表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こてつ物語4  作者: 貫雪
20/28

20

 こてつ会長は由美から借りた携帯で、通話を終えたところだった。自分の携帯は細工や盗聴されていると思っている。ついで内線で田中を部屋に呼びつける。


「西岡が真柴組にちょっかいを出している。今も組長の養女を呼び出したらしい。お前、西岡に伝えに行け。ただでは済まんとな」会長が表情を動かさずに言った。


「西岡、ですか? 何故私に?」田中は真底意外そうな顔をした。


「理由はない。大谷では今の西岡は言う事を聞かない。お前が行け」問答無用の口調で言う。


「分かりました」田中は頭を下げると、速やかに部屋を出ていった。


 会長は田中が組を出るのを窓から確認すると、内線で緊急に幹部達を集めるように指示を出した。ただし、田中を除いてだが。



 田中は組を出てしばらくしてから、西岡に電話をかけた。西岡との連絡は可能な限り避けていたが、この際仕方がない。わざわざ俺を指名したと言う事は、すでに会長にはバレているのだろう。


 こうなったら真柴の養女を人質にしてでも、強引に事を運ぶ以外に手立てはない。何なら殺してもかまわないだろう。要は会長が動揺すればいいのだ。会長に不満を持つ者は多いのだから、その隙を突きたい奴はいくらでもいる。事が急にはなったが大谷も後釜を狙っているようだし、俺だって負けやしない。きっと勝機はあるはずだ。


「西岡か? 真柴の養女は呼び出したか? 何かあったと分かれば当然、真柴や、会長、華風も動くだろう。呼べる限りの応援を送るから、必ず真柴の養女を手中にするんだ。俺もすぐそっちに着く。分かったな?」


 返事も待たずに通話を切る。これから掛けなければならない先がたくさんあるのだ。田中は次々と電話をする。


 だが、何かおかしい。息のかかった街のゴロツキや、舎弟達には連絡がつくが、こてつ組の幹部達とは直接の連絡が取れない。皆、留守電や伝言ばかりだ。いやな予感がして組に電話をかけると、


「大変です! 今、緊急の幹部会議が開かれてます。どうやら田中さんは幹部から外されたようです」  と、組に残した留守番役の男が叫んでいた。


 しまった! 会長に先を越されたか。いや、まだ会長を動揺させれば、寝返る奴がいるかもしれない。


 田中はどっちにしろ、自分のケツに火が着いてしまった事を痛感させられていた。



 ハルオは刀を握り締めたまま、カチカチに固まっていた。まるで今にも刃が逆を向いて、自分を斬り裂きに来るような気さえする。あまりの緊張に震える事さえできないのだ。


 しかも、さっき香が稽古場の中に入ってきたのが見て取れた。この情けない姿を見られている。穴があったら入りたいどころではない。自分の存在そのものを消してしまいたいほど恥ずかしい。


 土間に二つの選択を迫られた時は、あまり迷うこともなく(全く迷わなかった訳ではないが)刃物を使えるようになる道を選んだ。ハルオにとっての組は、ただの組織ではない。赤ん坊の頃から自分を支え、育て、受け入れてくれた人々が家族同然に暮らしている。まさしく家庭でもあるのだ。だからハルオは自分の家族を守るように組を守りたかった。どんなに向いていなくても、家族の命を守る道しか選ぶ事が出来ない。


 そう決心したはずなのに、いざ、刀を抜くと、握っているのは自分だと言うのに、身体のすべてが石のように固まって、ピクリとも動かせなくなってしまっている。身体が心を裏切っている。


 おまけにそれを香に見られているのだから、始末が悪かった。


 自分の持っている刀の刃先が光る。怖い。脅えるハルオを香が見ている。逃げ出してしまいたい。この刃からも、香の視線からも。さらに土間が自分の刀を抜いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ