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学校の怪談

作者: をはち
掲載日:2026/10/07

気づいた者から、絵は完成していく。


美術室に、一枚の油絵が掲げられている。


青く暗い海と、それに溶け込む闇夜。月の光だけが、冷たく一点を射している。


その光に誘われるように、二十五匹の蝙蝠が、静かに、しかし狂おしく飛んでいく。


美しさの極みに、何かが潜んでいる。見る者の胸の奥に、言葉にならない恐れを残す絵だ。


作者は雨森零。戦前、この学校にいた美術教師である。彼の名は、校内に伝わる怪談と、常にセットで語られる。


「雨森先生は、二十五人の女生徒を使って作品を残した」


「その少女たちの顔が、肖像画として美術室に残されている」


よくある学校の怖い話だ。誰もが一度は耳にし、誰もが半ば笑い飛ばす。


だが美術室の壁には、ゴッホをはじめとする著名な画家たちの肖像ばかりが並んでいる。男の顔ばかりだ。怪談はそこで、破綻する。


作り話だと、誰もが思っていた。それが、一つの地震で崩れた。


ゴッホの肖像画が壁から落ちたとき、目の周辺の絵の具に細かな亀裂が走った。


剥がれ落ちた下から、覗いていたのは、男のものではない。少女の、澄んだ眼だった。


丁寧に、崩れた部分を払っていくと、下には完全な少女の顔が描かれていた。誰の手によるものか、判然としない。


だが、部屋のすべての肖像画の下に、同じように女生徒の顔が隠されていた。二十五人分。


その事実に気づいた瞬間、視線は自然と、高々と掲げられた蝙蝠の絵に吸い寄せられた。二十五匹。


近づいてよく見れば、それは絵の具だけで描かれたものではない。何かを貼り付けて、形作られていた。骨だ。


人の頭蓋骨を形作る骨の中に、蝶形骨というものがある。蝶のようでもあり、蝙蝠のようでもある、小さく複雑な骨だ。


月光に誘われて飛ぶあの蝙蝠たちは、女生徒たちの、それであった。調べるまでもなく、私は理解した。


そして同時に、口外してはならないことも――


この学校の怪談には、続きがある。


「その事実に気づいた者は、作品の一部となる」


私は今、美術室の奥で、静かに筆を執っている。


壁の肖像画の下地にあらわになった少女の顔が、数日前と違って見えた。


絵の具の欠けた縁が、いつのまにか滑らかに均されている。


だれも触れていないのに、色が戻っていく。


その瞬間、私は気づいた。


――だれかの手によって、修復が進んでいることを。


読んで頂き有り難う御座います。

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