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こてつ物語4  作者: 貫雪
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「こてつ組は大きくなった。やや、大きくなりすぎた。組織が巨大化すると人間関係がどうしても希薄になってしまう。それが今回の事態を招いた。私は今回の件で幹部を断罪しない。むしろこれを利用して貸しを作ろうと思う。しかし以前のように信用するのは難しくなる」


 甘い所を見せれば、本当なら付け込まれて借りが出来てしまうはず。そこを貸しにする事が出来るのはこの人の技量があるからだろう。言葉はあっさりしているが、自分の能力を礼似に見せつけているのだ。


「私には安心して使える部下がどうしても必要だ。今度の件でようやく側近たちは信用できるようになった。土間や御子も信用している。しかし二人はこの組の人間ではない。土間は華風組長。御子も次代を継ぐだろう。二人とも最後は組に骨をうずめるのだろう。お前はどうだ? 礼似」


「私だってこの世界でしか生きられませんよ」いまさら何を? 礼似はそんな顔をする。


「この世界で、だろう? この組ではない。お前も元は麗愛会の人間だ。しかも帰属意識が薄い。それはお前の長所でもあるが、私にとって使いにくいところでもあった。だから私はお前を縛らせてもらう。香と一樹を使って」


 さしずめ二人は私の自由を奪う人質か。特に一樹は会長に恩がある。香だってまだまだ半人前だ。


「この際、利用しようって訳ですね。随分綺麗なやり方ですこと」嫌みの一つも言わずにはいられない。


「そう言うな。お前は私に大きな貸しを三つも作ったんだ。香を引き受け、一樹を受け入れ、由美も守ってくれている。どうだね? 私の首根っこを殆んど抑えている気分は?」会長が笑う。


 違う。抑えられたのは多分、自分の方だ。香や一樹は勿論、土間や御子にもこの人がいなければ出会うことはできなかった。家族を持たず、社会に戻れず、何処にも居所を持たなかった自分に、この人は友情と居場所を提供してくれた。自由こそ失ったが、もう自分はこのしがらみから逃れることはできないだろう。


 流石は代々に渡ってこの街の裏の歴史を背負って来た人物だわ。それでも礼似は鮮やかな笑顔を作って見せる。


「最高の気分です」このくらい言わなくちゃ、まるで道化師だわ。



 ハルオはしょげかえっていた。昨日の意気揚々とした気分は香の言葉ですっかり吹き飛んでしまった。


「私を守ってくれた事も、約束を守ってくれた事も、感謝しているわ。でもね、悪いけど私、刀使いって、大っきらいなの。いろんな武器を持つ人の中でも、一番嫌い。最低な私の父親と同じ道を歩いているんだもの。あんたや良平さんや土間さんが刀やドスを持つのは否定しないけど、私の近くにいてほしくないの。分かった?」


 自分が刃物を握れる様になったのは香のおかげだと感謝の言葉を述べたとたんに、肝心の香の返事がこれでは、ハルオとしては立つ瀬がない。それにもう自分は決めてしまった。どれほどの後悔に襲われようとも、一生刃を持ってこの組を守り続けると。ハルオは早速後悔に襲われているのだった。畜生。やっぱり刃物は嫌いだ!


 香は香でムカムカしていた。自分は礼似さんと境遇が似ていると思っていたが、どうもハルオとも似ているようだ。刃物が嫌いで、天涯孤独で、ふた親が裏世界の人間で。だけど決定的な違いがある。


 ハルオは自分の両親の事で悩む環境で育っていない。だからあんなにお人好しなんだわ。


 親の事に悩まず、最初からあきらめがついて、真柴組の人たちに守られて。ゆったりと育った感じ。


 なのに、こっちで生きるための技術や技能は私よりもずっと上だなんて。羨ましいし、悔しい。


 要は、香はハルオの育った環境と恵まれた才能に嫉妬していたのである。しかもその嫉妬心を自覚しているので、余計に悔しくてならないのだ。あんな奴、近づかないに限るわ。冗談じゃない!



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