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「仕方ないわね。私じゃ大谷に顔が知られ過ぎているし、香に頑張ってもらうしかないのかな?」
礼似はやや不安げに香を見るが
「任せて下さい!大谷をがっちりマークしますから!」と、当の香は大はりきりだ。そこがかえって不安なのだが。
するとそこへ、ハルオがお茶を持ってきた。
「あ、あの。さ、差し出がましいでしょうが」
「あら、ハルオ。ありがとう」礼似はハルオに礼を行ったが
「い、いえ、お、お茶の事じゃ、な、無くて、その」ハルオがつっかえながら否定する。
「お、俺が、お、大谷って奴を、び、尾行しましょうか?」
「あんたが? 確かにあんたは尾行が得意中の得意だけど」礼似が怪訝な顔をする。
「そ、そうです。と、得意なんです! か、香さんにも、び、尾行の、こ、コツみたいなものを、お、教えられます。あ、危ない事も、さ、させませんから」
どもりのハルオが、一層上ずり気味に言う。御子はピンと来た。
今度は香か。この惚れっぽさはどうにかならないものかしらね。
礼似も察しがついた様で、二人でこっそり視線を合わせる。香は一気に不機嫌な顔になった。
しかし、香一人に任せるには確かに不安が大きい。向こうは麗愛会発足前からの百戦錬磨のつわものだ。たかが尾行と言えども、何があるか解らない。逆にハルオの尾行術は折り紙つきだ。香がサポート側に回ってくれれば、一層心強いのだが。
「なんで、人の仕事を取り上げるような真似、するんです?」
香はハルオに詰め寄っている。これではサポートは望めないか。
「香、悪いけど今度はハルオの指示を受けて頂戴。私はこてつ組のうわさや情報を集めたいし、あんまり当事者の良平や御子を、こてつ組に近づけたくないの。いざとなったら土間にも協力してもらうから」
不満そうな顔の香に礼似はさらに言った。
「こう見えてもハルオの尾行は一流よ。あんたにとってもいい勉強になるはず。それにハルオは絶対にあんたに無茶はさせないわ。それがどんなに大事なことか、その身で体験できるかもしれない。今回は二人で組んで仕事をしてもらうわ」
これでハルオが冷静でいてくれれば、言う事がないんだけど。
礼似と御子は二人同時にため息をついた。