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ブランジア人魔戦記  作者: 長村
chapter,01
11/104

ep,011 ひとつ終えて、

 第2小隊が帰還する。時間は1530時。

「予想通り、君達と似た状況だったよ。ゴーレムも現れた」

「そうか……。でも無事で良かったよ」

 2人の小隊長が挨拶を交わす。

「時間は少し遅いが、状況が状況だ。これよりリヨールに帰還する。速やかに撤収作業にかかってくれ」

「今からですか?」

「ああ。リヨールに辿り着くのは深夜になるだろうが、仕方無い。日の出ている内に街道まで行けば夜道でも何とかなろう」

「わかりました」

 騎士ルーシェの指示を受け、第1小隊は夜営設備の解体を始める。

 あまり日が暮れるまで時間は無かったが、仕方無い。一同は手早く作業を済ませ、一夜を明かした川縁を後にする。


   ※


 獣道を抜け、路面の荒れた街道跡を進み、リヨールへ続く、舗装の整った街道に到着したのは夕陽が眩しい時間だった。

「後は楽そうだな……」

「夜盗が出る可能性もある。恐れるほどでは無いだろうけど、油断しないでね」

「り、了解……」

 街灯が所々にあるため、街道は夜間でも比較的安全だ。だが既に日は完全に落ち、街道の向こうは闇が広がるばかりだ。一同は歩みを速めて進む。

 結局、リヨール市街の灯りが見え始めたのは、2200時前であった。こんな時間では門を開けてもらうにも一手間かかってしまう。

「やっと帰ってきた……」

 誰ともなくそんな呟きが漏れる。

「申し訳無いけどまずは学校に向かうよ。報告を済ませなきゃ」

 レウスが告げる。ようやく帰れたという安堵の気持ちだった一同はまた少し気が滅入っていく。

「ほら、あとちょっとだ。最後まで気を抜かずに行こう!」


 街を進み、リヨール士官学校に到着する。学生はもはや誰も残っていなかったが、残っていた数名の教員達が集まりだし、凱旋する騎士候補生達を出迎えた。

 代表して、出立時にも彼らを見送ったボンボーラ教員が前に出る。

「リヨール士官学校1期生、第1、第2小隊。作戦を完遂させ、ただいま帰還しました」

 代表してレウスが報告をする。

「はい。皆無事に帰ってきてくれて本当に良かった。もう遅い。詳細な報告は明日にでも。……良い経験になりましたかね」

「……はい」

 レウスは力強く頷いた。

 それにあわせて、職員達から拍手が送られる。初めての戦いを終えた彼らに精一杯の賛辞を込めて。

 そのささやかな賛辞を受け、ようやっと勝ち得た物を実感するショーマ達は、照れ笑いを浮かべた。

「みんな、ここまでお疲れ様だった。本当に、ありがとう」

 レウスも笑みをこぼす。ようやっと肩の荷が降りたという感じだ。

「こちらこそ。お前が引っ張っていってくれたお陰で上手く行ったんだから。……本当にありがとう。レウス」

「ええ。良い小隊長だったわよ」

 笑い合う第1小隊の一同。

 きっと誰にとっても得難い経験になったはずだ。

 この8人が揃ったからこそ、この2日間があったのだから。


 荷車は個人的な荷物を除いて、教員や職員達が片付けることとなっている。実際の騎士団でもこういった作業は専門の者が行うことになっている。今回はその役を教員達が担当したというわけだ。

 ボンボーラ教員と話をしていた騎士ルーシェが一同の前に立つ。

「まずは皆、今回の作戦、ご苦労であった。

 今回の異常事態に関しては先程私から報告を済ませた。君達は明日にでもその件を含めた作戦報告書を小隊ごとに作成し、教員の方に提出をすること。それをもって本作戦は終了となる。

 ……この件に関して色々気になることもあるだろうが、騎士団の方で情報を精査し終えたら、いずれ君達にも情報は回す。だから今日はもうゆっくり休み、また明日から学業に勤しむことだ。

 この経験を糧に、いずれ騎士となった君達とともに戦う日を待っている。私からは以上だ」


   ※


 その後、明日の報告書作成を行う集合時間を決めて、第1小隊は解散となった。ショーマは皆と別れを済ませ、寮に戻る。

 大所帯で2日を過ごし終えた今、1人で歩いていると妙に寂しさを感じてしまう。

「お、帰ってきたのか」

「あ……、お疲れ様です」

 寮近くにいた警備兵と出会い、挨拶する。なんだかとても懐かしいことのように思ってしまう。

 外から寮を見上げると、灯りの付いている部屋はほとんど無かった。……あの人もきっともう眠っているだろう。

 しかし、期待せずに誰もいないロビーに入ったショーマを優しく出迎える女性がいた。

「あ……」

「お帰りなさい。ショーマさん」

 たった2日会わなかっただけだ。

 なのに、その笑顔を見て、ようやっと帰ってきたんだという思いが込み上げてくる。

「ただいま。リノンさん……。もう、こんな時間ですよ。まだ起きてたんですか?」

「ええ、……起きてました」

「……はは」

「……ふふ」

 冗談めかして笑い合うと、なんだか気持ちが暖かくなる。

 何か話したいと思ったが、中々言葉が出てこない。

「あ、そうだ、これ……」

 ショーマは胸のポケットから預かっていたペンダントを取り出す。

「それは……、まだ、返さなくて良いです」

「え、でも」

「これから先、まだ一杯こういうことはあるんですよね。だから……」

「……わかりました。もう少し、預からせてもらいますね」

 ぎゅっと握りしめ、またポケットに戻す。

「あ、鍵……、持ってきますね」

「はい」

 そうだ。今回は最初の始まりでしか無い。今後もまだまだずっと続くこと。また何日も彼女の顔が見られない日が来るのだろう。その時このペンダントを見れば、思い出せるかもしれない。

「お待たせしました」

 受付の奥から戻ってきたリノンが鍵を手渡す。

「あ、どうも。……えっと、それじゃあ、お休みなさい」

 段々気恥ずかしくなって来たので、自分の部屋へ向かおうとする。

 だが、背中から抱き締められ、足を止めてしまう。

(え、抱き……、え?)

 リノンがショーマを背後から抱き締めていた。

「ちゃんと帰ってきてくれて……、良かった……」

 背中に顔を押し付けられているので表情は見えない。だが、さすがにここまで直接的な行動に出られると……、困る。

 こんなことまでされたらもう、今までのやりとりやらこの行動から推察した彼女の気持ちに、ここで応えてしまうべきなのだろうか。

 だが、またも頭の中に誰だかの顔が浮かびそうになる。そしてちょうどそうなったところで、彼女の方から体を離されてしまった。

「ごめんなさい。今日はもう、ゆっくり休みたいですよね。……変なことしちゃって、すみません。私ももう、休みますね」

「え、は、はい……」

「そ、それじゃ……」

 リノンは俯いて早口に言うと、そそくさと受付の奥にある部屋に引っ込んでしまった。わずかに見えた顔が真っ赤だったのは気のせいではあるまい。

 追いかけてしまうべきだろうか。

 しかしみっともない話だが、やはり疲労は激しかった。朝から歩いて戦って怪我して勝利してまた歩いて……。そして今のやりとりだ。

 どっと疲れが吹き出してくる。今すぐこの場で倒れこみたい気分だった。さすがにそれはまずいので、ここは諦めて自分の部屋まで戻る。

 なんとか辿り着いたベッドに倒れこむと、そのまま沈むように、眠りに落ちていってしまった。

(……まあ、いいや……)

 いずれまた機会があるかもしれない。今はただ睡魔に身を委ねるだけだった。


 ……翌朝受け付けにいたのはリノンではなく彼女の父親だった。顔を合わせずにすんで良かったのか、悪かったのか。


   ※


 翌日昼頃。再集合を果たした第1小隊は、作戦報告書を書き上げていた。

「うん、不備は無いね。これで提出して良さそうだ」

 レウスが皆で相談しながら書き上げた報告書を確認する。

「これで今度こそ作戦終了だ。みんな、本当にありがとう」

「ああ。一時はどうなるかと思ったけど、皆無事に帰ってこれて良かったよ」

 改めて振り返ると、色々な経験が出来たものだと思う。まだ話したことも無い人物を知れたり、危ない目にあったり。知っている人の知らない部分を見たり。

 報告書作成が終了したので、これで解散となった。昨日の今日ではあるが、皆はまだまだ自分を鍛えるため、各々授業を受けに行く。

 ……第1小隊は今回限りの組み合わせというわけでは無い。また何か作戦に参加するとなれば召集されるだろう。その時はまた誰もがもう一回り成長していることだろう。……それまでは、しばしの別れだ。


   ※


「ショーマ」

 廊下を行くショーマを呼び止める声があった。メリルだ。

「ん、どうかした?」

「うん、あー、その……」

「?」

 珍しく歯切れの悪い様子だ。

「あの、そのね。昨日の、こと。なんだけど。あの、私をかばった、せいで、その……」

 ……腕を怪我した時のことだろうか。

 何となく怪我した腕の辺りをさすってみる。傷はすぐ治療したので痛みも傷痕ももう無い。強いて言うならローブには跡が残っているが、学校に返却したので今はたぶん修繕作業でもしているだろうか。

「お詫び、ってわけでも無いんだけど、その……」

 ……ずいぶん殊勝なことを言い出すものだと思った。

「あれはまあ、うん……。確かにすっげー痛かったけど。あんまり気にしすぎるなよ。もう治ってるし」

「そ、そういう問題じゃないでしょ……。だから、その。……こ、ここ今夜、しょ、食事でも、一緒に、どうかな、って……」

 何を言い出すかと思えば。

「それなら……」

 第1小隊の皆で行けば良いんじゃないか。と言いかけそうになって止める。さすがにショーマもそこまで失礼では無かった。言いかけたのは事実だが。

「今夜?」

「え、ええ。お店、予約してあるから……」

 中々どうして仕込みが速い。断られたらどうするつもりだったんだ。まあそんな気は無いが。

「うん。わかったよ。どこかで待ち合わせる?」

「そ、そうね。それじゃあ……」


   ※


 約束を取り付けるとメリルはその足で竜操術科の授業に行ってしまったので、1人で黒魔法科に向かう。

 教室に入った途端、ショーマに視線が集まる。何事かと思ったが、選抜の16人の1人だからかとすぐに気付く。ちらちらと様子を見るばかりで、皆あまり話しかけてこようとは思わないようだ。

 とりあえずセリアの姿を探し、隣の席に着く。16人の内の2人が揃いさらに注目が集まったが、こちらも気にしないことにする。

「よっ」

「あ、ショーマくん」

 熱心に魔法の教本に目を通している。

「昨日の今日で、ずいぶん頑張るな」

「むー、話したこと覚えて無いのかな」

「覚えてるよ」

 結果がどうあれ今まで以上に頑張る、という話だったはずだ。

 確か自分も手伝いたいとも言った。

「俺に出来ることあるかな」

「ショーマくんは教本の解き方教えるの苦手でしょ」

「そうだけどさ……」

 中々鋭いところを突いてくるものだった。

「もっと他の所でなら手伝ってもらえるかもだしさ。今は私なりに頑張ってみるよ」

「そっか。ならせめて邪魔にならないようにしておくよ」

「あはは。ありがと」

 そう言ってセリアは意識を教本に戻す。ずいぶんと集中しているようで、やっぱりあの戦いは良い経験になっているのだろう。

(俺もそろそろ新しい上級魔法にも手を付けてみようかな……)

 やはりまだ強力な魔法には恐れがある。だが『サンダーストーム』以外にも大きいのがあったほうが良いとは、あの戦いで感じた。

 恐がっていないで自分も前へ進まなくては、と覚悟を決める。


   ※


 授業が終わり廊下を歩いていると、向こう側からフィオンが歩いてくる。彼女もこちらに気づき、頭を下げる。

 ふと、川縁でのやりとりを思い出し、あることを思い付く。

「なあ、フィオン」

「あ、はは、はい。な、何でしょう」

 相変わらずよくつっかえて喋る子である。

「あー、まずは昨日までの、お疲れ」

「は、はい。こちらこそ……」

「えっとさ、ちょっと頼みがあるんだけど、聞いてもらえる?」

「え、えっと、私に出来ること、なら……」

「……紅茶の成分の解析とかって、出来るかな」

「はあ、……紅茶、ですか」

「水筒に入ってる紅茶を分析して、例えば、使ってる葉が何かとか、どこで作られてるか、とか。ほら、川の水調べたときみたいにさ」

「……普通の紅茶じゃ無いんですか?」

 不思議そうなフィオンである。まあ普通は紅茶にそんな調べる理由があるとは思わないだろう。

「ああ、えっと……。俺の記憶に関わってるかも知れなくて……。あれ、俺の記憶喪失の話ってしたっけ」

「え? そうだったんです、か。……いえ、聞いてないです」

「ああ、まあ、実はそうなんだよ。で、その前から持ってた紅茶があってさ……」

「あ、はい。そういう事情なら、私、頑張って、みます」

 あっさりと承諾してくれた。

「そっか。良かった。ありがとう。……今は寮に置いてあるから、また明日持ってくるよ」

「はい。あ、私は、いつもは薬師術科にいると思うので」

「うん。本当にありがとう。じゃ、また明日」

「は、はい。……また明日」

 別れを告げて、その場を立ち去る。

 メリルとの約束もあるし、一旦寮に戻ることとする。


   ※


「あ……」

 寮に戻ったレウスを迎えたのはリノンであった。

「お帰りなさい、ショーマさん」

 昨夜のことなど何も無かったかのような様子だ。切り替えの早いことというか。

 しかしショーマはそう早くも無いので、対応に困る。結局ろくなことも話さずそそくさと鍵をもらってその場を立ち去る。

 この後外出するならもう1度、その帰りにさらにもう1度会うことになるというのに気付いたのは部屋に着いてからだった。


「あら、お出掛けですか?」

 着替えを済ませ、再びリノンと顔を合わせる。彼女がいつも通りに過ごすなら、ショーマもそうしようと考えた。

「ええ。ちょっと今日は外で食べてこようと」

 何気無い風を装う。まあ嘘は言っていない。

「女の子とですか?」

「え」

 いきなり図星を突かれた。

「あ、ええ、まあ、そうなんですけどそうじゃ無いって言うか、いや無くは無いんですけど、あ、そう。ほら、昨日までのあれで、打ち上げ、みたいなものであって」

「そうなんですか。楽しんで来てくださいね」

 いつもの笑顔なのに全然違うように見えたのは、この何となく抱える後ろめたさのせい……、だとは思いたくなかった。


   ※


 待ち合わせ場所のユニコーン像の前で待つこと10分ほど。

(そういえば街をうろついたことって、全然無いな……)

 学術都市と呼ばれるこのリヨールは、その名の通り、士官学校を始め、魔法の研究所や数学や理科学を研究する機関が多く存在する。そのうち彼ら研究者に向けた商店街が発展していき、やがては王国の中心に近い地の利を活かして、貿易の仲介業などでも発展していき、今では王国でもかなりの大都市にまで発展した。

 そんな結構な都会だというのに、ショーマはほとんどの時間を学業に費やして遊ぶこともしないでいた。そんな余裕など無かったのだが。

 何てことを考えている内に、待ち合わせより少し早めにメリルが到着した。

「あら、もう来てたの」

 メリルの格好はいつもより落ち着いた感じがする、シンプルなワンピースタイプのドレスにストールを巻いた、気取りすぎず、それでいて気位を感じさせる出で立ちだった。

(俺はこの格好で良かったのか?)

 一応それなりの服を選んだつもりだったが、所詮は初めてこの街に来た時に、着替えとしていくつか適当に買った物の1つである。

「じゃあちょっと早いけど行きましょうか」

「ああ、うん」

 特に何も言われなかったし、問題無いのだろうか。それなら堂々としていたほうが良いかもしれない。あれこれ考えながら、メリルの隣を歩いて行く。


「実はあんまり街を出歩いたこと無いんだ」

「あら、そうなの。じゃあこの辺りにどういうお店が並んでいるかもわからないかしら」

「……お金持ちの人向けなのはわかるよ」

 貴金属や高級な服が並ぶ店がたくさんあることくらいはショーマにもわかった。街はそろそろ暗くなってくる頃だが、この辺りには洒落たデザインの街灯が多く、まだまだ賑やかだ。

 辺りを歩いているのも着飾った人ばかりで少し居心地が悪い。

「せっかくだし少し寄ってみる?」

「俺が行っても良いところなのかね」

「さあ。どうかしら。ふふ」

 楽しそうに笑うメリル。ちょっと緊張していたが、その様子を見て少し落ち着く。

「この赤いジャケットとか案外似合うんじゃないかしら」

「……派手すぎないかい?」

「そんなこと無いんじゃないかしら」

 ……はて、なんだか以前にもこんな会話があったような。

「ま、いいわ。そろそろ予約していた時間だし、行きましょうか。……ショーマ?」

 ぼーっとした様子のショーマにメリルは声をかける。

「あ、ああ。ごめん」

「……もう」


 連れてこられたレストランは40年もの歴史がある老舗だという。上流貴族御用達の高級店であった。

 窓辺の席で、街灯の灯りが輝く街の様子を見下ろしながら食事が用意されるのを待っていた。

「……こういう所には、よく来るのか?」

「毎年私の誕生日に来ているわ」

「……、へえ」

 そんなところに呼ぶとは、お礼にしてもやりすぎでは無いだろうか。

「……あんな風に助けられたんだもの」

 考えていることを見透かしたのか、メリルは自分から話し始める。

「とっさに体が動いたんだよ」

「それでも、私の代わりに怪我をさせてしまったわ。もし助けて貰えなかったら、命を落としていたかも知れないし」

「ん、まあ……そうかもしれないけど」

「それに、私が落ち込んでいた時にも、声をかけてくれた」

「あれは……、うん……」

「あんな風に言ってもらえたから、私、最後に立ち直れたんだと思う」

 ショーマは、あんな落ち込んでいるメリルの姿が、嫌だった。だから何とかしたかっただけだ。

「俺はさ、メリルはすごい自信家で、それに見合う力を持った、立派で……、何て言うのかな。非の打ち所が無いって言うか、……憧れるような存在だと思ってた。……でも、意外とそうでも無かった」

「……がっかりさせちゃった?」

「そんなこと無いよ。ちゃんと自分だけで立ち直れていたし。それはやっぱりすごいと思う。……それでも失敗してへこたれる、弱い所もある。

 そんなだから君のことを、俺は……」

 君のことを……?

「……何?」


 聞き返すメリルの顔を見る。

 透き通る碧い瞳は、強くて、気高くて、優しくて、か弱い。

 メリルは以前、自分を『上に立つ者』と言った。『強い者』として『弱い者』を導く『責任』があると。

 彼女は確かに『強い者』だと思う。とても立派で、頼りになる。自分の信念に基づき、するべきことを果たす。その迷いの無い姿に人はきっと心を打たれ、彼女の後を行くだろう。

 でもそれはまだ、完璧な物じゃない。まだどこかに至らない物を、『弱い』部分を抱えている。

 失敗もする。失敗して後悔もする。後悔して自信を無くしかけたりもする。

 この重荷を背負うにはまだ、彼女の両肩はか弱すぎる。

 ショーマにはそんなメリルが、とても儚く感じられたのだ。


 か弱くも、凛々しくあろうとする少女メリル。

 君のことを……。


「俺は、君のことを……、支えてあげたいんだ」

2012年 03月01日

話数表記追加、誤字等修正

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