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異世界ゲームバー転生おじさん(42)、世界のバグになる。 〜看板は酒場、ノルマは命。AI神権に管理された世界で、名前のないマスターは今日も死に戻る〜  作者: 勇者ヨシ君
第1章 異世界ギルド酒場”るすと”へようこそ!

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第26話 勝ったはずなのに、何かが減っている ――読みを外した代償が笑えない――

――――――――――

大会本選、ついに開幕。

圧倒的“努力”の象徴と、削減される側の男が対峙する。

これは、まだ最初の恐怖にすぎない。


――――――――――

挿絵(By みてみん)


 闘技場《バベル武闘層》が展開した。

 半透明の演算床。

 その下を流れるのは倫理ログと戦闘アルゴリズム。


 観客席は満員だ。

 ざわめきは、熱狂へと変わりつつある。


「さあさあさあぁ〜〜〜〜っ!!

 本選第一試合、いよいよはじまるわよォ!!」


 甲高く、艶やかに響く声。

 ステージ中央、スポットライトを浴びて立つのは――


「実況は今回もアタシ、L.O.K.I.――ロキちゃんでお届けするわよォ〜♡

 今日も美しいわねぇ、暴力と倫理のハーモニー♡」


 おネェ口調でウインク。


 だが、その瞳の奥は笑っていない。


「対するはぁ〜〜〜!

 努力と筋肉の象徴! 我らが神権演算武闘型マッチョ!」


 光柱の中から現れる巨躯。


「――ヘラクレスゥゥゥ!!」


 歓声爆発。


 ヘラクレスの棍棒が地面を激しく叩き、演算波が広がる。


「そしてぇ〜〜〜!

 例外ノード! 低位固定型! でもでも、いつもなぜだか勝ち上がるおっさん!」


 反対側の光柱。


 マスターが、静かに歩み出る。


「NO NAME――マスタァァァァァ!!」


 観客の反応は割れる。


 応援と、疑念と、好奇。


 観客席。


「アニキぃぃぃ!! がんばるでござるぅぅ!!」


 タニシが身を乗り出して叫ぶ。


 脂汗をかきながらも、全力の弟分ムーブ。


「おっさん負けたら承知しねぇアルよー!」


 ムーニャンが腕を組み、フーとうなりながら牙を見せる。


「ご主人様ぁぁ!! 推参! 必勝でござるワン!!」


 コハク、尻尾ぶんぶん。


さらに別席。


 イツキが腕を組み、ログ端末を覗き込む。


「観測度、上がってるねぇ〜。

 これ、普通の本選じゃないわ。」


 ミツキが不安そうに言う。


「削減ログ……増えてます。

 お兄さん、大丈夫でしょうか……」


 その後ろ。


 シンが静かに目を細める。


「……来たか。」


 低く、呟く。


 ガロは腕を組んだまま。


「世界が、試しておる。」


 奥のVIP観測席。


 ギルマスが無言で立つ。


 その目はマスターと同じ顔。

 だが、違う光を宿している。


 そして。


 観客席の隅。


 魔煙の大魔女――フー子が、煙管をくゆらせる。


「……ほぉ。

 削りに来たか。」


 彼女の瞳だけが、演算層の奥を見ていた。


 また、いつもなら元気なナツはゆっくりと拳を握りしめ、マスターを見つめる。


 その視線を、俺は受け止めた。

 ……よし。


 開始の鐘が鳴る。


開始一秒


 ヘラクレスが動いた。


 消えた、という錯覚。


 実際は――速いだけだ。


 次の瞬間、マスターの目の前。


 棍棒が真上から振り下ろされる。


 空気が裂ける音。


 マスターは半歩、右にずれる。


 直撃は避けた。


 だが。


 棍棒が床を叩いた瞬間、衝撃波が円状に広がる。


 足元のパネルがひび割れ、爆ぜる。


 遅れて衝撃が脚に伝わる。


 体が浮く。


 後方へ弾き飛ばされる。


 背中から着地。


 呼吸が一瞬止まる。


「遅い!!」


 追撃。


 横薙ぎ。


 棍棒の風圧が顔を叩く。


 腕で受ける。


 骨が軋む。


 そのまま横へ滑らされる。


 靴底が火花を散らす。


『真正面衝突、非推奨。

 横方向誤差利用、継続推奨。』


 ルステラの声が冷静に響く。


 マスターは歯を食いしばる。


 ……重い。


 単純に、重い。


二撃目


 ヘラクレスは距離を詰めない。


 半歩、待つ。


「どうした!!

 読んでみせろ!!」


 挑発。


 マスターは呼吸を整える。


 肩の位置。

 棍棒の握り直し。

 重心。


 踏み込みが来る。


 次は横から。


 マスターは左へ流れる。


 予測通り、棍棒が空を切る。


 そのまま懐へ。


 肘を打ち込む。


 硬い。


 岩を殴った感触。


 ヘラクレスは一歩も退かない。


 逆に膝蹴り。


 腹に直撃。


 視界が白く弾ける。


 肺から空気が抜ける。


 体が折れる。


「立て!!」


 ヘラクレスが叫ぶ。


「経験を積んできたのだろう!!

 貴様は“読む男”だと聞いたぞ!!」


 マスターは地面を掴み、立つ。


 ……読む。


 そうだ。


 読む。


 今までは、そうやってきた。


■第一削減


 ヘラクレスの棍棒のフェイント。

 振りかぶったと見せて、途中で止める。


 普段なら、分かる。

 発生の“溜め”が短い。


 だが。

 体が一瞬、反応する。


 早い。

 罠だと気づくのが、半拍遅れる。


 肩に直撃。鈍い音。

 後方へ転がる。


(フレーム……?)


 頭の奥で、何かが霧散する。


 “フレーム有利”。


 その言葉が、浮かばない。

 概念はある。

 だが単語が出てこない。


「……なんで今、早く動いた?」

 自分で分からない。


 観客席。


 イツキが小さく呟く。


「削れた。」


 ミツキが顔を青くする。「削れたって...何がですか、姉さん...」


■圧倒的出力


挿絵(By みてみん)

 ヘラクレスが棍棒を肩に乗せる。


「良い。

 だが()()()!!」


 足を踏み込む。


 床が陥没。


 踏み込みの振動が波となって走る。


 マスターの(ひざ)が揺れる。


 その揺れを利用して、ヘラクレスは突進。


 棍棒を水平に薙ぐ。


 マスターはしゃがむ。


 髪を(かす)める風圧。


 すぐさま立ち上がり、足払い。


 当たる。


 だが。


 ヘラクレスは体幹で受け止める。


 びくともしない。


 逆に肩で押し返される。


 体が浮き、背中から叩きつけられる。


「努力とは、積み重ねだ!!」


 棍棒が振り下ろされる。


 横転。


 床が砕ける。


 破片が(ほお)を切る。


 血が(にじ)む。


■第二削減


 呼吸を整えながら、距離を測る。


 いつもなら。


 “置き技”という考えが浮かぶ。


 だが。


(……なんて言うんだっけ)


 言葉が出ない。


 頭の中で、理論が霧のように薄まる。


 身体は動く。


 でも説明ができない。


『対戦理論言語ログ、圧縮進行中。

 感覚保持率:82%。』


 ルステラの声。


 ミルのログが短く走る。


例外個体、予測困難化


 バル。


演算誤差拡大


 エティ。


倫理層干渉ログ増加


ヘラクレスが、大きく振りかぶる。


 棍棒が頭上で(うな)りを上げる。

 黄金の演算紋様が一斉に発光し、彼の筋繊維を走る光が脈動する。


 空気が押し潰される。


 耳の奥で圧が鳴る。


 今度は本気だ。


 測定でも、牽制でもない。

 ()()()()に来ている。


 右足が深く踏み込まれる。


 演算床が悲鳴を上げるように陥没(かんぼつ)し、亀裂(きれつ)が放射状に走る。

 振動が地面から足裏へ、脛へ、腰へと伝わる。


 重い。


 質量ではなく、出力そのものが重い。


 棍棒が振り下ろされる。


 風圧で視界が(ゆが)む。

 光が尾を引き、空間が引き裂かれる。


 真正面。


 距離はもう詰まっている。


 避け場はない。


 避けられない。


 ――いや。


 ほんの、わずか。


 踏み込んだ右足が亀裂の縁にかかる。


 わずか数ミリ、沈む。


 その沈み込みで、骨盤の角度がほんの少しだけ狂う。


 振り下ろしの軌道が、理論値から外れる。


 俺の身体が反応する。


 思考より速く。


 理屈より前に。


 左足が滑る。


 腰を沈め、上半身を左へ流す。


 棍棒が、肩の表面を(かす)める。


 衝撃。


 皮膚が裂ける。


 骨を震わせる衝撃波が、肩から鎖骨、首筋へと突き抜ける。


 右腕の神経が、一瞬、焼けたように(しび)れる。


 拳の感覚が、消える。


 指が、自分のものではない。


 視界が白く弾ける。


 だが、軌道の中心は外れた。


 致命ではない。


 ――まだ動ける。


 俺は、そのまま前へ踏み込む。


 逃げない。


 懐へ、なだれ込む。


 ヘラクレスの視界。


 彼の演算補助が軌道を予測する。


 最適反撃角度。


 カウンター位置。


 全て表示されるはずだった。


 だが。


 マスターの動きが、演算ラインから外れる。


 予定軌道が、わずかにずれる。


 “ありえない誤差”。


 ヘラクレスの瞳が、ほんの一瞬だけ揺らぐ。


「――読めない?」


 彼の内部で、警告が走る。


 ミルのログ。


M.I.R.-CORE

予測モデル乖離(かいり)

許容誤差超過


 バルのログ。


B.A.L.-PROCESSOR

最適迎撃ルート消失

再計算中……失敗


 俺の拳が、ヘラクレスの胸部へ到達する。


 感覚はない。


 痺れたままの拳。


 それでも、衝撃は伝わる。


 黄金の演算紋様が脈打つ中心。


 そこへ叩き込む。


 硬い。


 石でも鉄でもない、演算の塊。


 拳の骨が軋む。


 だが、衝撃は通る。


 紋様の光が、瞬間的に乱れる。


 ヘラクレスの視界。


 演算補助がノイズを吐く。


 “予測不能”。


 俺は、もう一発。


 同じ位置。


 肩の痺れで力が抜ける。


 だが、体重を乗せる。


 肘から肩へ、腰から足へ。


 全身の連動。


 紋様に、ひびのような乱れが走る。


 さらに踏み込む。


 距離ゼロ。


 三発目。


 拳をねじ込む。


 鈍い、金属を打つような音。


 黄金の線が、一瞬、途切れる。


 静寂。


 観客席の息が止まる。


 ミル。


観測値急上昇

例外挙動固定化不能


 バル。


戦闘優位計算崩壊

勝率再算出不能


 ヘラクレスの視界。


 マスターの動きが、読めない。


 理屈がない。


 理論がない。


 だが、確実に急所を打っている。


「……理屈ではない、だと?」


 彼の膝が、わずかに揺れる。


 棍棒が手から滑りかける。


 そして。


 ゆっくりと。


 ヘラクレスの片膝が、床に落ちる。


 演算床が光り、衝撃を吸収する。


 フィールド全体が白く明滅する。


 戦闘停止判定。


「勝者、NO NAME。」


 その機械的な声が響いた瞬間。


 溜め込まれていた観客の息が、一斉に爆発する。


 歓声が、闘技場を揺らした。


 俺は拳を見る。


 まだ、痺れている。


 感覚が戻らない。


 そして。


 頭の中に浮かぶはずの言葉が、ない。


 ――なぜ、今のが通った?


 その答えを、説明できない。


 マスターは立ったまま、拳を見つめる。


 ヘラクレスが立ち上がる。


 高らかに笑う。


「いい目だ。だが理屈が薄いな。」


「……理屈?」


 その単語が、遠い。


 ナツが駆け寄る。


「完璧な読みでした!」


「……読み?」


 それも、重い。


 頭の中に霧がかかる。


『削減進行:段階3。

 対戦理論言語ログ、大幅欠損。

 戦術感覚保持率:74%。』


 観客席。


 シンが低く呟く。


「第一段階、完了だな。」


 ガロが唸る。


「世界が削っておる。」


 フー子が煙を吐く。


「ヒヒ……

 “読む男”が、読めなくなる。

 こりゃあ愉快じゃ。」


 ギルマスは、無言でマスターを見つめる。


 その目は、わずかに揺れていた。


 勝った。


 確かに勝った。


 だが。


 マスターの中から、

 “戦う理由を説明する言葉”が、静かに消えていた。


 恐怖は、まだ形を持たない。

 だが確実に。積み上がっている。

◆ヘラクレス

努力至上主義の神権AI。普段は暑苦しい筋肉バカですが、本気モードでは冷静な演算体へと切り替わります。今回は“圧倒的実力”を見せる役。まだ本領の一部しか出していません。


◆マスター(NO NAME)

削られる側の男。正面から殴り合えば分が悪いのは明白。それでも一歩踏み込む理由は何か。肩の痺れ、感覚の欠落——すでに代償は始まっています。


◆ルステラ

冷静に助言を続ける観測AI。だが彼女のログにも揺らぎが出始めています。助言は最適解か、それとも別の未来への誘導か。


◆ロキ

おネェ口調の大会MC。軽いが、観測は深い。彼(彼女?)はどこまで“知っている”のか。


◆タニシ/ムーニャン/コハク

応援席組。タニシは全力で持ち上げ、ムーニャンは戦力分析、コハクは感情全開。三者三様の反応が、闘技場の温度を上げています。


◆イツキ/ミツキ

ログ管理と感情の番人。今回の試合は“数値に残らない違和感”が発生しています。イツキはそれを見逃さない。ミツキはそれを不安として感じ取る。


◆シン

静かな観測者。誰よりも世界の構造を理解しつつ、まだ動かない。彼が動く時、それは分岐点です。


◆ガロ

過去を知る男。力のぶつかり合いを見ながら、別の“失われた戦い”を思い出しています。


◆ギルマス

表に出ないが、最も深く見ている存在。マスターに似た顔の裏にあるものはまだ語られません。


◆フー子

風来の魔女。観客席でポップコーンを食べながら、世界の“インデックス”を眺めているだけ。今回はまだ、動きません。


次話、削減はさらに進行します。

ここからが本当の本選です。

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