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こてつ物語4  作者: 貫雪
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「ああ、俺はこんな面倒事はごめんなんだが、お前らがぐずぐずしたおかげで、余計な仕事が増えたようだ。お前らはいきなり良平を狙うからまずいんだ。女房の方をとっ捕まえて良平と引き放せばいい」

 西岡が言う。


「あの女房も千里眼を持ってるんです。簡単にはいきませんよ」


「そこは電話で嘘八百でも並べるのさ。機械を通した声まで見通せる訳じゃないだろう。いくら千里眼でも新婚の亭主に何かあったと言われれば、多少は動揺する」


 残念でした。全部筒抜けよ。大体あの御子が何も考えずに電話一つで飛び出したりするもんですか。


 礼似は心の中でほくそ笑んだ。さて、田中とのつながりがある事も分かったし、この程度の面子だったら、ちょっとお仕置きしておこうかしら。絞れば反会長派の主だったメンバーくらい、口を割るかもしれないし。そんな事を考えていたが、木道の向こうに見覚えのある姿が見える。


 うっそー! なんでこんなところに会長の奥様と、こてつが来ているのよ!


 しかもこてつは由美のリードを振りほどいて、木道をこっちに向かって来た。それを見た細身の男が身を縮める。


「お、俺、子供の時にかまれてから、犬はダメなんだ」情けない声を立てている。


「しょうがないな」

 そう言って西岡がこてつに向かって足を振り上げた。西岡の足の先がこてつの鼻先をかすめる。


 こてつは「キャン」と鳴いて飛び石の方へと駆け出していく。由美も必死で追いかけるが追いつくことはできない。


 こてつは恐怖も忘れて飛び石を跳ねて渡っていたが、勢いが余ったのか、石と何かを間違えたのか、どぼんと池の中に飛び込んでしまった。


 こてつに脅えた細身の男を連れて、西岡はそそくさと去って行ってしまう。しかしここは由美の正体がばれない内に、ここから離れてもらう事が先決だ。


 そっと物陰から離れる。西岡達の死角に入ると由美の元へ駆けつけた。由美はこてつのリードをようやくつかむ。


「礼似さん! こてつが、こてつが!」由美は軽いパニック状態だ。


「落ち着いて。こてつ君は犬なんだから、泳げるでしょう?」


「それが、柴犬はあまり泳ぎが得意ではないのよ! しかもこてつは水が苦手なの!」


 そんなあ。犬ってみんな犬搔きが出来るものじゃなかったの? 唖然とする礼似を無視して由美はこてつのリードを思いっきり引っ張った。


「よいしょ!」

 掛け声とともに出た火事場の馬鹿力のような腕力で、みるみるこてつを引っ張り上げてしまう。


 慌てて礼似も手伝おうとしたが、すでにこてつの体は殆んど池の外に上がっていた。


 はっはと息を荒げながらもこてつは身をぶるるとふるわせて、呆然と立ち尽くしていた。由美も力を使いつくしたのか、その場に座り込んでしまっている。よどんだ水のせいで、二人と一匹は泥だらけだ。


「とにかく帰りましょう。身体を洗って、温めないと」


 礼似はそう言って会長の自宅へと、由美とこてつを送る事にした。西岡達の姿はとうに無かった。



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