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第23話 勝ったのに、再評価が始まった ――休憩のはずが、心はまったく休めない――

最終予選を前に、ロキが舞い降りる。

白い演算層では、冷たいログが更新されていた。

笑いと筋肉の裏で、何かが“削減”されようとしている。

第23話 おっさん、休憩なのに落ち着かない――勝ったはずなのに、再評価されました


挿絵(By みてみん)

 倫理層(りんりそう)を突破した直後の控室は、まるで勝利後の祝祭のような熱気に包まれていた。


 壁際に背を預けたマスターは、まだ荒い呼吸を整えている。額には汗が残り、瞳はわずかに遠くを見ていた。


 その隣でナツが落ち着きなく歩き回る。


「マスター! 今の、完全に会場ぶち抜きましたよ!? 空気変わりましたって!」


 彼女は拳を握りしめ、あの選択の瞬間を誇張して再現する。


「合理切り捨てて“それでも選ぶ”って顔してましたよ!? あれ、()()()です!」


「そんな顔はしてない」


 マスターは静かに返す。


 テーブルの上に飛び乗ったムーニャンが、両腕を広げた。


「いやいやいや! あれは感動アル! 合理? 知らぬ! 人間力、爆発アル!――近くで見たかったヨ~」


「さっきまで合理派だっただろ」


「それは()()、これは()()アル!」


 それに続いてくるりと回転して着地したのはコハクだ。


「泥船に乗ったつもりで安心めされよ、ご主人さま! あれは忍法“情の一撃”でござる!」


「そんな忍法は()()


()()でござる! きっと!」


 壁際から、ぬるりとタニシが出てくる。


「拙者は最初から読んでおりましたぞ。非最適こそ最適――」


「後付けだな」「後付けでござる」「後付けアル」


「ぐはっ」


 即座にタニシが沈む。


 そんな雰囲気で、控室は一面――笑いに包まれる。


 大会はまだ“娯楽”の顔をしていた。


 そのとき。


 空間が、ぱらぱらと裂ける。


 トランプのような光片が舞い落ちる。


「はぁ〜い皆さまぁ〜!」


挿絵(By みてみん)


 ロキが両腕を広げて現れた。


「倫理をぶち抜いた男! NO NAMEことマスターァ〜! 会場は大盛り上がりよォ〜!」


 おネェ口調でマイクを振り回す。


「合理? 情? どっちも美味しいわよねぇ〜? あたし、大好物ぅ!」


 観客席から歓声が波のように押し寄せる。


 ロキはくるりと一回転し、マスターへ視線を向ける。


「でもぉ〜……」


 その声が、ほんの一瞬だけ落ちる。


 低い。


「最終予選は、()()()()わよ。」


 すぐに甲高い声へ戻る。


「覚悟はよろしくてぇ〜?」


 拍手。歓声。照明の閃光。


 誰も、その一瞬の低音を意識しない。


 その後ろで、重い足音が響いた。


 ヘラクレスだ。


挿絵(By みてみん)


 ネメアの獅子を模した外套が揺れる。

 筋肉に走る神権紋様が淡く青く発光する。


「弱い選択だ。」


 低く、静かな声。


「だが――同時に強い。」


 そして。


 ゆっくりと外套を肩から外し、

 圧倒的な筋肉を露わにする。


 大胸筋が張り、上腕が膨れ、腹筋が光を反射する。


 観客席がどよめく。


「やはり、筋肉は裏切らん。また大会が終わったら特訓だぞ!!――フン!」


 そういうとヘラクレスはなぜか、ゆっくりとポージング。


 片腕を上げ、二頭筋を強調。

 背を向け、広背筋を開く。

 最後に、真正面で両腕を掲げる。


 まるで神話の彫像だ。


 ムーニャンが即座に対抗。


「筋肉勝負アルか!? 負けないネ!!」 しなやかな筋肉はあるものの女性特有の豊満なラインを強調されても、ヘラクレスのような美しさは感じない。


「お前――そもそも細いだろ」

「この機会に、細マッチョ目指すある!」


 再び笑いが広がる。


 ――その瞬間。


 音が消えた。


 ほんの刹那。


 歓声が、無音になる。


 次の瞬間、戻る。


 誰も気づかない。


 イツキだけが止まる。


観測度:142%

倫理層ログ:保留

RUSTノード:再評価中


 表示は消える。


「何かあったか?」

「いいえ。問題ありません」とルステラが答えた。

 声音は一定だ。


 コハクが飲み物を差し出す。


「勇者のオススメ“ベホマスライム”でござる!まずはご主人様、喉をいやされよ。」


 マスターが一口飲む。


 ――無味。


 すぐに甘さが戻る。


 眉がわずかに寄る。


「……今、味がなかった」


「緊張アル!」


 ムーニャンが即断。


 笑い声が上書きする。


 だがマスターの胸に、小さな棘が残る。


 そこへちょうど、売り子のNPCが通りがかった。


「本大会は()()()()のために――」


 止まる。一拍。


「本大会、とても盛り上がっております!」


 マスターは顔を上げる。


「今、何て言った?」


「え? 盛り上がってるって言ってるッス!」ナツが答える。


 気のせいか。


 いや。


 ()()()は、消えない。


挿絵(By みてみん)


 白い演算空間。


対象:NO NAME

非最適判断傾向:強化

予測不能値:上昇


副次対象:RUST

例外性:増幅

世界安定指数干渉:検出


 一行、追加。


削減候補抽出プロセス:開始


 まだ、()()


 確定ではない。


 ロキが舞台中央へ躍り出る。


「さぁさぁさぁ〜!」


 おネェ口調が響く。


「最終予選! 本選への切符を掴むのは誰かしらぁ〜?」


 観客席が揺れる。


 ロキはマスターを見つめる。


 そして、また一瞬だけ低音。


「生き残れると、いいわね。」


 照明が一段階、強くなる。


 舞台が動き出す。


 マスターは立ち上がる。


 その瞬間。


 上空に、赤い表示が一瞬だけ浮かぶ。


RUST

削減優先度:仮登録


 歓声がそれをかき消す。


 誰も見ていない。


 だが、評価は進んでいる。


 最終予選が始まる。


(第24話へ続く)

今回は――

ロキの本格的な煽りアナウンス、

ヘラクレスの堂々たる筋肉顕現、

そして裏で進む白い演算層のログ更新、という三層構造回でした。


コメディ担当のムーニャン、タニシ、コハクが場を和ませていますが、

物語の重心は確実に「選別」と「監視」へと傾き始めています。


ロキは観測者であり、演出者であり、煽動者。

ヘラクレスは努力の神でありながら、冷静な演算存在。

対照的な二柱が、同じ舞台に立つ意味は――まだ明かしません。


■今回の主な登場人物


マスター(NO NAME)

低位代表者として振る舞う男。状況を観察し続ける。


ロキ

おかま口調のMC。だが低音に落ちる瞬間、神の声になる。


ヘラクレス

努力至上主義の神権AI。筋肉は正義。だが演算は冷酷。


ムーニャン(無念)

鋼鉄等級。勢い担当。


タニシ

拙者系弟分。忠誠と裏切りの狭間。


コハク

場の緩衝材。だが時に鋭い。


主人公現在ステータス(一般表示)


名前:NO NAME

等級:黒曜

役割:支援/観察寄り

HP:安定

MP:安定


危険度:中

観測度:上昇傾向


所持金:変動中


装備


・簡易演算補助タグ

・ギルド支給軽装

・携行ナイフ(装飾扱い)


所持アイテム


・ポーション小×2

・簡易ログメモ

・未解析クエスト断片


次回、最終予選開始。

観測は、さらに強くなる。

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