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ブランジア人魔戦記  作者: 長村
chapter,02
20/104

ep,019 リヨール市街、学術地帯における戦い (2)

 リヨールの夜空を舞う碧竜サフィード、その操者メリルと、燃える体を持った魔鳥フレイムスワロウの戦闘は続いていた。

 否、これは戦闘ではなく、そう。一方的な的当てであった。複数いたフレイムスワロウはただの1体ともメリルに襲いかかることは無く、ひたすらにリヨール市街の建物へ突撃しようとするばかりであった。

 メリルはひたすら『アイスストーン』の連続詠唱による攻撃をするばかりである。しかし敵の体もこちらの氷の礫も、いかんせん小さすぎた。加えて向こうもこちらも空を飛んでいては、ろくに狙いが定まらない。燃える敵の体はこの夜空では実に目立ち、見つけやすくて結構なのだがそんなものは気休めにもならない。

 今の所、攻撃を開始してから市街への被害こそ出していないが、それは数を撃っているからだ。魔力切れは遠からず起こる。ただでさえサフィードを呼び出しているだけで消費するというのに、敵は減らしても減らしても新たに現れるばかりだ。

「ああもう……!」

 らちのあかない状況に、不覚にも苛立ちの声を上げてしまう。東居住区にも行かないといけないというのに。その東居住区には、特に火の手が見えないのは不幸中の幸いと言った所である。

 危険ではあるが魔力を節約して、一撃ごとを慎重に正確に撃ち込む方針に変えるか。だがもし、外しでもしたら。

 ……もう失敗などしないと決めたのに。

「そこの竜騎兵! 後退せよ!」

「!?」

 その時、斜め下方向から声がした。それから一瞬遅れて、閃光のような勢いで矢が飛び、フレイムスワロウの1体を射抜いた。

 矢の飛んできた方向に目を向ける。この辺りで最も高い位置である時計塔の文字盤が、一部開いている。整備時に使われる通用扉であった。どうも矢はそこから放たれたようだ。

 それにしてもこの距離とこの暗さで正確に一撃で射抜くとは。恐らくはかなりの実力者か。

「こちらはブランジア騎士団リヨール防衛部隊である! 貴君の協力に感謝する! 後のことは任せて後退せよ!」

 暗い上に結構な距離があって顔もろくに見えないが、声から察するに女性か、声の高い男性だろうか。まあどちらでも良い。

 騎士団が到着したというならば、メリルが無理にでしゃばる必要も無い。急いで自分の目的を果たしに行くまでだ。

「ありがとう! 後はお願いします!」

 その言葉に弓の騎士は、次なるフレイムスワロウを射抜くことで答えとした。

 メリルはサフィードを方向転換させ、東居住区へと急行する。


   ※


 鮮血が散る。

 眼前に迫り来るレウスの剣に対し、ファイアウェアウルフは手にした槍を放し、両手で刃を掴み取ったのだ。

 手のひらを刃で刻まれながらも、強靭な腕力で掴み離さない。

 純粋な力においては、レウスが下回るためこの手を振りほどけない。だが、氷の魔力が剣からファイアウェアウルフの握った手を通して流れ込んでいく。

 このまま押しきるべきか、剣から手を離すべきか。一瞬の判断が状況を分けた。

 ファイアウェアウルフは、その体勢のまま急激に息を吸い込む。

「!?」

 そして肺の中で空気を魔力と練り混ぜ、一気に放出する。喉元で炎に変換された息吹が、レウスに襲いかかった。

「ぐあああああ!!」

 危機を察し、身をよじるがわずかに遅い。炎の息吹をまともに食らってしまう。


「レウス!?」

 警備兵に治癒魔法をかけていたショーマは、突然の絶叫にその手を止める。声の方に顔を向けると、頭部を炎に包まれレウスの姿が見えた。

 そして、倒れるレウスに鋭い爪を突き立てようとするファイアウェアウルフの姿も。

「駄目っ!!」

 セリアが叫び、『アイスストーン』を放った。ファイアウェアウルフは攻撃を止め、飛びすさることでそれを避ける。

 ショーマは急ぎ中級魔法『アクアボール』をレウスに向けて発動させる。


 対象の頭部周辺だけを覆うように水の塊を作り上げ、溺死させる魔法だ。地味ながら頭の周囲にだけ狙って水の塊を発生させ続けるのは意外と難しいが、かけられた方は抜け出すことはかなり難しく、絶命に至らせやすい凶悪な魔法である。


 ほんの数秒で解除し、頭部を焼いた炎を強引に消化させる。

「レウス!」

「あ……ぐっ……」

 レウスは炎こそ消えたものの、かなり苦しんでいる様子だった。

「顔のすぐ前で炎を浴びたの! 早く!」

「!?」

 先程の状況から目を離していたショーマは、セリアの言葉に衝撃を受ける。何よりもあのレウスがしてやられた、というのが衝撃だった。

「くそっ!」

 だがレウスの治癒に向かうには、あのファイアウェアウルフは邪魔すぎる。間違いなく妨害に入るだろう。

 そんな迷いをよそに、ファイアウェアウルフは高らかに遠吠えを上げる。勝ち誇ったつもりなのか。

 しかし、そうでは無かった。

「!」

 一号宿舎を覆う金網の上に1体。路地に立ち並ぶ燭台の上にもう1体。合わせて2体のファイアウェアウルフが遠吠えに応え出現した。

「仲間を呼んだのか……!」

 1体は手負いとはいえ、レウスを欠いた今、この強敵3体に囲まれる状況を絶体絶命と言わず、何だと言うのか。

 しかし、高らかに遠吠えを上げた1体は、突如背後からの一閃により、体を左右に両断されるのだった。


 気配も無く闇より現れたその者は、全身を黒い甲冑と白いマントに身を包み、頭部全て覆う兜を被り、そして刀身に横幅のある巨大な剣を携えていた。否、確かに大きい剣ではあったが、持ち主が小さかったため実際より大きく見えただけだ。

 両断されたファイアウェアウルフがさっきまで立っていた場所と同じ位置にまでその黒い剣士が歩み進んだことで、何となくその身長は察せられる。……かなり小柄だ。150センチメートルほどだろうか。ショーマはもちろん、セリアやメリルより小さいだろう。

 そんな背格好であんな甲冑に身を包み、巨大な剣を持ち、気配も無くファイアウェアウルフを一刀のもとに両断した。

 ……ひょっとしたら、状況はさらに悪化するのかもしれない。目下の敵を討ち倒してくれたその黒い剣士に、ショーマはより危険な物を感じていた。

 新たに現れた2体のファイアウェアウルフは、その黒い剣士を最も危険な存在と判断したようで、同時に飛びかかっていく。

 黒い剣士はわずかに足の位置をずらし、身を軽くひねる。最小限の動きで2体の攻撃を避けると、巨大な剣を重そうに振り、反撃に出る。さすがにそれを掴み取るつもりは無いようで、ファイアウェアウルフは大きく回避した。


 ショーマはこの隙にレウスへと駆け寄り、治癒の魔法をかける。頭を燃やされたのはまずい。出来る限りの魔力を込め、効果を高めようとする。治癒が途中だったカターマ氏や警備兵達には悪いが、魔導エネルギーが尽きる覚悟で魔力を練り上げていく。

「ぐ、う……、」

「レウス! 大丈夫か!」

「ショーマ、か……、みんなは、だいじょうぶ、か……?」

「ああ、お前以外は大丈夫だよ!」

「そう、か。すまない……」

 レウスは治癒の具合を確かめるように指や腕に力を込める。最初はぎこちなかったが、だんだんとしっかりとした動きになる。

「ショーマくん! 大丈夫なのー!?」

 リノンとカターマ氏のそばから離れられないセリアは声を上げて聞いてくる。

「ああ! なんとか!」

 ショーマも声を上げて返す。

「心配、かけちゃったか……」

 レウスの声は珍しく弱気だった。

「たまにはそういうことも、あるだろ」

「そうかもね……」

 立派で頼りになる小隊長のレウス。そんな彼が負けるのは皆が不安になる。だがそんな時こそしっかり支えるのが、仲間と言うのだろうと、その時ショーマは思った。


 ひらりと回避を続ける黒い剣士に対し、ファイアウェアウルフの1体が炎を吹き出して攻撃する。

 黒い剣士はマントでその炎を遮りながら剣を構え、突撃する。自らの炎で視界を遮ってしまったその1体は、自身の失策に気が付いた時には既に、その身を貫かれて絶命していた。

 残るは1体。黒い剣士は剣を引き抜くと、重量に体を持っていかれながらも、その勢いを利用して体を回転させながら斬りかかる。

 2対1が1対1になったことで、黒い剣士は回避主体から攻撃的にスタイルを切り替えた。先程とは打って変わって苛烈に攻め立てていく。乱暴なようでいて、剣の重量による慣性を活かした流れるような連撃を仕掛ける。

 ファイアウェアウルフは強靭な筋肉を使い、黒い剣士とは逆に強引で力業の回避運動を取り続ける。だがいつまでもそれを許す黒い剣士では無かった。

 慣性をつけ続けた運動を、強引な踏み込みで止め、剣を斜め下後方で押し止める。そして反動とともに闘気を込めて、一気に振り抜く。

 完全に間合いの外にいたファイアウェアウルフはそれを避けようともしなかった。しかしその斬撃は剣の間合いを越えて、肉体を逆袈裟に斬り裂いた。

 吹き出す血液とともに断末魔を上げた3体目のファイアウェアウルフは、ゆっくりとその場に倒れ、やがて絶命する。

 ……炎のような赤い体毛は元の茶色に戻ったが、腹部の体毛はまた別の赤に染まっていた。


 かしゃかしゃと甲冑の擦れる音を鳴らしながら、黒い剣士達はショーマ達の元へ歩いてきた。緊張に身を固める。

 レウスはまだ掠れる目でその黒い剣士を見ると、ある言葉を口にした。

「教会、騎士……?」

 ショーマはその言葉は知らなかったが、教会と言えば覚えがある。先日レウスと目撃した黒いローブの人だ。

 かしゃんと音を立て、黒い剣士、いや、教会騎士は頷いた。

 と、何かに気付いたように街路の向こうを見る。

「おい! 大丈夫か!」

 男の声と足音がした。どうやら複数人いるようだ。

 それに気が付くと教会騎士は、その反対方向へと駆け出していった。

「あ、ちょっと!」

「いや、放っておいて良い」

「え……?」

 教会騎士と入れ替わるように、鎧に身を包み武器を手にした数人の男性達がショーマ達に駆け寄った。

「騎士団の者です。遅れて誠に申し訳無い。……随分派手にやらかしていたようだが、大丈夫ですか」

 騎士団と名乗った男達は、周囲の惨状に目をやった。

「あ、はい……。怪我人が、少し。それに……」

 寮を見上げる。火はまだ広がろうとしていた。

「よし、怪我人の確認と応急治療を済ませろ。魔法班は消化作業を急げ!」

「了解!」

 男は仲間に指示を出す。

「これは君達が……?」

「まあ、半分くらいは……」

「……教会騎士が出ているようです。あなた達に気付いてどこかへ行ってしまいました」

「……ああ、やっぱりいやがりましたか。……チッ」

 男は舌打ちした。何やら因縁があるようだがショーマにはわからない。それより気になることがある。

「あの、魔族は……、他の地区は大丈夫なんでしょうか」

「ああ、はい。急ぎ騎士団が街中に展開しています。いずれカタが付くでしょうさ」

「そうですか……」

「さあ、あんた方も。この先の士官学校が避難場所になってます。行きましょう」

「あ、はい。レウス、平気か」

「ああ、大丈夫だ」

「……レウス? っていうと、大隊長殿の弟さんで?」

「ええ、まあ」

「これは。すぐに兄上様にお知らせします。少しばかりお待ちを」

「いえ、結構です。兄も忙しいでしょうし」

「まあ、そうでしょうが……」

「僕は大丈夫です。頼れる仲間もいますから」

「わかりました。心遣い感謝します」

 騎士団の男は頭を下げた。


「リノンさん、大丈夫でしたか? それに、セリアも」

 ショーマはレウスの肩を担ぎながら、離れて見ていたリノン達の元へ近づいた。そばでは騎士団の白魔導師がカターマ氏の治癒を行っている。

「あ、はい。私は……。ショーマさん達こそ」

「俺達は、大丈夫ですよ。とりあえず学校へ急ぎましょう」

「はい……」

 騎士団の人達にも手を借りて、負傷したカターマ氏や警備兵を連れていく。


   ※


 士官学校の校庭と講堂が開放され、避難してきた人や負傷者を受け入れていた。ちょっとした騒ぎになっている。

 ショーマはレウスら負傷者を救護兵に任せると、セリアとリノンの3人で、他の人の邪魔にならないよう端の方にいることにする。

「あの、リノンさん。助けに行くのが遅くなって、すいませんでした。……お父さんにも、怪我させることになってしまって」

 リノン本人が無事でも、彼女の父親が怪我をしていたら、彼女だって辛いに決まっているだろう。守れるようになりたいなんて言っておきながら、情けない話であった。

「ショーマさんは、悪くないです。私が無茶なことをしたから、父を危険に巻き込んでしまったんですから……」

「それで、どうしてあんな所にいたんですか?」

 セリアは疑問を口にした。寮生はすでに避難していたというし、わざわざ火の手が上がったフロアにもう1度行くというのは、おかしな話だ。ショーマはリノンのために危険を侵したのだから、理由ぐらいは聞きたかった。

「ああ、セリア……」

 ショーマには思い当たることがあった。だが口にするのは少しはばかられる。

 ……リノンはショーマの部屋に行こうとしたのだろう。人も住んでいないし荷物はもう無いし、特別守る何かがあったわけでも無いはずなのだが、それでも彼女は何かを守ろうとそこへ向かった。それが何かはわからないが、恐らくはショーマに関わる何かだろう。

「良いじゃないか、それは。ちゃんと助けることが出来たわけだし」

「うん……」

 セリアは納得いかなさそうであった。

「まあ、そうだね」

 しかし、深く気にすることも無いかと思ってくれたようである。

「危険な目に巻き込んでしまい、本当に申し訳ありませんでした」

 リノンは深く頭を下げた。

「あ、いえ、いいですって、そんな」

 そんな風に真摯に謝られて、逆にセリアはうろたえてしまっていた。


「おい、オマエら」

 ショーマ達を見つけたバムスが声をかけてくる。後ろにはデュランもいた。

「手伝いに来たなら、生憎もう仕事は無さそうだぞ」

「ああいや。俺達は街に魔族が襲ってきたかもって聞いて、すっ飛んできたんだよ」

「ああ。連中、ここにも来たぞ」

「学校に?」

「居残っていた学生や教員で敷地内に現れた魔族は始末したが、教室や資材庫の一部がやられた。怪我人も出たしな」

「そうなのか……。こっちも、レウスがちょっと、やられた」

「あいつが……!?」

 驚いていたのはデュランの方であった。

「あ、ああ。俺も治療はしたけど、今ちゃんと見てもらってきてる」

「そう、か……」

 デュランはレウスの負傷が信じられないといった様子である。以前自分をこてんぱんにした相手だし、気持ちはわからないでも無かった。

「フン……、帰る前に顔だけでも見ていってやるとするか」

「え、帰っちゃうのかよ」

「仕事はもう無いと言っただろう。オマエらもあそこで騒いでいる口だけは達者な貴族どもと同類になりたくなかったら、後は騎士団に任せることだな」

「俺もそうさせてもらう。それじゃあな」

 バムスとデュランは会話もそこそこにさっさと立ち去ってしまった。

「あの、私のことは大丈夫ですから、ショーマさん達もお帰りになって平気ですよ」

「いや、あいつらの言うことは気にしないでも良いですから……」


 しばらくそこで待っていると、顔に包帯を巻いたレウスが戻ってきた。

「うわ、大丈夫なのか」

「いや、左目が少し悪いくらいだよ。大事をとって、なんて言われてこの有り様だ。心配しすぎなんだよ」

「……そうなのか?」

「ああ。あくまで念のためだし、まあ明日か明後日くらいには取って平気だろう。君の治療のお陰だ」

「そっか、良かった。……髪もちょっと切った?」

「焦げちゃったからね」

 レウスは少し短くなった前髪を指でいじる。

「さっきデュランとバムスが様子を見に来たんだが、まあすごい顔してたよ。ふふふ」

「……心配してんだよ」

「わかってるよ。……ああそれから、リノン・カターマさん」

「あ、はい……」

「お父上の怪我は無事治療されましたよ。この後ちゃんと病院に搬送されるそうです」

「そうですか、良かった……。ありがとう、ございました」

「いえ。それからセリア、君も。騎士団の人に聞いたけど、東居住区は被害無しらしいよ」

「そうなんだ、良かった……」

 セリアはほっと安堵した。さっきから口数が少なかったのは、やはりそれを気にしていたのだろう。

「東居住区と言えば、メリル、戻ってこないな……」

「何かあったのかな……」

 少し不安になる。だがすぐにそれは晴れる。

「セリアー!」

 人混みを抜けて、息を上がらせたメリルがこちらに駆け寄ってきた。

「あ……」

「メリル、大丈夫だったか」

「あ、当たり前でしょ……。余裕よ余裕」

 と言う割には肩で息をしているし、顔には汗も浮かんでいる。

「東居住区は、無事だったわよ……。安心して」

 一足遅れてその情報が届けられた。満面の笑みで。

「あ、ああ。うん……」

「ごめん、もう聞いちゃった……」

「えぇ!? 誰に!」

 セリアは黙ってレウスを指差す。メリルはそちらに視線を向けると、

「ぎゃっ!」

 包帯にくるまれたレウスの顔面に気付いて軽く悲鳴を挙げた。

「ひどいなあ」

「貴方の顔の方がひどいわよ! 何があったの!?」

「ちょっと過剰に巻かれてるだけだよ。たいしたことは無い。君こそ何でそんな疲れているんだ」

「別に疲れてないわよ!」

「どうでもいい強がりを……」

 戦闘に魔力を使いすぎて、東居住区の様子を見て帰る途中にサフィードを現界させるための魔力が尽き、自分の足で走って戻ってきたのだが、そんなことはみっともなくて言えなかった。

「強がっても無いわよ! ……で、そちらの人は、どうしたの」

 メリルは先程から気になっていたリノンのことについて聞く。1度だけ顔を会わせただけだが、忘れるわけは無い人物だった。

「ああ、この人が働いていた学生寮が襲われてね。僕達が助けに入ったんだ。彼女は無事だがお父上が怪我をされて、ここまで連れてきた」

「そういうことなの」

 メリルはふとフレイムスワロウとの戦闘で、最初の1匹だけは建物に突っ込んでいくのを許してしまったことを思い出す。ひょっとしてあれのせいでは無いのかと考える。

「……あの、良かったら私の……、ドラニクス家の別宅に来ません? 寮がそんな状態では、働き口はおろか住むのにも困るでしょうし」

 メリルはなんとなくそのことに責任を感じて申し出る。

「え、でもそんな……」

 だがそんなリノンにばかり都合の良い話に、ショーマは違和感を覚える。

「なんで急にそんなこと……」

「な、なんでって、困っているみたいだし……?」

「……お前そんな性格じゃないだろ」

「し、失礼ね。そんなこと無いわよ……」

「ていうか君の屋敷、そう簡単に入れてもらえないんじゃない?」

「う……」

 ショーマとレウスから指摘されて、結局メリルは口をつぐんでしまう。格式高いドラニクス家に、娘の推薦があるとは言え一般人のリノンを雇い入れることは出来ない。

「僕の屋敷なら大丈夫だよ」

 そしてレウスは、そんなメリルの意図を理解せず、のうのうと言ってのけるのだった。

2012年 03月01日

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