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こてつ物語4  作者: 貫雪
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「あー。期待はずれだわ。つまんない、つまんない」


 礼似は面白くなさげに文句を言った。香も一応黙って入るものの、はっきりと拍子抜けした顔をしていた。


「そんな事で面白がろうって言うのが、ずうずうしいの」御子はぴしゃりと諌めた。


「だって、新婚よ? まだ二週間よ? 普通だったら、初々しさとか、照れくさそうにするとか、恥じらうとか、もうちょっと新鮮味ってものがあるんじゃないの? それがまあ、こんなに落ち着いちゃって。からかう隙もないじゃないの」礼似は不満をぶつぶつと漏らした。


「こっちは、からかわれるためにあんたを呼んだ訳じゃないわよ」

 御子は礼似の文句の相手はしなかった。


 式から二週間。無事に倉田への挨拶も済ませ、式の後の雑用も一段落したところで、御子は礼似を、真柴組に呼び出した。香も金魚のフンよろしく、付いて来ていた。礼似と香にすれば、新婚ほやほやの御子と良平を冷やかすには絶好の機会と踏んで、勇んでやってきたのだが。


 来てみると、良平はいないし、御子は今までどおりに組の雑務を忙しげにこなしているし、だいたい自分達が通されたのは、組の事務所の接待用のソファーで、周りはいつも通りの様相だ。


 よく聞いて見ると、二人とも組から離れる気は全くなく、部屋も御子の部屋をそのまま使っているらしい。


「余計な事する気なんてないわよ。組にいれば目も行き届くし。私たち二人だったら、あの部屋で十分。いつかはお義父さんと部屋を取りかえるかもしれないけれど、今はその必要もないしね」


 要は良平が組の一番奥にある御子の部屋に引っ越し(?)した意外に、なんの変化も起きていないのだ。


 おまけに肝心の御子本人が、すっかり仕事モードに入っていて、からかう隙がない。御子にしてみれば、今までだって組の中で散々からかわれていたのだから、二週間もすればすっかり慣れてしまい、柳に風。うまの耳に念仏で、恥じらう気なんてすっかり失せていた。


「やっぱり、若さって大事よね。今から古女房の風格漂わせてどうするんだか」

 礼似の方がため息をついている。


「あんたこそ少しはたしなみってものを覚えてよ。こっちは組の屋台骨を支えて行かなきゃならないんだから。いつまでもお義父さんに甘えてられないわ。それより肝心の資料、さっさと出してよ」

 御子は礼似をせっついた。


 考えてみれば御子が不機嫌なのも当然で、式の直前に良平は襲われたばかりだ。義足は無事に新しいものが出来たものの、やはり慣れるにも時間がかかるだろうし、いつも二人が一緒にいるとは限らない。一人でいる時に大人数で襲われれば、いかに良平でも逃れるのは簡単ではないだろう。


「慌てなくても持ってきているわよ。良平は? 写真の確認をしてもらうつもりだったのに」


「華風組の稽古場に行ってる。義足を慣らすのに土間が付き合ってくれるらしいの。写真は一応後で見てもらうけど、あの場は私達もいたからね。以前じゃ考えられなかったわ。よその組の施設を借りて、稽古まがいの事をするなんて。これも、こてつ組傘下入りの恩恵ね」御子は感慨深げだ。


「その代わりに、こてつ組が内部分裂の恐れにさらされているんじゃね。この程度の資料にヒントがあればいいんだけど」

 礼似は香と二人がかりでコピーした資料を御子に手渡した。


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