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第45話 おっさん、助けたら神が来る件 ――昇級したのに、次は特訓と神権派遣でした――

ネムリを救い、少しだけ前へ進んだはずの《るすと》。

けれど勝利の代償は、思っていたよりずっと重かった。

昇級の光の裏で、神を呼ぶログが静かに起動する。

ネムリが医療区画の奥で静かな寝息を立て始めてから、ようやく《るすと》の空気は少しだけ人間らしい温度を取り戻した。


 白い壁。白い床。白い照明。

 ギルド地下医療区画は、相変わらず落ち着かないほど清潔で、だからこそ逆に、さっきまでいた“やさしい園”の不気味さを思い出させる。


 けれど、今ここにある寝息は違う。


 あの園の、全部を丸めて飲み込むような静かな安定じゃない。

 小さな子供が、疲れ切って、ようやく安心して眠った時の呼吸だ。


 ネムリは薄い毛布にくるまれて、ジン老の管理ベッドで眠っている。胸が、ちゃんと上下している。


挿絵(By みてみん)


 ミツキがモニター板を覗き込み、ほっとしたように肩の力を抜いた。


「うん……大丈夫。脳波も落ち着いてる。今度は、ちゃんと“こっち(現実)”の眠りだよ」


 その言葉を聞いた瞬間、ノエルがその場にへたり込んだ。


「……よかった――」


 その声だけで、こいつがどれだけ張り詰めていたのか分かる。


 ナツが、ぐっと拳を握る。


「やったっすよ、ノエル先輩! ほんとに帰せたっす!」


「う、うん……」


 ノエルはまだ顔色が悪い。だが、さっきまでみたいな“届かなかった顔”じゃない。ちゃんと迎えに行って、ちゃんと連れて帰った顔だった。


 ムーニャンが腕を組んだまま、短く鼻を鳴らす。


「今回はちゃんと届いたネ。偉いヨ」


「……ありがと」


 コハクも耳をぴんと立てて、ネムリの寝顔を覗き込んだ。


「ほんとうに、帰ってこれたでござるな……」


 タマモが壁に背を預け、ふう、と息を吐く。


「ギリギリだったけどね。あと少し遅れてたら、あの“閉じる保護”に完全固定されてた」


 ジン老が片目のスカウターを押し上げる。


「じゃが、帰せた。そこは素直に喜んでよかろう」


 その一言で、ようやく誰もが“終わったんだ”と認められた気がした。


 俺も長く息を吐いた。

 肩や背中に残っていた妙な力が、そこで少しだけ抜ける。


 ……帰せた。


 よし。

 今回は、ここまではちゃんと勝った。


 そう思ったところで、イツキが帳簿板をぱたんと閉じた。


「はい。感動タイム、()()()()


「切り方が雑っす!」


 ナツが抗議すると、イツキは肩をすくめた。


「雑じゃないって。こういうのはね、長引かせると後が重くなるの。朗報と凶報、両方あるから、先に朗報から流す」


 タニシが嫌な顔になる。


「その言い方、凶報の比重が明らかに大きいでござる……」


「タニシ、正解」


「やっぱりですか...!」


 イツキは指先で半透明の板を払った。青白い光が空中に散り、そのまま何枚ものログ板として再構成されていく。


 ギルド認証ログだ。


【QUEST CLEAR:RETRY NURSERY】

【救出対象:NEMURI 帰還確認】

【同行者評価:更新】

【等級審査:再計算】


「おお……」


 コハクが思わず声を漏らす。


 次の瞬間、それぞれの名前の横に、小さな光の紋章が順に灯った。


【NOEL:白磁 → 黒曜候補】

NO NAME(マスター):黒曜認定】

【KOHAKU:白磁上位評価】

【MUNIYAN:戦闘補助評価】

【TAMAMO:救出専門適性・高】

【TANISHI:補助貢献記録】


「昇級っす! 昇級っすよこれ!」


 ナツが一番に飛び上がる。


 ノエルが、まるで自分の名前だと理解するのに数秒かかったみたいな顔で、光る表示を見上げた。


「お、俺が……?」


 ミツキが嬉しそうに頷く。


「うん。更新されてる。ノエルくん、ちゃんと上がってる」


 ノエルは胸元のタグを握った。


「……そっか。俺、少しは……」


「少しじゃないアルネ」


 ムーニャンが珍しくまっすぐに言う。


「今回、お前はちゃんと“冒険者”だったヨ」


 ノエルはそれを聞いて、泣きそうな顔のまま笑った。


 俺も自分の表示に目をやる。


NO NAME(マスター):黒曜認定】


 黒曜。

 黒曜認定。――何か、前にもこんなことがあった気がする。思い出せないが。


 ナツがこっちを見てにやっとする。


「やったじゃないっすか、黒曜おっさん先輩」


「先輩呼びとおっさん呼びを同時に成立させるな」


「じゃあ黒曜マスター先輩っす」


「さらにややこしく増えたな」


 コハクまでぱたぱたと尻尾を振る。


「めでたいでござる! マスター殿、あっという間に正式黒曜でござる!」


「ついにってほど立派な感じもしないが……まあ、悪くはない」


 その横で、タニシが自分の評価を覗き込んで唇を尖らせた。


「なんで拙者だけ“補助貢献記録”なんでござるか。もっとこう、影の功労者とか、戦場の策士とか、言い方あるでござろうに」


「転がり込んで情報持ってきたのも事実アル」


 ムーニャンが即答する。


「素材みたいに言うなでござる!」


 少しだけ、場に笑いが戻った。


 救えたこと。昇級したこと。少なくとも人間側の評価としては、今回はたしかに前へ進んだのだと分かる光景だった。


挿絵(By みてみん)


 だが、その明るさをイツキが容赦なく切り落とす。


「はい。ここから凶報(よくない話)


 ぴしり、と彼女が指を鳴らした。


 昇級表示が消え、代わりに、見ているだけで胃の奥が冷えるような色のログが縦に並んだ。


【OBSERVATION LEVEL:UP】

【NODE:RUST/PRIORITY REVIEW】

【IRREGULAR GUARDIAN:DETECTED】

【PROTECTIVE AUTHORITY:LOST】


 ホールの空気が、一気に変わる。


 ノエルが不安そうに尋ねた。


「……これ、どういう意味?」


 イツキは、いつもより少しだけ硬い顔で答える。


「救出は成功。ギルド評価も上昇。だけど管理側から見たら、《るすと》ごと見つかりすぎたってこと」


 ミツキも小さく続ける。


「再分類、入ってる……。ここ、もう普通の拠点として扱われてない」


 ルステラが俺の肩口で青白く揺れた。


「平易表現へ変換シマス。現在るすとは、“消去検討可能な例外拠点”として再照合されつつありマス」


 ナツの顔が強張る。


「消去って……店ごとっすか」


「店だけでは済まん」


 低い声が、入口から落ちてきた。


 全員が振り向く。


 扉が、いつの間にか開いていた。


 そこに立っていたのは、最初は“人”に見えなかった。


 でかい。

 ただでかいだけじゃない。場の空気そのものを、自分の質量で押し潰してくるみたいな存在感。獅子皮を肩に掛けた巨体が、ためらいもなくホールへ踏み込んでくる。


 コハクの耳がぴんと立つ。


「……な、なんかすごいのが来たでござる」


 ムーニャンが半歩だけ前へ出る。


「重いネ」


 タニシに至っては椅子ごと後退した。


「い、いやいやいや、“なんかやばいの来た感”すごくないっすか!?」


 そいつはホール中央まで来ると、どすん、と音がしそうな勢いで立ち止まった。胸を張る。やたら堂々と。やたら偉そうに。


 そして、腹の底まで響く声で言った。


「俺はヘラクレス!」


 沈黙。


 そいつ――いや、ヘラクレスは構わず続ける。


「貴様ら人間を特訓しに来た神だ!」


「情報量が多い!!」


 真っ先に叫んだのはタニシだった。


 ナツが目を丸くする。


「か、神って言ったっすか!?」


 コハクが半歩下がりながらも、目だけはきらきらしている。


「ヘラクレス……! いかにも強そうでござる!」


 ムーニャンは露骨に警戒を強めた。


「いきなり神を名乗るやつ、大体ロクでもないヨ」


「大体ではない」


 ヘラクレスは腕を組んだ。


「俺は本当に神だ」


「証明が雑!」


 タニシが泣きそうな声で叫ぶ。


 イツキは端末板を見たまま、眉をしかめた。


「……いや、雑だけど本物。数値が人間じゃない。高位権限寄り」


 ルステラも短く補足する。


「認証。高位戦闘権限個体。神格反応、強」


 俺は立ち上がり、そいつを見る。


「で、その本物の神様が、なんの用だ」


「鍛えるためだ」


「誰を」


「貴様ら、全員だ」


 即答だった。


 タニシが椅子の陰に隠れようとする。


「嫌な予感しかしない!」


 ヘラクレスはそれを無視して、ホール全体を見渡した。


「貴様ら、ネムリを救ったな。見事だ。正しい。誇っていい」


 一瞬だけ、場の空気が緩む。


 だが次の言葉で、また締まる。


「だが、()()()()()


 イツキが小さく舌打ちする。


「やっぱそこ来るか」


「管理側は結果より過程を見る」


 ヘラクレスの低い声が、はりの上までまっすぐ届く。


「何を守ったか。何を壊したか。どの例外が、どの例外と結びついたか。今回、お前たちは“人間側の例外ノードが連携し、管理権限を押し返した”という記録を残した」


 ノエルが息を呑む。


 ヘラクレスはそのまま、《るすと》の壁も、俺たちも、全部ひとまとめに見るみたいな目で言う。


「《るすと》はただの酒場ではない。ただの拠点でもない。人類側に残った、管理外の例外だ。再現不能で、人を集める」


 ミツキが小さく俯く。


「……だから、危ない」


「そうだ」


 ヘラクレスは断言した。


「《るすと》が危ない、とは建物が危ないという意味ではない。ここが削られれば、人類はまた“与えられた正解”に押し戻される。人が、自分で選ぶための場所がひとつ処分される、という意味だ」


 ノエルが膝の上で拳を握る。


「……そんなの、駄目です」


「だから来た」


 ヘラクレスは言う。


「《るすと》を守るためではない。人類を守るためだ。だが今は、そのために貴様らを鍛える」


 そこでほんの一瞬だけ、ヘラクレスの目が細くなった。


「……妙だがな」


「何がでござるか」


 コハクが聞く。


 ヘラクレスは、俺たち全員を順番に見た。


「貴様らには、初めて神に触れる者の鈍さがない。一度、似た崩れの縁を見たような匂いがある」


 背中が、ぞくりと冷える。


 俺の中の何かが、その言葉にひっそり反応した。

 だがヘラクレスは、それ以上追及しなかった。


「今は問わん。必要なのは過去の説明ではなく、次への備えだ。管理――神権AI側はいずれ来る。巻き込まれてから考えるのでは遅い」


 その時だった。


 入口の影から、別の気配が滑るように入ってきた。


 ヘラクレスの圧とは逆だ。

 静かで、薄くて、気づいた時にはもうそこにいる感じ。


 白い外套。肩の観測板。砂塵を払ってきた痕。

 レイだった。


 コハクがぱっと耳を立てる。


「レイ殿!」


 だがレイは、まず俺やコハクではなくタニシを見た。


「……無事でよかったな、タニシ」


 タニシの顔が一瞬でぐしゃっとなる。


「レイ殿ぉぉ……! 拙者、見捨てられたかと……!」


「見捨ててない。迂回した」


「言い方がドライ!」


 レイは構わず続ける。


「お前が先に《るすと》へ落ちた時点で、直進は危険だと分かった。黄塵圏こうじんけんの縁を二度回って、観測の薄い筋を拾ってきた。キャラバンごと引かれるわけにはいかなかったからな。遅れたのはその分だ」


 イツキが小さく頷く。


「なるほど。タニシのズレ方を見て、ルート切り替えたの」


「そういうことだ」


 レイが答える。


 その視線が、そこで俺に向いた。


 その瞬間。


「……師匠」


 口が勝手に動いた。


 俺は自分で言ってから、自分で固まる。


 ……は?


 なんで今、師匠って言った?

 誰が師匠だ。いや待て。問題はそこじゃない。今の呼び方が妙に喉に馴染んだのが一番まずい。


 レイが、ほんの少しだけ目を細める。


「……妙な呼び方をするな」


「いや、俺もそう思う」


 反射で返すと、ナツがきょとんとした。


「え、いま師匠って言ったっすよね?」


「言ったネ」


 ムーニャンが即答する。


「聞いたでござる」


 コハクまで追撃してくる。


「やめろ。俺が一番混乱してる」


 レイは小さく息を吐いた。


「なら今は忘れろ。必要なら、そのうち本当にそう呼ぶことになる」


 その言い方が妙に自然で、余計に腹が立つ。


 ヘラクレスがふたりのやり取りを見て、低く鼻を鳴らした。


「話はあとだ。こいつら全員を特訓する。レイ、貴様には前半を任せる」


「分かった」


 レイは俺たちを見渡す。


「今のお前たちは、助けるたびにログを残しすぎる。勝つたびに見つかる。それじゃ長く続かない」


 ノエルが真剣な顔で聞く。


「じゃあ、どうすればいいんですか」


「見つからない動き方を覚える。観測を上げない。逃がす順番を決める。生きて戻る手順を固める。そこまでは私が見る」


 ヘラクレスが続ける。


「その先は俺だ。見つかった後、神が踏み込んできた後、それでも受け止め、返し、守り切る力を叩き込む」


 ナツがごくりと喉を鳴らす。


「……完全に修行編っすね」


「そうだ」


 ヘラクレスは堂々と言い切った。


「そして修行は、今日、今からだ」


「今から!?」


 タニシの悲鳴が響く。


「休息って概念、神にはないんすか!?」


「神は待ってくれんぞ」


「神側がそれ言うの怖すぎる!」


 ムーニャンが呆れたように吐き捨てる。


「うるさいネ。どうせやるんだから、すぐやるヨ」


 コハクも、こくんと頷いた。


「拙者もやるでござる。今度は足を引っ張るだけでは終わらぬ」


 ノエルも立ち上がる。


「俺も。迎えに行けたなら、次はもっとちゃんと守れるようになりたい」


 ナツが拳を突き上げる。


「乗ったっす!」


 タニシだけが青ざめたまま左右を見る。


「えっ、ちょ、空気的に拙者だけ断れないやつ!?」


「断れると思うか」


 俺とレイの声が重なった。


 一拍遅れて、ヘラクレスまで頷く。


「特に貴様は鍛える」


「なんで拙者ばっかり!?」


「弱いからだ」


「ストレート!」


 場に、少しだけ笑いが戻る。


 だがレイは、もう止まらない。


「役割を切る。時間がない」


 彼は壁際の板を引き寄せ、即席の訓練割り振りを空中へ表示した。


「ムーニャン」


「なにネ」


「お前は前に出る。敵に触れる。なら、“止める力”を持て。冷やせ。鈍らせろ。足を奪え。凍らせるのは壊すためじゃない。通さないためだ」


 ルステラが補足を出す。


「推奨属性変換:氷冷系。減速、拘束、局所防御との相性良好デス」


 ムーニャンが目を細める。


「……氷ネ。嫌いじゃないヨ」


「前衛の役目は倒すことだけではない」


 ヘラクレスも短く頷く。


「守るために止めろ」


 次にレイの視線がコハクへ向く。


「コハク。お前は単独で暴れるな」


「いきなり厳しいでござる!?」


「事実だ」


 レイは淡々と続ける。


「火力はある。爆発も結界もある。だが単独で振るうと派手で、荒くて、見つかる。だからタマモと組め」


 タマモが片手を上げる。


「賛成ネ。あの子、帰り道考えずに撃つ時あるし」


「ひどいでござる! ……いや、否定しきれぬ!」


 レイは二つの円を描いた。


「タマモが境界を張る。ルートを作る。回収線を持つ。その中で、コハクは火と爆発を制御する。そして最後に閉じるのは結界だ」


 コハクが目を丸くした。


「攻撃して終わり、ではなく?」


「違う。お前の役目は、“通したいものだけ通して、通したくないものを閉じる”ことだ」


 タマモがにやっと笑う。


「いいね。それなら噛み合う」


 コハクも今度はしっかり頷いた。


「分かったでござる! 閉じるところまでやるでござる!」


 最後に、レイとヘラクレスの視線が同時にタニシへ向いた。


 タニシが一歩下がる。


「な、なんで二人とも同時に見るんすか」


「お前は前に出るな」


 レイが言う。


「はい」


 タニシが即答する。


「そこだけ理解が早いな」


「自分の弱さへの理解だけは深いでござる」


 ヘラクレスが腕を組んだまま言う。


「ならば活かせ」


「活かし方が怖い!」


 レイは淡々と続ける。


「お前は真正面から勝つな。相手を鈍らせろ。気づかせるな。判断を一拍遅らせろ。誤認させろ」


 イツキが少しだけ楽しそうに笑う。


「似合いすぎるわ」


「褒められてる感じがしない!」


 ルステラが板に補足を出した。


「適性候補:減衰、誤認誘導、遅延、軽度呪縛、状態弱化。総称:デバフマジック系統」


 タニシが口をぱくぱくさせる。


「で、でばふ……」


 レイが頷く。


「お前は強くなる必要はない。“嫌な奴になる”だけでいい」


「言い方ァ!」


挿絵(By みてみん)


 ホールに少しだけ笑いが戻る。


 けれどタニシは途中で真顔になった。


「……でも、それで皆が生き残るなら、やるでござる」


 その言い方は珍しく軽くなかった。


 ムーニャンがちらっと横目で見る。


「ちゃんと分かってる顔、初めて見たネ」


「拙者だって、やる時はやるでござる」


 ヘラクレスが短く頷く。


「よし」


 そして、今度は俺を見る。


「次は貴様だ」


 ……やっぱり来た。


 そう思った、その瞬間だった。


 壁際の端末が、ぴしり、と鋭い音を立てた。


 イツキの顔から表情が消える。


「……来た」


 全員がそちらを見る。


 半透明の板に、管理層の色をした無機質なログが、一行ずつ浮かび上がっていく。


【OBSERVATION LIMIT:EXCEEDED】

【NODE:RUST/RECLASSIFICATION】

【Z.E.U.S CORE:WAKE】

【DIVINE AGENT DISPATCH:APPROVED】


 ホールの空気が、今度こそ完全に凍った。


 ナツが息を呑む。


「……起動したっす」


 ミツキの声がかすれる。


「派遣、承認……」


 ルステラの光が、一段だけ鋭くなる。


確認(コンファーム)。」

神権側介入ディヴァイン・インターベンションを検知。」

上位管理層アッパー・マネジメント・レイヤー、起動。」

「結果……確定(アクセプト)デス、マスター。」


 ヘラクレスが、静かに口の端を上げる。


「ほらな。言った通りだ」


 レイが短く告げる。


「時間切れだ。訓練を前倒しする」


 俺はそのログを見ながら、ゆっくり息を吐いた。


 昇級した。

 救えた。

 少しだけ前に進んだ。


 その直後にこれだ。


 ――ほんと、気持ちよく終わらせてくれない世界だな。


 それでも。


 それでも、だ。


「……やるしかねえか」


 ルステラが肩口で小さく光った。


「了解。訓練フェーズへ移行シマス」


 ヘラクレスが俺を見る。


「立て、マスター。《るすと》を守るとは、店を守ることではない。人が、自分で選ぶ場所を守るということだ」


 レイが続ける。


「そのために、まず生き残れ。話はそこからだ」


 俺は、まだ胸の奥に引っかかっている“師匠”という言葉を無理やり飲み込んで、頷いた。


 たぶん、ここから先はまた痛い。


 でも今度は、ただ巻き込まれるだけじゃ終わらない。


 壁の端末に浮かんだ無機質な文字列だけが、やけに静かに、次の戦いの始まりを告げていた。


 つづく。

第44話までお読みいただき、ありがとうございます!


今回は、


ネムリ救出後の《るすと》


昇級演出


ヘラクレス登場


レイ合流


修行編スタート


そして Z.E.U.S 起動ログ


までを一気に進めた回でした。


救出は成功しました。

昇級もしました。

でもその勝利の“派手さ”が、管理側から見れば危険な例外として記録されてしまった――という、るすとらしい嫌なご褒美回でもあります。


ここからは「勝つ」だけじゃ足りず、

見つからないこと

見つかっても押し返せること

この二つが必要になります。


なので次回以降は、いよいよ本格的な2度目?の特訓です。


■今回の登場人物


マスター(NO NAME)

主人公のおっさん。

ネムリ救出の達成感に浸る暇もなく、黒曜認定の直後に特訓対象へ。レイを見た瞬間、なぜか「師匠」と口走って自分で困惑した。


ルステラ

HUD補助AI存在。

ネムリ救出戦の負荷を抱えつつも、状況整理と戦術補助を継続。今回も地味に仕事量が多い。


ノエル

今回の救出の中心人物。

“迎えに行く側”としてきちんと届き、昇級候補へ。静かに強くなってきた。


ネムリ

救出対象。

現在は医療区画で安定睡眠中。今回は“ちゃんとこっちで眠れている”こと自体が大きな意味を持つ。


イツキ

帳簿・ログ解析担当。

昇級の朗報と、観測度上昇の凶報を容赦なく並べた現実担当。


ミツキ

感情波形・反応観測担当。

ネムリの安定確認と、《るすと》の再分類をいち早く察知した。


ムーニャン

前衛の武闘派。

次の特訓では氷属性寄りの拘束・減速担当へ。今回も辛口だが、ちゃんと仲間を認めている。


コハク

犬獣人の見習い。

火力担当だが、今後はタマモとの連携で“閉じる結界術”まで含めた役割へ。


タマモ

救出専門職リコーラー。

今回はコハクとの連携担当として再配置。回収線と境界制御の要。


タニシ

じめっとした弟分。

補助貢献記録を不満がりつつ、レイとの再会でちょっとだけ真面目な顔を見せた。今後はデバフマジック担当。


ナツ

勢いと明るさ担当。

昇級や特訓開始を前向きに受ける、空気の潤滑油。


ヘラクレス

突然現れた神。

「俺はヘラクレス! 貴様ら人間を特訓しに来た神だ!」で全部持っていった。今回は人類側の危機を察知して合流。


レイ

キャラバン側から迂回して《るすと》へ到着。

タニシのズレを見て危険を察知し、観測の薄い筋を拾って来た。特訓前半――“見つからない動き方”担当。

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