くのだ。

 再び無惨にも土嚢に突っ込んだデュランは、今度こそはさすがに立ち上がれそうにも無い。

「さあて、次は……うお!」


 デュランとの交戦時間はものの数秒でしか無かったが、その間にも魔法の準備を進め、やられたのを確認したすぐ後には発動出来た。

 ショーマはこの戦いで4回目となる『バーニングブレイド』を放つ。2発は防がれ1発は避けられ、いい加減諦めたくもなるが、避けたということは喰らいたくは無いということだとも思う。他に良さそうな魔法も浮かばないし、懲りずに撃ち込んでやる。半ば意地もあるが。

 突撃の直後で体勢が悪かったためか、今度は弾き飛ばしも回避もせず、槍を横に構えて受け止めようとしていた。

「ぬう……ッ!」

 この隙を狙い、ローゼが闘気を込めた矢を放つ。魔矢はもう撃ち尽くしたためこれは普通の矢だ。負荷のかかっている腕を狙った1発。上手くいけば槍を握るのに負担とさせられるかもしれないという狙いもある。しかし。

「どおおおりぃいいやああああ!!」

 渾身の気合いを込めて闘気を纏うことで、『バーニングブレイド』共々矢を弾き飛ばされる。

 だがさすがにこれは厳しかったのか、ヴォルガムは少し息が荒くなっている。そこへ間髪入れずに後方からメリルの『アイススピア』が飛び、背中に突き立った。しかし持ち前の対魔力で氷の伝播が遅い。

「ムッ!」

 そこへさらに迫る脅威を察する。土嚢から飛び出してきたレウスだ。気絶から回復していた所を、やられたままの振りをして機会をうかがっていたのだ。

 レウスは聖剣技『雷旋斬覇』を放つ。剣から引き出した闘気と自身の闘気を掛け合わせた雷の如き斬撃だ。

 それを槍で受け止めるヴォルガム。衝撃が消えない間にレウスは一気に接近して勢い任せに斬りかかる。その2撃目も防がれるが、畳み掛けるように連続で斬りかかっていく。懐に潜り込めば巨大な槍では防戦一方にならざるを得ない。

「ほう……!」

 それでもヴォルガムは最小限の動きで剣を防ぎ、反撃の機会をうかがう。その間にも背中に突き立った氷の槍によって徐々に体の自由が奪われていく。

 だがレウスの連撃もその氷の魔力も、また闘気を放出すればまた弾き飛ばされるだろう。

「ハァッ!」

 ……ならばその闘気を固める隙すら与えないように、連撃を叩き込むまでだ。もう少しでフィオンの術式も完成するはず。せめてそれまでは。

「レウス!」

 ショーマの声と共に、5発目の『バーニングブレイド』が放たれる。レウスは声が聞こえたと同時に連撃を止め、後方に跳んで距離を取る。

 さらにメリルの『アイススピア』とセリアの『アイススティング』が放たれる。

「ぐうッ!」

 『バーニングブレイド』を防いでいる所に2つの魔法が突き刺さる。『アイススピア』はこれで2つ目だ。

 そして猛攻の最中、

「出来ましたぁ!」

 フィオンの展開していた術式――、『ゴーレム結晶解放』が発動する。

2012年 03月01日

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