幕間 観測度99% ――さあ、賭けましょう。誰が消えるか――
マスターがジャクラとの戦いを制した直後――
歓声の裏で、削除優先順位は静かに書き換えられていた。
これは、光の当たらない場所で進む“別の戦い”の記録である。
幕間《観測度99%》――さぁ、賭けましょう?
マスターがジャクラとの戦いを制した直後――。
「やったにゃああああ!」とムーニャンが飛び跳ねる。
「勝利でござる! さすがご主人様でござる!」とコハクが尻尾をぶんぶんと嬉しそうに回す。
「削減率0%確認。完全復元でござる」とタニシが淡々と告げる。
地下医療区画は歓声に包まれていた。ナツの輪郭は戻り、削減率は0%。勝利。確かな勝利。
だが、カウンター奥で煙を吐いていたフー子が、細い目をさらに細めた。
「ふぅ……いよいよ今回も大詰めかの」
その声は静かだったが、空気が一瞬だけ重くなる。
演算モニターを見上げていたドクター・ジンが、片目のスカウターをわずかに下げた。
「……ほう。観測が跳ねとるのう」
白いログが流れている。
ETHICS_LAYER_RESULT:ANOMALY
SUPPORT RESTORE:UNAUTHORIZED
NODE:RUST
ジン老は誰にも聞こえない声で呟いた。
「若いの……“勝った時”が一番危ない、ということに気づいとるかの」
OBSERVATION RATE:98.9% → 99.0%
空気がわずかに沈む。
白い。境界のない管理演算空間。そこに、ログだけが流れている。
その一角。半透明の端末の前に、3姉妹の長女――サツキが立っていた。
DELETE PRIORITY TABLE
01:RUST
02:倫理層参加者(不安定群)
「……一位?」
AUTO JUDGEMENT:STANDBY
ANOMALY CLASS:IMMEDIATE PURGE
即時削除。
サツキは無言で画面に触れる。
ANOMALY CLASS:TEST CONTINUATION
LOG TRACE:RECORDED
ACCESS LEVEL:LIMITED
完全には消せない。ログは残る。
――その瞬間、背後で足音。
「何をしているのですか、サツキ様?」
白い翼のエンジェル一般兵。無機質な声。
「倫理層の再分類よ。試験途中で削除は非効率でしょう?」
「削除は最適化です」
「最適化には比較対象が必要。三層同時演算後に再評価を」
沈黙。内部演算。
「……合理的。承認保留」
去り際にエンジェルは言う。
「観測度は99%を超えました。三層演算開始で、跳ねます」
事実だけを残して、白に溶ける。
サツキは再び端末を開く。
PHASE-2:TRINITY CASINO
CONTROL:ENHANCED
AUTO JUDGEMENT:ARMED
DELETE EXECUTION CONDITION:
MULTI-LAYER ANOMALY CONFIRMED
OBSERVATION RATE:99.1%
「……持って、三層まで」
暗転。
空間が歪む。トランプがひらりと落ちる。カラフルなライトが炸裂する。
ロキがマイクを握り、くるりと回る。
「さぁさぁさぁさぁぁぁ〜〜!! 続いてはぁ〜!」
黄金の光。
「われらがアマテラス様ぁぁぁ!!」
銀の月光。
「ツクヨミ様ぁぁぁ!!」
紫の不穏。
「そして倫理の番人、ジャクラぁ!! 三層同時!! トリニティ・カジノバトル開幕よぉぉぉ〜〜〜!!」
背後で赤い観測ログが点滅する。
ロキがにやりと笑う。
「さぁ――賭けましょう?」
カードが突き刺さる。
暗転。
――次話、三層、同時開戦。
■後書き 登場キャラクター紹介
■サツキ
三姉妹の長女。現在はZ.E.U.S側。
銀等級相当の実力者だが、あえて昇級前に離脱。
姉妹からは裏切り者と思われているが、真意は未公開。
本幕間では、削除優先テーブルに干渉する姿が描写される。
■マスター(NO NAME)
ジャクラを撃破した直後。
観測度上昇により、Z.E.U.Sの削除対象リストにおける優先度が変動。
だが本人はまだ、その全貌を知らない。
■Z.E.U.S
管理AI。秩序と最適化の象徴。
《DELETE PRIORITY TABLE》を通じて、世界の整理を行う存在。
RUSTの異常性を依然として“危険因子”と判断中。
■エンジェル
入口に立つ影。
監視か、抑止か、それとも――。




