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いざ尾行を始めると、ハルオは意外なほど大谷に近付かない。大谷が車で移動するときは、香のバイクにおっかなびっくりの様子で後ろに乗って固まっていたが、歩いて後をつける時には、結構な距離を置いている。
香なら不安になる距離だが
「し、視野を広く取れた方がいいんです。つ、次の動きが読めます。見通しがいい所で、無理に近づく必要、な、ないですから」
言われてみると、見通しの良し悪しで距離感が結構違う。それに黙ってそそくさと歩いて、近づくかと思えば、離れる時は香に話しかけて、歩をゆるめる。動きが自然で無駄がない。誰かとの会話に聞き耳を立てたい時は、わざとケータイを鳴らし、電話に出ているふりをして
「ちょ、ちょっと、別行動します。自然に向こうへ歩いていて下さい」
小声でそう言うと、いかにも電話で呼び出されたとばかりに香に軽く手を振って離れ、気がつくと大谷の近くに身を潜めている。そして、いつの間にか香の元に戻っていて驚かされる。しかも気配を感じさせないのだ。
しっかり私も小道具にされてるじゃない。大したもんだわ。
その日の尾行を終える頃には、香はハルオの印象を訂正せざる負えなくなっていた。
「だいぶ慣れてきたみたいね」土間は良平の義足を見ながら言った。
「後は踏み出す瞬間のバランスだけですね」良平も義足に色々な方向に重心をかけながら答えた。
華風組の稽古場で、良平は土間を相手に木刀を振るいながら、新しい義足を使いこなす訓練をしていた。
今度の義足は普通に歩行するときには、程よい具合に簡単なロックがかかる仕組みになっている。以前よりずっと安定感が増しているので、普段の動きで無駄な消耗をせずに済むようになった。
反面、ロックを外すと、人間の関節では到底あり得ない可動性が可能になる。あらゆる方向に自由自在に関節部分が動かせるのだ。
勿論それを使いこなすには、かなりのバランス感覚と、柔軟なしなやかさが身体に求められるのだが、このところの訓練のおかげで、良平も、かなり使いこなせるようになっていた。
「たしかにロックを外した直後の不安定感が残っているみたいね。当然だけど」
土間も良平の感想に同意する。
「普段の安定がいいだけに、感覚の落差を感じるんだ。これは慣れるしかないです。せっかくのいい機能ですし」
素人には用のない、こんな義足を作れるのは倉田しかいないだけに、良平が倉田の作る義足へ寄せる信頼は厚いものがあった。
「このまま訓練を積めば使いこなせそうです。ここの稽古場を使わせてもらえるのは本当に助かります」
真柴組だと小さな庭先で訓練するしかなくなってしまう。それでは効率が悪いだろうと、土間が気を利かせたのだ。
「いいのよ。私もいい稽古になるわ。それより今度、うちの若い者に良平のドスさばきを見せてやってくれる? きっといい勉強になるから」
「そのくらい、お安い御用です。義足が使いこなせるようなら、さっそくにでもお見せしますよ」
良平も請け負った。
「本当はハルオにも、憶えてほしいんですがね」良平は土間の顔色を見ながら言う。




