表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/61

第10話 見えちゃいけない視界がつながった夜 ――おっさん、SDKじゃないから――

※本話には

・説明されない消失

・「見てはいけないもの」を見てしまう描写

・子供/父性に関わる示唆

が含まれます。


直接的な残酷描写はありませんが、

読後に静かな違和感が残る構成になっています。

苦手な方はご注意ください。

挿絵(By みてみん)

 村は、静かすぎた。

 壊れているわけじゃない。

 崩れているわけでもない。

 家は、ちゃんと建っている。

 道も、整っている。

 ――なのに。

 人の気配だけが、()()()()ている。


 足音が、やけに大きく響いた。


「……なあ、ここ」

 ナツが、声を潜める。

「ダンジョンっていうより、

 普通に人が暮らしてた村ッスよね……」


「そうだな」

 答えながら、周囲を見回す。


 倒れた桶。

 干しっぱなしの洗濯物。

 火の入っていないかまど

 昨日まで、生活があった痕跡。


 HUDの危険度表示は、相変わらず低い。

 数字だけ見れば、安全。

 ――でも、感覚が拒否している。


挿絵(By みてみん)

「サイズ、ちょっと変アルな」

 ムーニャンが、足元の草履を拾い上げる。


「コドモ用じゃない。

 でも、大人には小さいアル」


「……女性用か」

「たぶんアル」


 ムーニャンは、洗濯物の干し方を見て、首を傾げた。


「おなか、

 おおきかったかもアル」


「……え?」

 ナツが、思わず声を漏らす。


「そんなので分かるアル」

 ムーニャンは、さらっと言う。


「布の位置と、

 重さのかかり方。

 なんとなくアル」


 ――なんとなく、がやけに重い。


 別の家。

 戸棚の奥に、包まれた布。

 開くと、

 妊婦用の腹巻きが残っていた。


「……これ」

 ナツが、言葉を失う。


「赤ちゃん用、

 じゃないッスよね……?」


「その手前アルな」

 ムーニャンの声は、淡々としていた。


挿絵(By みてみん)


 その場に、嫌な沈黙が落ちる。



 考えるな。

 今は、考えるな。


 そう思った、そのときだった。


挿絵(By みてみん)

 視界の端が、()()た。


 自分のものじゃない。

 他人の視界が、重なる。


(……来た)


 この感覚、覚えがある。


(これ、

 前にやったことある……

 古いPS2の……)


 言語化する前に、確信した。


 見えてしまう。

 自分が見ていない角度。

 背後。

 路地の奥。


 ――()()()()()()。**


「マスター」

 ムーニャンが、小さく言う。


「これ、

 よくないアル」


「分かってる」


 分かっている。

 だが、切り方が分からない。


 そのとき。


挿絵(By みてみん)

 路地の奥から、人影が現れた。


 中年の男。

 汚れた服。

 疲れ切った目。


 ――生きている。


「……冒険者(ダイバー)、か」

 男は、こちらを見て息を吐いた。


「助けに来た、

 って顔じゃないな」


 誰も、すぐには答えられなかった。


 男は、苦笑する。


「いや……いい」

 一歩、近づきかけて、止まる。


「……来るな」


 その声が、震えた。


「見るな」


 男は、自分の目を指す。


「見たやつから……

 連れていかれる」


 ナツが、思わず口を開く。


「じゃあ、どうすれば――」


 男の視線が、

 まっすぐ、こちらを射抜いた。


 俺と、目が合う。


 その瞬間、

 表情が変わった。


 怯えでも、諦めでもない。

 ――父親の顔だ。


「……見、」

 言いかけて、喉が詰まる。


「……()()()


 その瞬間。


 視界が、さらに重なった。


「……っ!」


 切ろうとする。

 意識を、引き剥がそうとする。


 ――()()。**


 男は、視線を外し、

 誰に向けるでもなく呟いた。


「……顔も、見れなくて……」

 声が、掠れる。


「……すまない……」


 妻の名も、

 子どもの名も、呼ばない。

 まだ、生まれていないからだ。


挿絵(By みてみん)


 次の瞬間。


 男の足元から、

 影が、抜け落ちた。


 音は、ない。

 叫びも、ない。


 存在だけが、

 途中で切り取られたみたいに――

 消えた。


 視界が、戻る。

 重なっていた他人の視界が、

 遅れて、ほどける。


 ……間に合わなかった。


 胸の奥に、

 重たいものが落ちる。


 その直後だった。


挿絵(By みてみん)


 床が、嫌な音を立てた。

 足場が、崩れる。


「ムーニャン!」


 考える前に、体が動いていた。


 落ちかけた小さな身体に、

 腕を伸ばす。


 指が、毛皮を掴む。


 ――()()()。**


 次の瞬間、

 床が完全に崩れた。


 体重が、引きずられる。

 誰かが、背中を掴む。


 引き戻される。


 床に叩きつけられて、

 ようやく息が戻った。


 ……おかしい。


 腕が、震えていない。


(俺、

 こんなに()()()()()()()

(……前は、

 腕が笑ってたはずだ)


 答えは、出ない。

 分からないから、

 考えるのをやめた。


 今は――

 ムーニャンが、()()()()()

 それでいい。


「……いきてるアル」

 ムーニャンが、尻尾を動かす。

 にっと笑った。


「マスター、いつも

 たすけるほう、えらぶアルな」


「……たまたまだ」


「ちがうアル」

 ムーニャンは、真面目な声で続ける。


「だから」

 一拍。


「こんご、

 マスターの()()()()()()()アル」


「……は?」


「ジョーダンアル」

 即答。


 だが、目は冗談じゃない。


挿絵(By みてみん)

 少し離れた場所で、

 タニシが、その光景を見ていた。


(……おかしい)

 計算が、ずれる。


(あの距離で、

 あの体勢で、

 あの角度で、

 助かるはずがない)


 頭の奥で、

 ノイズが走る。


(……更新、された?)


 すぐに否定する。


(違う。

 違う違う)


 認めたら、

 自分の立場が壊れる。


 そのとき。


 背後に、気配。


「……っ!」


 振り返ろうとして、

 男の言葉が脳裏をよぎる。


 ――()()()。**


 一瞬の躊躇。


 何かが、触れた。

 声が、出ない。


(……やばい)


 初めて、

 純粋な恐怖が走る。


挿絵(By みてみん)

 重い金属音。

 空気が、張り替えられた。


対象、発見(タイショウ、ハッケン)

 低い声。


 次の瞬間、

 タニシの身体が、後方に引き戻された。


 地面に叩きつけられ、

 咳き込む。


 視界の端に、

 見慣れない人物。


 実用一点張りの装備。

 迷いのない動き。


救出完了(リコールコンプリート)


 その人物は、振り返らずに言う。


「……あんたら、

 ここにいる理由は?」


 ――誰も答えないのを見て、その人物はつづけた。


「アタシは、生存者救出専門――

 リコーラー.....タマモ――」


 一拍。


「次は、

 ()()()()()()()()()()()()


 視界が、暗転した。 


 つづく。

今回は

「見てはいけないものを見る構造」と

「助ける/見捨てるという選択」を、

説明せずに描く回でした。


村は壊れていません。

生活も、途中で止まっているだけです。

それでも人は、消えます。


理由を知る前に、

世界は結果だけを突きつけてきます。


そしてマスターは、

また一つ「選んでしまった」。


それが何を意味するかは、

まだ、誰にも分かりません。


主人公マスター現在のステータス


※一般冒険者視点/観測制限あり


名前:NO NAME(通称:マスター)

等級:白磁はくじ

職業:酒場手伝い/冒険者(非戦闘寄り)


HP:低

MP:不明(安定)


STR(筋力):低(※一時的な異常値あり)

DEX(敏捷):低

INT(知性):普通

VIT(耐久):低


SAN値(正気度):78/100


理由:

 説明不能な消失の目撃

 他者視界との一時的接続

 父親の最期の直接観測


カルマ値:+1


内訳:

 ・ムーニャン救出(+)

 ・生存者を救えなかった事実(変動なし/保留)


危険度:上昇中(非表示)

観測度:上昇中(非表示)


所持品:

・冒険者タグ

・簡易装備一式

酒場るすと関係物資

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

影森ゆらは今日も死ぬ
女子高生×オカルト×ちょっと変な日常。
そんな空気が好きでしたら、たぶん刺さる作品です。
お気に召しましたら、ブックマークなどで応援いただけると励みになります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ