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こてつ物語4  作者: 貫雪
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 ハルオと香の尾行も二日目を迎えていた。礼似からの連絡で、礼似の情報収集は、すでに組内で噂となってしまっていたらしい事が分かった。


「れ、礼似さんはやりにくくなっただろうが、こ、これできっと何かの動きが起こるはずだ。お、大谷に近付く人物は注意しないといけない」ハルオの緊張感が増す。


「ね、ワイヤレスマイク持ってない?」香が言い出したが


「そ、そんなのつけるのに苦労する。ま、まして回収もしなきゃならないんだから、二、二度も接触するなんて」


「そこは心配しないで。持ってるなら貸して下さい。大谷に近付く人間の会話は、もれなく聞きとりたいんでしょ?」


 ハルオはしぶしぶ、香に盗聴器を渡す。香はさっさと歩きだして一瞬大谷とすれ違った。ぶつかる風も、手を動かした気配も感じなかったが、香はそのまま戻ってきた。


「オッケー。上着のポケットにピンで刺してきた。これで会話はバッチリよ」香は得意げに言う。


 たしかに周波数を合わせると、大谷の声が聞こえてくる。これで無駄に近づくことなく会話を知る事が出来る。


「い、いつのまに」ハルオは唖然とした。


「私の母親はスリだったの。それも一流の腕のね。私はそこまでは及ばないけど、このくらいなら朝飯前よ」

 香は盗聴器に聞き入りながら言う。


「ハルオさんも、私と歩く時はポケットに気をつけた方がいいですよ」


 香に言われて、ハルオはポケットに思わず手を突っ込んでしまった。香は楽しげに笑いながらも耳をすませた。


「あ、携帯が鳴ったみたい」



 大谷は連絡を待っていた。前日に礼似が組内の噂話をかぎまわっている事を聞いていたので、会長か、反会長派のグループが動き出すだろうと読んでいた。大谷には反会長派が必ず存在すると思っていた。大谷の元の弟分の西岡という男が、そのグループに深く関与していたからだ。ひょっとしたら、西岡が旗振り役をしているのかもしれない。そもそも、西岡は麗愛会の吸収を快く思っていなかったはずだ。


 西岡は自分が裏で管理していた地元企業を、麗愛会にまんまと取って代わられた事があった。いくら暴走組とは手を切った連中だといっても、西岡が簡単に信用するとは思えない。だいたい、組織内の複雑化を招くこの吸収 自体も西岡のように派閥的な考え方を嫌う奴には腹にすえかねているはずだ。


 彼らはもっと大きな力、手っ取り早く言えば、金と権力を自在に動かせる力を求めているようだ。



 大谷自身は反会長派は、巨大化したこてつ組を安定させる力があるとは思っていない。欲の多い人の世で、金と圧力だけで渡り切るのはむしろ不可能だと思っている。


 しかし、それでこてつ会長が失脚するのなら、所詮それまでの器。無理にそんな男について回る事はない。西岡達の浅い考えなら、うまく立ち回れば自分に会長のお鉢が回ってこないとも限らない。それは無くても、裏から操る事は十分に可能だろう。


 逆にこてつ会長がここで組の掌握に成功するなら、さっさと西岡達を排斥して会長のバックアップを買って出ればいい。この事態をを乗り切る技量がある人間に、あえて逆らう必要などない。普通に上を目指せばいい話だ。


 不思議な事に、時間のある若い時ほど功を焦るもので、もう、けして若いとはいえない年の自分などは、慌てず、逆らわずにいても、チャンスは逃さない目を持ってさえいれば、余裕を持って先を見極める事が出来る。


 華々しい注目など集めなくとも、最後に収支が合えばいいのだ。


 そんな事を人ごみを歩きながら考えていると、携帯電話の着信音がした。何か動きがあったのだろうか?


「どうした? 動きはあったか? 会長はまだか。西岡は? やはり一度はどこかで集りそうだな。よし、とりあえず俺と西岡は反目しているらしいと、噂を流しておいてくれ。西岡から目を離すなよ。ああ、また連絡してくれ」


 大谷は苛々と通話を切った。会長も用心深くなっている。第三者の手を介さずに自分決めで物事を運び出した。


「これは会長に分がありそうだな」大谷は一人、つぶやいた。



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