表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/63

第30話 勝ち方は、カードの外にあった ――おっさん、ルールの外で賭けに勝つ――

本戦《倫理層カジノ》、ダブルブラックジャック決着編。

ナツの存在抹消率が、じわじわ上がっていく。

ルステラの途切れたヒントで、俺は“ディーラーの不正”に気づく。

第30話 おじさん、勝ち方はカードじゃないことに気づいた件 ――あとだしジャンケンは許しません!


挿絵(By みてみん)


 ギルド地下、医療区画。

 白いひつぎみたいなダイブカプセルが、等間隔に並ぶ。

 壁一面の大型モニターには、赤い警告と青いシステムログが交互に流れていた。


【ETHICS_LAYER_CASINO / DIRECT ACCESS】

【MODE:DOUBLE BLACKJACK】

【PAIR SYSTEM:ENABLED】


 観客席は、ここだ。

 俺たちはカプセルの中で賭ける。

 みんなは画面越しに覗き込む。


 のぞかれている。

 品定しなだめされている。

 そして――“削られている”。


 画面の端に、赤い表示が点滅していた。


【SUPPORT ERASE PROBABILITY:42%】


 その数字を見た瞬間、喉が乾いたような感覚があった――ダイブ中なのにだ。


 ナツは脱落者だ。

 なのに今は、補佐として俺にひもづいている。

 負ければ、彼女の“存在”が()()()()()()()()()


 カケル・テンドーが、腕を組んだままモニターをにらむ。

 片手のコインが、指の間でひらりと舞う。


「……いいねぇ。数字で首を締めてくる。胴元らしい」


 タニシが淡々と続ける。


「抹消率上昇。ベット量と敗北回数に比例でござる」


 ムーニャンが猫耳を逆立てた。


「笑ってる場合じゃないにゃ! ナツが消えるにゃ!」


 ミツキが端末を叩く。瞳だけが冷たい。


「観測度が上がっています。……“良いデータ”ほど、削減優先に」


 イツキは、軽い口調のまま“ド正論”を投げた。


「負けなきゃいいじゃん。……って言いたいけど、相手が不正なら話は別」


 そのとき。

 カウンター奥でシーシャをふかしていたフー子が、細い煙を輪にして吐いた。


「ふぅ……。ほら、また“嫌な間”があるよ」


 コハクが尻尾をぶんぶん振りながら、画面を指差す。


「ワン! あの女、()()にズルしてるでござる! 顔がズルい!」


「顔は関係ないだろ」


 カケルが肩をすくめた。


「いや、関係ある。ギャンブルの顔ってのはな、“勝つ顔”じゃねぇ。

 “負ける瞬間を見たい顔”だ」


 俺はカプセルの中で、手を握りしめた。

 次のラウンド。

 卓の向こうには、ジャクラ・ミコト。

 柔らかい笑み。赤い唇。目が、笑っていない。


挿絵(By みてみん)


「さぁ、続けましょう?」


 カードが回転し、落ちる。

 俺の手札は――10と8。合計18。

 ナツは7。


【MASTER:18】

【SUPPORT:7】

【PAIR SUM:25】


 ……ペア合計は、すでにアウト圏。

 ここで焦って動けば、さらに削られる。


 ジャクラのオープンカードは9。

 笑みが深くなる。


「ヒット、なさいますか?」


 モニター越し、観客が息を呑んだ。

 ムーニャンが爪を握る。


「先輩……」


 ナツの声が、カプセル越しに震えた。


 俺はヒットした。

 引いたカードは2。

 合計20。


 悪くない。

 これなら勝てる。


 ……普通なら。


 ジャクラは、わずかに“待った”。

 0.3秒。

 たったそれだけの“間”。


 そして、ディーラーはカードをめくる。


 12。

 さらにヒット。

 ――9。


 21。


 負け。


 画面の端の赤い数字が、音もなく跳ね上がる。


【SUPPORT ERASE PROBABILITY:48%】


 ナツが、息を呑んだ。

 俺の胸の奥が、冷えていく。


 ジャクラは優しく言う。


「惜しい。……でも、賭けが足りませんねぇ?」


 煽りが、肌にまとわりつく。


 次のラウンド。

 俺は17で止めた。

 ディーラーは、ぴたりと20で止めた。


 また負け。


【SUPPORT ERASE PROBABILITY:56%】


 ムーニャンが叫ぶ。


「上がってるにゃ!!」


 ミツキが短く呟く。


「削減閾値、加速……」


 イツキが、目を細めた。


「……勝ち方が、毎回ちょうど良すぎる」


 カケルは、コインを止めた。


「“後出し”の匂いがするな」


 その言葉が、胸に刺さる。

 でも、証拠がない。


 次。

 俺が20を作る。

 ディーラー21。

 俺が19で止める。

 ディーラー20。

 俺が21を狙う気配を見せる。

 ディーラーも21。


 勝てない。

 勝たせてもらえない。


【SUPPORT ERASE PROBABILITY:63%】


挿絵(By みてみん)


 ナツの指先が、ほんの少し透けた。

 ノイズが走る。

 彼女は笑おうとして、失敗した。


「だ、大丈夫です。先輩……まだ……」


 俺は、歯を食いしばった。

 焦るな。焦ったら負ける。

 でも焦る。

 数字が、彼女を削っていく。


 そのとき、耳の奥にノイズ混じりの声が割り込んだ。


『……プレイヤー……サイシュウ値……カクテイ後……』


 ルステラ。

 途切れ途切れだ。いつもの冷静さがない。


『……ヒョウジ値……カクテイト同義……』

『……ディーラー側……サイエンザン……』


 ぷつり、と切れた。


 俺の思考が、そこで止まった。


「……表示値が、確定?」


 ジャクラが首を傾げる。


「どうしました? 考え事ですか?」


 その笑みが、いやらしい。

 まるで“気づけ”と言っているみたいに。


 タニシが言った。


「応答遅延、確認。0.4秒。

 ディーラー側に演算負荷がある可能性」


 イツキが続ける。


「ねぇこれ、ディーラーってさ――

 こっちの最終値を見てから“勝つ手”に調整してない?」


 ムーニャンが息を呑む。


「……後出しにゃ?」


 カケルが、低く笑った。


「ギャンブルで一番ムカつくやつだな」


 俺は、胸の奥から言葉を引きずり出した。


「……()()()()()()()()()()()()()()


 医療区画が、一瞬静まり返った。

 モニター越しの観客まで、息を止めたのが分かった。


 ジャクラは微笑んだまま、否定しない。


「倫理層では、“最適応答”と呼びます。

 人間が最も“揺らぐ”瞬間を観測するために」


 フー子が煙を吐き、ぽつり。


「……嫌だねぇ。勝負じゃなくて、()()だ」


 コハクが唸る。


「卑怯でござる! 忍者でも、もう少し手加減するでござる!」


【SUPPORT ERASE PROBABILITY:68%】


 ナツの輪郭が、また薄くなった。

 俺の焦りが、限界を叩く。


 ここで勝て。

 勝たないと、ナツが消える。


 でも、普通にやっても無理だ。

 最終値を見られた瞬間、向こうが勝つ。


 ――なら。


 最終値を、見せなければいい。


 ルステラの言葉が繋がった。


(表示値が確定と同義)

(確定後に再演算)


 つまり。


 表示しなければ、確定しない。


 俺は深く息を吸う。

 そして、宣言した。


「ダブルダウン」


 ナツが目を見開く。


「先輩!?」


 カードを引く。

 ――伏せた。

 開かない。


挿絵(By みてみん)


 ジャクラの笑みが、ほんの一瞬だけ“止まった”。


「……確定させないのですか?」


 俺は低く言う。


「確定してねぇんだろ?

 お前は俺の“確定値”を見てから、勝てる札に変えてる」


 ムーニャンが叫ぶ。


「先輩、気づいたにゃ!!」


 タニシが続ける。


「表示がない=未確定。

 ディーラー最適応答、対象不明でござる」


 イツキが、笑った。


「詰ませに行ってる」


 ミツキは静かに頷く。


「……先輩、勝てます」


【SUPPORT ERASE PROBABILITY:79%】


 ナツの腕が、ほぼ半透明になった。

 彼女は震えながらも、笑った。


「……先輩、信じます」


 胸が痛い。

 時間がない。


 ジャクラが、甘い声で煽る。


「確定しなければ、勝敗も確定しませんよ?

 このままなら――補佐のログは、削減優先に」


 その言葉で、腹の底が決まった。


 俺は、全チップを中央へ置いた。


「ベット変更」


 観客がどよめく。

 カケルが、ニヤリとする。


「さぁ来た。ここがギャンブルだ」


 俺は言った。


「俺は――“ディーラーが先に開く”に賭ける」


 一瞬、空気が凍った。


 ジャクラの目が、揺れた。

 初めて、感情がにじむ。


「……それは、規定外です」


「規定違反か?」


 沈黙。

 倫理層は“宣言”をルール化する。

 ここは試験場だ。穴も、仕様だ。


【BET ACCEPTED】


 モニター越し、フー子が小さく笑った。


「……おじさん、やるねぇ」


 コハクが尻尾を振る。


「ご主人様ぁぁ! かっこいいでござる!」


 ムーニャンが涙目で拳を握る。


「勝て……勝つにゃ……!」


 ジャクラは、笑おうとして、失敗した。

 そして――カードを開いた。


 20。


 その瞬間、ディーラー側の数値が固定される。


 タニシ。


「確定ログ、固定。再演算不可」


 イツキ。


「はい詰み」


 俺は、ゆっくり伏せ札を開いた。


 ――3。


 合計21。


挿絵(By みてみん)


【RESULT:CLEAR】

【SUPPORT ERASE PROBABILITY:0%】


 ナツの輪郭が、戻った。

 ノイズが消える。

 呼吸が整う。


 医療区画の観客席で、歓声が爆発した。

 ムーニャンが泣きながら吠える。


「やったにゃあああ!」


 コハクが跳ねる。


「勝ったでござる! 泥船じゃなかったでござる!」


 フー子は煙を吐き、目を細めた。


「……“守りたいもの”があると、人は賭け方が変わる」


 ジャクラは、黙っていた。

 笑みが、完全に崩れている。

 ほんの一瞬――試験官の目になった。


「……あなたは“表示”を()()()


 俺は短く言う。


「勝てない勝負を、勝てる勝負に戻しただけだ」


 耳の奥で、ルステラが小さくささやく。


『……ケンショウ……完了』


 俺は息を吐き、言葉を落とした。


救出未完了リリース・ノットエンド……まだ、途中だ』


 ジャクラの視線の奥で、影がわずかに歪んだ。

 どこかで、ロキが低く笑った気がした。


 そして、画面には次の表示が滲む。


【NEXT:ETHICS_LAYER_CASINO / PHASE-2】


 終わってない。

 ――まだ、途中だ。

第30話までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は

【RESULT:CLEAR】

そしてナツの実体復元という、大きな転換点の回でした。


勝利はしましたが、物語としてはまだ“途中”です。

ここから管理側の動きも変わっていきます。


■今回の登場キャラクター


マスター(NO NAME)

ギルド酒場るすとのマスター。

今回も静かに盤面をひっくり返す側。


ナツ

前衛系冒険者。体育会系の健康担当。

削減候補からの実体復元という前例のない現象を起こした存在。


ジャクラ

管理側寄りの対戦者ディーラー

理屈と確率を信じる男。今回はその前提を崩された。


第1章終盤です。これからさらに盛り上がっていきます。次回もよろしく!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

影森ゆらは今日も死ぬ
女子高生×オカルト×ちょっと変な日常。
そんな空気が好きでしたら、たぶん刺さる作品です。
お気に召しましたら、ブックマークなどで応援いただけると励みになります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ