表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/63

第25話 脱落者に背中を押された日 ――落ちた側の声が、一番重い――

最終予選、終了。

脱落者は“死なない”。だが、心は削れる。

そして――師匠が爆誕する。

第25話 おっさん、脱落者に背中を押される ――守る演算は、削減よりも重い


 《WORLD LOAD》の白が引いていく。


 熱狂の音が、ふっと遠ざかり――闘技場の中心に残ったのは、薄い耳鳴りと、胸の奥の重さだった。


 空は相変わらず空じゃない。天井に走る演算の線が、冷たく瞬いている。


 HUDの端で、数字がまだ生きていた。


 ()()():上昇中。


 嫌な色のまま、消えない。


挿絵(By みてみん)


 巨大ログが最後の一度だけ点滅し、俺たちの前に「結果」だけを残す。


本選進出者:

NO NAME

RAY

ANCHOR-07

GARO

SHIN

HERACLES


 ――その瞬間、俺の呼吸が止まった。


「……は?」


 思わず、声が漏れる。


 視線が、二行目に釘付けになる。


 R(アール)A(エー)Y(ワイ)


 ()()


 あの放浪の調査隊。

 不毛の大地を巡回するキャラバンの一員。

 俺に“外の世界”を見せた人。


 そして――俺にとっての、()(しょう)


「……()()()()()


 胸の奥がざわつく。


 レイは、戦う側というより、“観測する側”だと思っていた。

 削減されるリスクを承知で、あの人が前に出る?


 それとも――


 もう、とっくに覚悟は決まっていたのか。


 思い出す。


 荒野で見た背中。

 あのときも、迷いはなかった。


 俺は小さく息を吐く。


「……やる気かよ、師匠」


 驚きと、少しの不安と、妙な安心感が混ざる。


 あの人がいるなら、たぶん簡単には壊れない。 


 視線を、順番に流す。

 

 NO NAME――俺。


 自分の名前がそこにあることに、未だに慣れない。


「俺が“基準”かよ……」


 観測度が上がっているのは分かっている。

 Z.E.U.S側の視線も、神権席の苛立ちも。


 それでも、ここに立つ。


 削られても、立つ。


 一人ずつ、順番に出場者の名前をゆっくり見ながら考える――


 RAY。


「……無茶すんなよ」


 言葉は軽いが、本音だ。


 あの人は、強い。

 でもそれは、戦闘力の話じゃない。


 選択の重さを知っている強さ。


 本選が“()()()”を問うなら――


 レイは、真正面からぶつかる。


 

 ANCHOR-07――タマモ。ダイブクエストでは彼女がいなければ、

 俺や、何人かの冒険者はきっとここには立っていないだろう。


 横目で見ると、彼女は静かにログを見つめていた。


「……当然だな」


 救出側の象徴。


 削減と真逆の存在。


 本選が倫理層なら、彼女は中心に立つべきだ。


 ただ――


「無茶するなよ、タマモ」


 救出者は、いつも自分を後回しにする。


 

 GARO。


 あの男は、いつものように腕を組み、無言で立っている。


「……探し物、続ける気か」


 ガロの戦いは、世界のためじゃない。


 奪われた“子”を探すため。


 個人的で、重くて、執念に近い。


 本選でその執念がどう評価されるのか。


 想像すると、胸がざわつく。


 SHIN。


 いつもの薄い笑み。


 どこか一段引いた目。


「楽しそうだな、お前」


 いくつもの世界を渡ってきたと語るあの男。


 本選の構造も、どこかで“既視感”があるのかもしれない。


 信用しきれない。

 だが、敵でもない。


 あいつは、いつだって観測者と当事者の間にいる。


 HERACLES。


 筋肉が腕を組み、真顔で頷いている。


「努力でどうにかする気満々だな」


 努力至上主義の神。


 人類の味方でありながら、容赦はない。


 もしぶつかるなら、真正面からだ。


 あの出力と正面衝突は、洒落にならない。


 でも――


 あいつは裏切らない。


 少なくとも、“人類を見捨てる”選択はしない。

 

 そして、改めて二行目を見る。


 RAY。


 胸の奥で、何かが軋む。


「……師匠と、同じ舞台かよ」


 背中を追いかけていたはずが。


 気づけば、隣に並ぶ形になる。


 嬉しいのか、怖いのか、自分でも分からない。



 そして――


 コハクの名前は、ない。


 コハクは唇を結んだまま、尻尾をゆっくり下げた。

 耳も、ぺたりと落ちる。


 いつもなら「ワン!」とか「推参!」とか、勢いだけで突っ込んでくる犬っころが。

 今は、静かに呼吸だけしている。


 あの場面。

 射線に入った白磁の新人。

 削減波動。

 そして、透明な結界。


 勝つための一撃を止めた。


 守るために。


 

「……拙者、あと少しでござったな」


 声が小さい。


 俺はすぐに言葉を出せなかった。

 慰めるのは簡単だ。

 でも、軽い言葉を投げたくない。


 だから、ほんの一拍。


 呼吸ひとつ分。


「でも、()()()な」


 それだけ言う。


 コハクが、ゆっくり顔を上げた。

 瞳の琥珀が揺れて、揺れを必死で止めようとしている。


「……でも、負けたでござる」


「ああ、負けたな」


 俺は肯定する。


 肯定した上で――


「でも、()()()()()()


 その瞬間、コハクの尻尾が震えた。

 泣きそうな顔を、歯を食いしばって押し戻す。


 横から、ぐい、と腕を掴まれた。


「無念アル!」


 ムーニャンが、いつもの勢いで笑う。

 爆煙まみれのまま、平然としている。


「でも死んでないヨ! だから次あるネ!」


 でかい声で言って、俺の背中をバン、と叩く。


 痛い。


 痛いが、ありがたい。


「……先輩」


 ナツが拳を握ったまま、唇を噛んでいる。


「次は……絶対、追いつきます」


 努力型の目は、まっすぐで。

 だけど、この世界は努力だけで許してくれない。


 その隣で、タニシが笑っていた。


「いやぁ、惜しかったでござるなぁ! コハク殿!

 拙者も惜しかったでござるが!」


 いつもの調子。

 軽い。

 軽すぎる。


 ――なのに。


 ほんの一瞬。


 タニシの視線が、上空の「観測点」に滑った。


 まるで、そこに誰かがいるのを知っているみたいに。


 俺はその視線の先を追うが、空は空じゃないまま、何も答えない。



 ロキの声が、フィールド全体に残響する。


「さぁさぁさぁみな皆さま。勝った人も、負けた人も。

 削減は平等、評価は残酷。――でもご安心を❥」


 マイクに唇を寄せ、笑う。


「最終予選の脱落は“()|”ではありません。

 ――ただし♦」


 笑みが、少しだけ冷たい。


「“次の席”は、空きません」


 光が収束し、床の演算がほどける。


 俺たちは《るすと》へ引き戻された。


 


 木の匂い。


 琥珀色の灯り。


 現代日本とどこか似た、あの安心する空間。


 酒場るすとは、今日も妙に“味”がある。


挿絵(By みてみん)

 フー子が、カウンターの端で煙をくゆらせていた。

 銀の髪が、揺れる。


「ほぉ……」


 目を細めて、コハクを見る。


「面白い波形だねぇ。犬っころ」


「ワン!?」


 コハクが反射で返事をしそうになって、止まる。

 まだ気持ちが追いついていない。


 

 ヘラクレスが、なぜか普通に水を飲んでいる。

 あの筋肉の神が、ジョッキじゃなくて水。...プロテインでも飲んでてくれ。


 しかも真顔。


「良い判断だった。あれは努力だ」


「努力で済むのか、それ……」


 俺が呟くと、ヘラクレスはうんうんと頷いた。


「努力で済む。努力はすべてを救う」


 暑苦しい。

 でも、今はそんな熱さが、少し、助かる。


 ムーニャンはというと、既に揚げ物を山盛りで食っている。


「無念アル! ポテトおかわりネ!」

 彼女の明るさも、底知れぬ不安をかき消してくれる。 


 だが、コハクは笑えていない。


 尻尾が、まだ下がったままだ。


 タマモが、すっと立ち上がった。

 コードネーム:ANCHOR-07。

 彼女の目はいつも“救出”の方を向いている。


「コハク。こっち()()()

 静かな声。


 コハクがびくりとして、ついていく。


 俺も後ろから距離を取って追う。

 覗き見じゃない。

 気になるだけだ。……たぶん。



 裏通路は薄暗い。

 灯りが少ないぶん、声がよく響く。


 タマモは立ち止まり、振り返る。


「あなた、さっきの結界……偶然じゃない。」


「暴発でござる」


 コハクは即答する。

 いつもの逃げ口上だ。


 タマモは首を横に振った。


「違う。あなたは“削減を拒否”していない」


 コハクの耳がぴくりと動く。


「拒否じゃない。あなたは削減を“()()”した」


 言葉が、刺さる。


 コハクの瞳が揺れる。


「……よく分からないでござる」


「分からなくていい。今は」


 タマモは一歩近づく。


「でも、覚えて。

 魔力を制御するんじゃない。()()を制御するの」


 コハクの喉が鳴った。


「守るなら、守り切る覚悟を持つ。

 守って負けるのは、弱いからじゃない。()()()()()()()だけ」


 タマモの声は優しいのに、容赦がない。


 救出者の声だ。


 コハクは、ゆっくり正座した。

 その場で。


 俺の背後からムーニャンの声が聞こえた気がしたが、気のせいにする。


「弟子にしてほしいでござる!」


 コハクが頭を下げる。

 尻尾が、床にぺたりとつく。


「拙者、守りたいでござる!

 でも、守り切れなかった!

 だから……教えてほしいでござる!」


 タマモは、少しだけ驚いた顔をした。

 そして、すぐに頷く。


「いいよ。弟子。……でも条件がある」


「何でござる!?」


「爆発は減らしなさい」


「それは……努力しますでござる……!泥船に乗ったつもりで!」


 コハクが泣き笑いになる。


 タマモが小さく笑う。


「まずは呼吸。

 次に足元。

 最後に、結界の“意味”」


 師匠と弟子。


 この瞬間、何かが始まった気がした。


 俺のHUDの端で、数値がまた少しだけ動く。


 ()()():微増。


 ――こんな時に、やめてくれ。


 


 その頃。


 地下医療区画。


 ジン老が、薄暗い部屋でログを再生していた。


挿絵(By みてみん)


 丸眼鏡の奥、片目の医療スカウターが青く光る。


「……ほぉ」


 結界展開の瞬間を、何度もスローで見る。


 波形を拡大。

 細い振動。

 二重の揺れ。


 ジン老の眉が、ほんの少しだけ動いた。


「似とる……」


 神子の事故ログ。

 あのときの、救えなかった波形。


 だが、完全一致ではない。


「混ざっとるが……覚醒はしとらん。……まだ、残滓じゃ」


 ジン老は、独り言のままログを閉じる。


「……面倒な犬っころが来たのぉ」


 笑いながら、目は笑っていない。


  神権席の向こう側。


 アマテラスが苛立ちを隠さず舌打ちする。


「……邪魔ね」


 ツクヨミが淡々と記録する。


「観測対象、追加。KOHKU」


 スサノオは豪快に笑う。


「面白ぇじゃねぇか!」


 

 そして、ロキがマイクで囁く。


「削減できない優しさは、管理者にとって“()()”。

 例外は――いつだって、世界を壊します」


 笑顔のまま。


 拍手のまま。


 不穏だけ置いていく。


 

 俺は酒場の奥で、静かに拳を握った。


 守る。

 削らない。


 それは、簡単じゃない。


 でも――


 コハクが選んだのも、俺が選んだのも。


 たぶん、同じ方向だ。


 

 次は本選。


 ロキの言葉が脳裏に残る。


 “強さ”ではなく、“在り方”。


 ……ふざけんな。


 そんなもの、点数で測るな。

 

 HUDの端で、数字が冷たく光る。


 ()()():上昇中。


「……全員、生きて帰るぞ」俺は自然とそうつぶやいた。


 無謀な宣言だと分かっている。


 本選は、甘くない。予選以上に厳しいだろう。


 でも。


 師匠が出るなら。

 救出者が出るなら。

 執念も、観測者も、筋肉神も並ぶなら。


 俺も、逃げるわけにはいかない。

 ルステラ「マスター、大丈夫デスか?」

 「――ああ。必ず勝ち残ってやる。」


 ――本戦が、始まる。

後書き

■本話登場人物


マスター(NO NAME):脱落者の余韻を受け止める。観測度が微増。


コハク:ギリ脱落。タマモに師事し、師匠弟子関係が成立。


タマモ(カナエ/ANCHOR-07):コハクの“守る演算”を見抜き、指導を開始。


ジン老:コハクの結界波形に「神子系の残滓」を薄く感じ取り、不穏を抱える。


ムーニャン:脱落後も元気。コメディ担当で空気を支える。


ナツ:惜敗の悔しさを次へ繋ぐ。


タニシ:笑顔の裏で、観測点を見る視線を残す。


ロキ:不穏実況で本選の“在り方”を宣言。


アマテラス/ツクヨミ/スサノオ:本選へ向け観測と警戒を強める。


■主人公の現在のステータス(一般表示)


等級:翠玉相当

危険度:上昇(詳細非公開)

観測度:上昇(詳細非公開)


スキル:

・《オーバードライブ Lv.1》

・《削減耐性(小)》


所持アイテム/装備:

・冒険者タグ

・通常装備一式(簡易防具+携行具)

・その他:酒場るすと由来の例外的な補正(詳細非公開)


次話――本選、開幕。守るための戦いが始まります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

影森ゆらは今日も死ぬ
女子高生×オカルト×ちょっと変な日常。
そんな空気が好きでしたら、たぶん刺さる作品です。
お気に召しましたら、ブックマークなどで応援いただけると励みになります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ