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魔法百貨堂 ~魔女と魔法使いの弟子~  作者: 野村勇輔
ふたりめ

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第3回

   3


「ふたりっきりのときに、しゅっと一噴き、ご自身の首元に付けてみてください」


 真帆さんから貰った香水を眺めながら、私は頭の中で真帆さんの言葉を反芻した。


 本当にこんなものにそんな効果があるんだろうか、と疑いながら、下駄箱の前で大夢くんが来るのを待つ。


 次々に帰宅していく他のクラスメイトや学生を横目に見ながら、手の中でキラキラ光る小瓶を軽くもてあそんだ。


 魔法なんて――


 そんな思いも、もちろんあった。


 なにしろ、あの茜が今は魔女の修行中だという。


 そんなこと言われたって、普通に考えて信じられるはずもなかった。


 魔法なんて童話やファンタジー、ゲームの世界だけのもののはずだ。


 それが現実に存在するだなんて、そんなことって……


「――ヒトミ」


 声がして振り向けば、そこに立っていたのは、


「……あ、上柳くん」


 てっきり大夢だと思ったのに、上柳が複雑そうな表情でそこにいた。


「いま、帰り?」


「……うん」


「大夢を待ってるのか」


「そう、だね」


「じゃぁ、大夢が来るまで、一緒に待ってていい?」


「えっ」


「迷惑だったら、このまま一人で帰るよ。けど、できることなら、オレは少しの間だけでもヒトミと一緒に居たいんだ」


 そんなふうにはっきりといわれてしまっては、ヒトミも断ることができなかった。


 どことなく大夢に対する罪悪感を覚えつつ、

「……うん、いいよ」


「……ありがと」

 寂しそうな微笑みを浮かべる上柳くんの、けれど嬉しそうな声が心に刺さる。


 少しでも私と一緒に居たいと思ってくれる彼の気持ちと、付き合っている彼氏のいる私。


 なんともいえない空気が私たちふたりの間を流れる。


「大夢とはどう? うまくいってる?」


「え?」

 いきなりの言葉に、私は驚く。


 なんだか本音を覗かれているような気がして、一瞬身構えてしまった。


 それが彼にも伝わったのだろう。


 上柳くんは慌てたように両手を振って、

「あ、ごめん! ぶしつけすぎたね!」


「う、ううん、そんなことは、ない……」


「やっぱり、そういうの、気になるから、つい……」


 私は「あはは、そうだよね」と軽く笑って見せてから、

「たぶん、うまくいってるよ」


「……たぶん?」


 しまった、と私ははっと我に返るように、

「ううん、大丈夫。うまくいってるから」


「あ。あぁ、そっか。それは――複雑な気分」


 それをいわれると、私だって……


 大夢くんとの関係をうまくいっているかと聞かれたなら、正直なところ自信はない。


 あのそっけない態度を思い返すと、やはり本当に私のことを愛してくれているのか、好きでいてくれているのか、全然わからない。


 それを見透かされているような気がして、私は気が気じゃなかった。


 ――気が気じゃない?


 それって……


「ヒトミ」


 すぐそばの階段の上から声がして顔を向ければ、そこには大夢くんがいつものあまり表情のない顔で立っていて。


 そんな大夢くんの姿を目にした上柳くんは、「あっ」と小さく声をあげると、

「じゃぁな、ヒトミ。また明日」


「え? あ、うん」


 そそくさと逃げるようにして、下駄箱で靴を履き替えて出ていってしまうのだった。


 それを見送るようにしてから、大夢くんが私のところまでやってくる。


「……? なにかあったの?」


 え、と私はどう答えたものか一瞬悩んで、

「う、ううん。なんでもないよ、ちょっとだけ、話をしてただけ」


「……ふうん?」

 大夢くんは首を傾げて、それからすぐに、

「じゃぁ、帰ろうか」

 私よりも先に、下駄箱に向かう。


「あ。うん」


 私も、そんな大夢くんのあとを追うのだった。


 やっぱり、大夢くんの気持ちがよくわからない。


 そう思いながら。

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