表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/61

第18話 犬猫コンビと地獄連携テスト ――面倒を見るだけで済むなら楽だった――

第18話。休暇のはずが、地獄の連携テストです。

第18話 おっさん、犬と猫二匹の面倒を押し付けられる

―休暇のはずが、一般クエストで地獄連携テストする件―


 嵐のあとには、妙に静かな時間が来る。

 それは荒野も、酒場るすとも同じだった。


 壁の外――不毛の大地は、相変わらず灰色の地肌をさらしている。砂と石と、朽ちた鉄骨の残骸。遠くの崩れた高架橋の影が、夕暮れのたびに長く伸びる。

 なのに今日は、その“いつもの荒涼”が、やけに優しく見えた。


 ヘラクレスの地獄特訓が終わり、大会予選参加者はノルマクエスト免除。

 つまり――束の間の休暇。


 ……のはずだった。


「……静かすぎない?」


 ナツが中庭で伸びをしながら空を見上げる。

 青い。穏やかだ。何も起きていない。

 それが逆に落ち着かない。


 ルステラのHUDが淡く浮かぶ。


PRIMARY:大会予選参加者

STATUS:ノルマ免除

SECONDARY:監視強度 上昇


「監視強度って何だよ」


 マスターは眉をひそめた。

 休みになったのに、視線が増える。……意味が分からない。


「ケンショウ中デス。問題はアリマセン」


「問題がないときほど、問題は近いんだよなぁ……」


 口に出すと、なおさら嫌な予感が濃くなる。


 酒場の中は普段より賑やかだ。

 ノルマに追われる連中が一息つけるから、昼間からジョッキが動く。

 ガロがいつもの席で腕を組み、「こういう静けさは信用するな」と言い。

 ミーナは給仕の合間に「今日は空気が軽いですね」と笑い、でも笑い方がどこか硬い。

 ノエルはノエルで、休みなのに装備の手入れを始めてしまい、結局それが落ち着くらしい。


 そして――問題の二匹。


 ムーニャンは氷の術式を床に描き、コハクは爆発術の印を空中に書いて、互いの顔を見た瞬間に喧嘩が始まった。


「ワシの氷が先アル! 爆発は後アル!」


「爆発が主役でござるワン! 先にドカンでござる!」


「お前ら、“連携”って言葉知ってる?」


 マスターの問いに、二匹は同時に胸を張った。


「しってるアル!」


「もちろんでござるワン!」


「じゃあやれ!」


 二匹は同時に――別々の方向を指差した。


「こっちアル!」


「そっちでござる!」


「もういい!」


 マスターは両手で顔を覆った。


■ 整列ォ!!


()()()()()


 ヘラクレスの声が中庭に響く。

 体育教師かお前は。いや、体育教師だったらまだ優しい。こいつは“筋肉神(マジで脳筋)”だ。


「はいっ!」


 ナツが即座に直立。

 今日のナツは完全に先輩役だ。ヘラクレス先生の助手。声も張る。


「はいっ!」

 ノエルも背筋を伸ばす。

 動きがいちいち真面目で、見ていて逆に心配になる。


「はいアル!」

 ムーニャンが尻尾をぴんと立てる。

 猫なのに犬みたいだ。


「はいでござるワン!」

 コハクも胸を張る。

 犬なのに忍者みたいだ。――しかしメロンがでっかい。


 四人が整列し、俺だけが“保護者の疲れ”みたいな顔で立っている。

 ヘラクレスが満足げにうなずく。


「よし。今日は連携訓練だ!」


「やっと本題か……」


 マスターが小さく呟いた、その三秒後。


「あたしが先に凍らせるアル!」


「爆発は主役でござるワン!」


()()()()()って言ってんだろ!」


 マスターの声が二人の声にかき消される。


 氷が展開。

 爆発が早撃ち。

 氷が砕ける。

 爆風がベンチを吹き飛ばしかける。


 ナツが前に出て、ベンチを片手で止めた。


「はいストップ! 止まれー!」


 ノエルが慌てて「す、すみません!」と頭を下げる。謝る相手、違うけど。


「ああ()()……()()アル……」


 ムーニャンが地面に膝をつく。

 失敗するたび、それを言う。


()()()()()()()()()で安心めされよ!」


 コハクはコハクで、毎回それを言う。


「泥船はダメだろ!!沈むわ!!」


 マスターは頭を抱えた。


 ヘラクレスは腕を組んでうなずく。


「うむ。人格鍛錬不足」


「そこをどうにかするのがアンタの仕事だろ!」


 ヘラクレスはにっこり笑った。


「人格も筋肉も、鍛えれば育つ!」


「育たないものもある!」


 ルステラが淡々と追い討ちする。


「結論:属性の相性は良好。人格相性は最悪デス」


「ほらな!」


 ナツが手を叩いた。


「はいっ! 問題児二名、ここ集合! “はいっ!”って返事する!」


「はいアル!」


「はいでござるワン!」


「よし。まず“同時”ね。合図は先輩が出す。……いくよ」


 ナツが手を上げ、下げた。


「今!」


 ムーニャンが氷の線を引く。

 コハクが爆発の“点”を作る。


 ――成功しそうに見えた。


 だがムーニャンが「ワシが上手いアル!」と口を開いた瞬間、コハクが「主役は拙者!」と被せ、タイミングがズレた。


 氷が半端に割れる。

 爆風が横へ逃げる。

 ノエルの髪がふわっと逆立った。


「……ああ無念」


「泥船に――」


「言うな!」


 マスターが叫んだ。


挿絵(By みてみん)


■ 一般クエストという選択


 ギルド受付前。

 紙の依頼書が板に並ぶ。

 これが“静けさ”の正体だった。


 ノルマが止まると、板が“人間の匂い”を取り戻す。

 洗濯の手伝い。薪割り。薬草採取。道具修理。

 生活の穴を埋める依頼が、ぽつぽつ貼られている。


 イツキが淡々と説明する。制服を着崩し、派手なネイルで紙をトントン叩きながら。


「これは“強制”じゃない。ZEUSの割当でもない。誰かが投げた依頼。いわば“人間の都合”」


「普段はノルマで手一杯だから、受けるのは慈善家か、よほど報酬がいいやつだけ。……ま、休暇の今なら、取れる人も増えるっしょ」


 ミツキが小さく言う。


「でも……たまに重い依頼もあります」


 一枚の紙。

 ()()()()


 文字だけで喉が渇く。


 マスターは視線を逸らした。

 今は違う。今は、二匹を“戦える形”にする。


「洞窟内バグ個体掃討+冷却石採取」


 これだ。


「実戦方式で仕上げる」


 マスターが言う。


 ルステラが即座に補足する。


「氷×爆発の相性検証ニ最適。洞窟内は狭所=タイミング調整が必須。失敗時の学習効率が高いデス」


「言い方が怖いんだよ」


 ヘラクレスが満足げにうなずく。


「よし、行くぞ!」


 ナツが「はいっ!」と返し、ノエルも「はいっ!」と続く。

 ムーニャンとコハクも一応「はいアル!」「はいでござるワン!」と叫ぶが、視線は互いに牽制し合っている。


 ……はぁ。今日も先が思いやられる。


■ はじまりの洞窟


 荒野の端。

 黒く口を開ける洞窟。

 入口付近だけ、空気が冷たい。湿った岩が光を吸い込む。


 即席パーティは並ぶ。

 マスター、ムーニャン、コハク、ナツ、ノエル、ヘラクレス。


「……タニシは?」


 いない。


 マスターが首をひねる。あいつなら“安全そうな素材採取”と聞いた瞬間に飛びつくはずだ。


「位置情報取得不能」


 ルステラが淡々と告げる。


「意図的遮断の可能性 高」


「絶対ロクなことしてないだろあいつ」


 ナツが腕を組む。


「まあ、あいつがいない方が平和じゃない?」


「……平和の定義、見直したい」


 ヘラクレスが洞窟を指さした。


「まずは基礎! 前進!」


挿絵(By みてみん)


■ バグ毒泡スライム


 洞窟内は湿っている。

 足元に紫色の泡が弾ける。

 ぷつ、ぷつ、と嫌な音。


「毒泡スライムだ!」


 ナツが前に出る。

 泡が弾けるたび、視界が一瞬ズレる。

 距離感が狂う。足の置き場が遅れる。


「判定遅延毒アル!」


 ムーニャンが氷を展開。泡ごと凍らせる。

 だが凍らせすぎると、床が滑る。


「滑るから控えろ!」


 マスターが叫ぶ。


「わかってるアル!」


 と言いながら、ムーニャンは盛大に凍らせた。

 コハクが滑って尻もちをつく。


「泥船に乗ったつもりで――」


「今言うな!」


 マスターが引き起こす。


「今でござる!」


 コハクが立ち上がり、爆発を一点に絞る。

 凍結した群れが一気に砕ける。

 泡が飛び散らない。毒も広がらない。


 静寂。


「ああ無念……」


「泥船に乗ったつもりで――」


「今のは成功だろ!」


 マスターが叫ぶ。


 二匹が顔を見合わせる。


「……ワシのおかげアル」


「拙者でござる」


 また喧嘩。


 ナツが「はいストップ!」と割り込む。


「成功したら素直に“やった”って言う! はいっ!」


「はいアル……」


「はいでござる……」


 ノエルが小さく拍手した。


「すごいです……! 今の、きれいでした!」


 その言葉に、二匹は一瞬だけ照れた顔をする。

 ……一瞬だけ。


■ バグこうもり


 奥へ進むと、天井から黒い影が降る。

 翼の音が、遅れて耳に届く。

 ノイズ混じりの鳴き声。


「当たり判定ズレてる!」


 ノエルが盾を構える。

 目の前を飛んだはずの影が、次の瞬間には背後にいる。

 視界が追いつかない。


 ナツが跳躍。

 一撃で落とす――ように見えて、空振り。


「うわっ、ずらされてる!」


 ヘラクレスが笑う。


「いいぞ! 反応速度を上げろ!」


「それ今言う!?」


 マスターが叫ぶ。


 コハクが爆発をチャージする。


「待て! 面でやるな!」


 マスターが叫ぶ。


 ムーニャンが即座に氷のレールを敷く。

 こうもりの動線を“誘導”するように、壁際に滑り道を作る。


「一直線アル!」


 コハクが深呼吸する。


「……点でござる」


 小さな爆発。

 こうもりの群れが、レールの終点でまとめて弾け飛ぶ。

 岩肌に当たって落ちる。ノイズが止む。


 連携。

 今度は完璧だった。


 一瞬の沈黙。


 ヘラクレスがうなずく。


「成長」


 マスターは小さく笑う。


「やれば、できるじゃねぇか」


 だが。


「ああ無念……」


「泥船に――」


「それはもういいって!(いいって、いいって)――」

 マスターのツッコミが洞窟に反響した。


■ バグなめくじ


 最後の曲がり角。

 床がぬめる。

 粘液が“ログ”みたいに光って残っている。


「うげ……バグなめくじ……」


 ナツが顔をしかめた。


 踏むと滑る。滑ると転ぶ。転ぶと笑われる。

 最悪の三段活用だ。


 ムーニャンが氷を出そうとする。


「待て。ここで凍らせたら“スケートリンク”だぞ」


「……ああ無念」


 ムーニャンが先に言ってしまった。


 コハクは胸を張る。


「泥船に乗ったつもりで安心めされよ!」


「泥船は沈むんだって!」


 マスターが叫び、ナツが笑いをこらえる。


 ノエルが粘液に砂を撒き、足場を作る。

 地味だが確実。

 それでも、なめくじは増える。


「ムーニャン、凍らせるなら()()()()()()()()!」


「わかったアル!」


 ムーニャンが壁面にだけ氷の杭を打つ。

 通路を狭めて、なめくじを寄せる。


「コハク、爆発は一回。まとめて!」


「承知でござる!」


 ――ドン。


 小さく、鋭い爆発。

 粘液が飛び散らない。

 なめくじだけが粉々になる。


「……今の、連携アル」


「……拙者、主役でござる」


「はいはい。お前ら二人とも主役でいい。次からもそれでやれ」


 マスターはため息を吐きながら、冷却石を拾った。

 青白い鉱石が、氷みたいに冷たい。


 ルステラが淡々と記録する。


「学習ログ:連携成功率 上昇。喧嘩率 維持」


「そこ一番下げろよ!――まあいっか。」


■ 帰還


 酒場に戻ると、空気が妙だった。


 イツキが静かに立っている。

 ミツキが青ざめている。


「タニシ確保しました」


 寝室エリア。


 ギルド職員らに取り押さえられているタニシ。

 しかも――手に、女性用の下着。

 言い逃れの余地がない。


「拙者は芸術鑑賞を――」


 ムーニャンが凍らせ。

 コハクが軽爆破。


「連携、ここで使うな!!」


 マスターの叫びが響いた。


 ナツが肩を震わせる。


「……()()()()()じゃん」


 ノエルは真っ赤になって目を逸らす。


 タニシは氷の中で涙目になりながら、きっちり最後に言った。


「……すいませんアニキ」


「許さねぇ!」


挿絵(By みてみん)


■ 夕暮れ


 そのとき。


 空が白に染まった。


 音はない。

 風もない。

 ただ、世界が“整う”。


 ルステラのHUDが二重化する。


PRIMARY:状態報告

SECONDARY:警戒

CONFLICT……


「前回交戦個体、再接近」


 マスターは動かない。


「……来たか」


 白翼。

 エンジェル部隊が整列。


「区域認証完了」

「例外ノード確認」

挿絵(By みてみん)

 橙色の光。

 少女が浮かぶ。


「……まだ生きてんの?」


 アマテラス。


()()()


 マスターは睨み返す。

「そっちこそ、機嫌悪そうだな」


「別に?」


 青白い影。


「対象:例外個体」


 ツクヨミ。


「……消えていない」


 その瞬間。


 雷鳴。

 だが空ではない。


 酒場の屋根の上。

 スサノオが笑っている。


「おっそ」

 マスターを見る。

「壊れなかったな、お前――」


「そっちは、まだ遊び足りない顔だ」そうおれが問いかけると

 スサノオが立ち上がる。


「やっと()()()()()()()な」


 雷が走る。


「人間って、おもしろ!」


 ナツが動こうとする。

 ――一歩前へ。


「下がれ」


 ヘラクレスが止める。

 声が低い。筋肉の熱が消えている。


「ここからは()()。お前たちでは危険だ」


 アマテラスが吐き捨てる。

「大会前。まだ壊さない。」


 ツクヨミが静かに言う。

「観測優先」


 エンジェル代表が宣言する。

()()()()()()()


 ビーコンが一瞬ブラックアウト。

 だが完全には落ちない。


 イツキが小さく笑う。


「……やっぱ切れないか」


 ルステラが赤く光る。


「観測優先度 最大」


 マスターは空を見上げる。


「休暇、終わりだな」


 スサノオが笑う。

「次は本気で来いよ――おっさん。」


 遠景。

 白翼の列。

 三つの神光。


 ()()()()が、来る。


〈連携評価:更新〉 / 〈損耗率:上昇〉

後書き


■今回の主な登場人物


・マスター

 酒場側の主人公。おっさん保護者ポジ確定。神権AI三柱と再対峙。


・ムーニャン(鋼鉄)

 氷属性。失敗するたび「ああ無念」。連携は本物。


・コハク(白磁)

 爆発術使い。「泥船に乗ったつもりで」が口癖。暴発率高。


・ナツ(黒曜)

 体育会系前衛。先輩ポジション確立。


・ノエル(白磁)

 真面目枠。防御担当。


・ヘラクレス(神権AI)

 努力至上主義の神。今回は監督。


・アマテラス/ツクヨミ/スサノオ

 神権AI三柱。大会前の“監査”として到着。


■マスター現在ステータス(公開情報のみ)


等級:黒曜

レベル:非公開

危険度:上昇傾向

観測度:高


所持装備:

・冒険者外套

・簡易短剣

・支援端末ルステラ


大会は、もう娯楽ではない。


次話、監査開始。


ここからが本番です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

影森ゆらは今日も死ぬ
女子高生×オカルト×ちょっと変な日常。
そんな空気が好きでしたら、たぶん刺さる作品です。
お気に召しましたら、ブックマークなどで応援いただけると励みになります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ