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こてつ物語4  作者: 貫雪
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 ハルオの恐怖は頂点に達した。


 これは人を傷つける道具だ。殺してしまう道具だ。赤い血が大量に流れる道具だ。大きな力のある道具だ……


 相手もこの道具を持っている。大きな力が襲ってくる。殺されてしまう。怖い!


 恐怖の限界の中でハルオは握った刀の重みを感じ取った。今、自分は相手と同じ力のあるものを持っている。この力に任せれば自分は無事で済むかもしれない。


 そう思った途端、恐怖は真逆に反転した。これさえあれば、これで相手を斬ってしまえば、この力に任せてしまえばこの恐怖から逃れられる!


 何も考えられなかった。頭が突然真っ白になった。香の視線どころか、存在さえ忘れてしまった。身体が勝手に動いていた。全力で刀を相手に振り下ろしていた。


 全身の力を込めていたが、その刃は相手の刀にしっかりと受け止められてしまった。さらにぎりぎりと力を込めたが、力の行き場を横に逃がされると、そのまま横に倒されてしまった。手から刀が離れる。

 手放してしまうと自分が一層、小さく非力に思えてくる。恐怖でまた刀を握る。いや、力にしがみついて行く。


 握ってしまうと、また早く相手を斬り倒して楽になりたいと思う。逃げたい一心になってしまう。

 それなのに相手は容赦なく向かってくる。刃物を向けて来る。大きな力に襲われ続ける。逃げたいのに逃げられない。やめたいと思う頭とは別に、ハルオは恐怖に掻きたてられ続けていた。


 土間は土間で、この時舌を巻いていた。これがハルオの才能か。

 とにかく動きが早い。刀の振りが荒く、大ぶりなので本人も振り回されてはいるが、動きは反射神経の塊だ。


 喧嘩で逃げ慣れているせいか、身体のバランス感覚もいい。かなり無理な体勢からでも身体の中心を立て直せる。まるでやじろべえか、ジャイロのようだ。ハルオの体格から見ても、もしも短剣を持っていれば……これなら良平が仕込みたがるのも分かる。ドスでも持たせて、振りの早さや幅をコントロールできれば、相当の使い手になれるかもしれない。しかし。


 目が瞬きを忘れている。見開いた目は恐怖にとらわれて、土間の刃先を見つめたままだ。わが身を守ろうとする意識があまりに希薄すぎる。大きすぎる恐怖に、そこから逃れる事しか頭になくなり、かえって命を危険に晒してしまっている。このままでは暴発する。土間はハルオを突き飛ばした。ハルオはひっくり返るが刀はもう手放さない。


「だらし無いわね、何? その情けない目つきは。それで人を守れると思っているの?」


 ハルオはカッカするタイプではないが、それでも男の自尊心はあるだろう。心に届いてくれるか?


「香に見られてんのよ。分かってる?」恐怖から現実に引き戻せるか?


 ハルオの視線がようやく香を捕らえる。香は声も立てずに立っている。ハルオははっとした顔になり、体勢を立て直して土間に向き直る。


「お願いします」ハルオはどもることなくそう言った。



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