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こてつ物語4  作者: 貫雪
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 こてつ会長は手にしていたファイルを机に置き、目頭を押さえながらイスに沈んでいた。


 自らの求心力が落ちかけているのが手ごたえとして分かってしまう。


 もちろん分からなければ自滅の道をたどるため、対策を打つためには察知できなければ困るのだが、精神的には疲れて来る。しかも弱気は見せられない。


 組織が大きいほど派閥が大きく、複雑になるのはどの世界でも同じ事。派閥が存在しない方が不健全なのだろう。


 さらに基本は一匹狼の多いこの世界。おとなしく同じ派閥にまとまってなどいない。裏切りは日常茶飯事だ。


 それでも、麗愛会の吸収前はそれらの動きが把握できていた。幹部達もそれぞれの派閥の長としての役割を担っていたし、裏切りも程度が過ぎれば信用の失墜が待っていた。だから、会長は幹部達の状況と動きに目を光らせさえすれば、求心力を保つ事が出来たのだ。



 ところが最近、幹部達の力が軽んじられてきている。組の巨大化に伴って、派閥よりもさらに大きな力が求められてきているらしい。派閥も信用も関係ない。裏切りに程度も何もない状態となりかけている。


 その上、どうやら派閥を越えた反会長派と呼ばれる勢力まで出てきているらしい。


 現在はこてつ会長の求心力によってその求めに応じている。応じきらねばならない、緊張した状況が続いている。


 ここで隙を見せようものならこてつ組は事実上解体し、巨大な組織内で大戦争が勃発する恐れもあるのだ。


 今や目にする幹部達、側近たち、すべてにいつ裏切るかというフィルターを通して接する必要がある。

よって、会長は疑心暗鬼の渦巻く中で、孤独な戦いを強いられている真っ最中なのだった。


 今必要なのはこてつ組内部の正確な最新の情報だ。組員には任せにくい。上の者は信用しにくいし、下の者では危険が伴う。華風や、真柴の人間を使えば、何かあった時には組内の反発を招くだろう。


 礼似の事も頭に浮かんだが、彼女一人では荷が重い。出来れば外からの冷静な視線も欲しいところだ。

 現在、組織に関係していない外部の人間で、正確、かつ、適切な情報を集められる人物はいないだろうか?


 そんな事を考えながら、会長は情報屋といわれる人物達のファイルをめくり続けていた。



 噂という情報は、正確さには欠ける癖にスピードだけはやたらと早い。しかも消えるのも早いのだから厄介だ。


 自然に発生した噂は人の口を流れるうちに方向性を失って、嘘も真実も関係なくなってしまう事が多いが、そこに恣意的な意図が混じりこむと、実体がないままに、まことしやかな真実となって一人歩きを始めてしまう。


 そんなうわさ話の尻尾を捕まえようという、雲をつかむような作業に礼似は一人で挑んでいた。


 まずは、本当に反会長派なるグループが存在するのか? 良平を襲った奴らがいる事は確かだが、それが一つのグループなのか、会長に不満を持つ者がたまたま、寄り集まっただけなのか? そこからして分からなかった。


 中堅どころより上の人間に「噂を教えろ」と言って、「はい」と答えるバカはいる筈もないから、下っ端達の中から口の軽そうなのを片っ端から捕まえては、あれや、これやと話しを聞きまくる。時間もかかるが、財布の方も結構(!)軽くなってしまう。しかも、口の軽い相手の様子を見て、何割まで信用できるかも判断しなければいけない。


 それでもどうにかその日のうちに、何らかの意図をもったグループが形成されつつある事は把握できた。大谷にいたっては、噂を使って自分がいつでも動ける事をむしろアピールしている気配さえあった。


 しかし、その翌日には皆の口が堅くなった。礼似が噂をあれこれ掘り返している事が、すでに噂として流れたらしい。内部で情報を得るのはこれが限界なのだろう。

 香とハルオが何かをつかむのを待ってもよいが、これは情報戦だ。状況の把握は早いに越した事はない。


 出来れば外部からの判断と裏付け、噂の正誤に鼻の聞くカンの良さが欲しいところだが、残念ながらそういう人物のつてがない。本当に役にたつ情報屋は、金や、一時の繋がりだけでは相手にしないのだ。


 こうなったら気は進まないが、御子に幹部達の心を読んでもらおうか? でも、主だった幹部だけでも三十人以上。しかも今度は御子が狙われるリスクを負ってまでやるべき事とも思えないし。


 礼似があれこれ考えを巡らせていると、こてつ会長からお呼びがかかった。やっぱり反会長派の件かしら?


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