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こてつ物語4  作者: 貫雪
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 着いて見ると乱闘はこう着状態に陥っていた。しかし助っ人の集団が到着したと見ると、一時ひるんだ反会長派が息を吹き返すように挑んでくる。勝負は殆んど決っている。反会長派に未来はない。しかし。


 だからこそ追い込まれた外れ者達はあきらめずに向かってくる。万策尽きた時におとなしく引っ込む事が出来る連中なら、こんなことにはなってはいなかったのだろう。勢いはますます増してくる。それはいっそ輝くようだ。


 未来が無い事を田中達は分かっている。これを最後の花道にするつもりで全力で戦いに挑んでいる。迎え撃つ会長も、ここで手を緩めようものなら、味方もすぐに裏切りだす事を知っている。実質の勝負はついているにもかかわらず、乱闘は一層激しさを増していた。



 ハルオは生まれて初めて自らの手でドスと呼ばれる短刀の鞘を引き抜いた。まだ、全身に震えが走る。


 今までだって喧嘩にも、乱闘にも参加してきた。相手をかく乱させ、引っ掻き回し、最後には逃げのびて来た。


 だが今日は初めて自分で挑んで行く喧嘩だ。人を傷つけずに自らの身を守る事が出来るだろうか?


 さっき土間に教わったばかりの構えを取る。完全に付け焼刃だ。ただし、間合いや感覚は今までの経験で身体が知っている。相手を傷つけたくない。たとえどんな相手であろうとも。


 すると目の前に香が出て来た。あまりに露骨なかばわれ方に、ハルオは一瞬がっかりしかけたが


「ハルオさん。さっき土間さんと約束したわね。人を斬らないって」香が聞いてくる。


「私もハルオさんに人は斬って欲しくない。本当は人を斬る人間なんてこの世にいてほしくない。だからぎりぎりまで手を出さないで。簡単に人に刃物を向けないで」


 香から、さっきまでの不満げな空気が消えていた。香は自分が刃物で立ち向かえるようになるまでを見届けてくれていた。今、一番信頼していいのは香かもしれない。


「わ、分かりました。でも、お、俺、香さんを、ま、守りますよ。い、嫌だって言っても」


「分かってるわよ」香が背を向けたまま、くすりと笑った気がした。



 田中は不利な形勢を逆転させるわずかな希望を探していた。本当にただでは済まないのは西岡ではなく自分だ。


 西岡は、受け持っていた企業を奪われて、力も権限も失うかもしれないが、もともとがコバンザメタイプだ。


 騒ぎが終息すれば多少のそしりを受けようとも、いつの間にか鼻を聞かせて次にのし上がる事を夢見る者に、見出される事だろう。それは利用され続ける事でもあるのだが、常に一定のポジションが確保できると言う事でもある。自らの居場所を与えられ続けるのだから、ある意味得な性分だ。


 だが自分はそうはいかない。どんなに欲深いと言われようとも、三日天下と言われようとも、高い場所からの景色を一度は拝みたい。きっとそういう風に生まれついているのだろう。社会から外れて生きて来てしまった以上、誰もが見る事の出来ない景色を見るためにはここで挑戦するしかないのだ。


 人は誰でも欲を持っているのだから、欲望を極める事を夢見る人生を最上として何が悪い。


 田中の追いつめられた心情は、より、自らを肯定することへと傾いていく。このままでは終われない。


 降りた車の近くに会長と真柴組長がいる。取り囲むように数人の幹部の姿。上着の懐にしまった銃を意識する。自分には遠距離から狙いを定めるほどの腕はない。当然防弾着も着用しているだろう。狙うなら手足、あるいは頭で仕留めるか。そのためには近づく必要がある。


 幹部達の結束感は、このところ自分の裏工作で緩んできたはずだ。本気でかかれば俺にはまだチャンスがあるんじゃないか?


 田中はゆっくりと会長たちの方へと歩を進めていく。



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