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第9話 初ダイブは、試すだけのはずだった ――軽い気持ちで踏み込んだ先が重すぎる――

第9話。初ダイブです。

“簡単な調査”ほど、危ない。

挿絵(By みてみん)


 レイとの過酷な修行から戻った翌日。

 《るすと》の扉を開けた瞬間――まず飛んできたのは、怒号だった。


「コラァーー!! 何シテルねタニシ!!」


 ムーニャンの怒声。

 次の瞬間、乾いた音が鳴る。


 狙われていたのは俺じゃない。

 入口でいきなり、


「拙者、獣人のお尻尾は神聖なる文化遺産でござ――」


 とか言いながら、ムーニャンの尻尾に顔を近づけていた男。


 タニシ(田螺)。

 ゲス。湿気。ジメジメ。気持ち悪すぎて救いようなし。


「死ネェェ!!」


 ムーニャンの拳が飛ぶ。

 重心低め、無駄のない動き。完全に慣れている。

挿絵(By みてみん)


「ひ、ひぃ!? 違うね! 拙者、リスペクトあるね! 中国式リスペクト!!」


「ウソツケ!! ソレ痴漢アル!!」


 ドンッ。


 今度はカウンターの向こうから、帳簿が飛んできた。

 受付嬢イツキのフルスイングだ。

挿絵(By みてみん)

「はい記録。

『開店三秒、尻尾に顔面特攻』。

反省点:人として終わってる」


「ひどいでござるぅぅ!!」


 さらに追撃。


 ギルド奥の扉がバン!と開いて、ナツが元気よく入ってきた。


「先輩! ただいま戻――って、あ、またやってるッスね!」


 ナツは迷いなくタニシの後頭部をはたく。


「一回で学ばないの、逆に才能ッスよ!」


「学習アルゴリズム壊れてるねコイツ!」


「ムーニャン、追撃やめて! 脳ミソ完全破壊されるでござる!」


 俺は深く息を吸って、吐いた。


「……おはよう。今日も平和だな」


 全員が一瞬だけ俺を見る。

 そして、イツキがいつもの軽い口調で言った。


「平和じゃないよ。むしろ今日、最悪」


「え?」


 イツキが顎で示した先。

 クエストボードの前に、妙な人だかりができていた。


 木の板。

 紙の依頼書が貼られている、いつもの掲示板。


 ――なのに。


 誰も触っていないのに。

 紙が、増えている。


 重なるように、端から端まで埋まり、さらに貼られていく。


 ざわつく空気。


「……新人、戻ってこないらしいぞ」


「白磁だろ? EASYの調査って聞いたけど」


「黒曜も二人、行ったまま音沙汰なし」


 “戻ってこない”。


 その言葉の温度が、今日はやけに低かった。


 ミツキが不安そうに言う。


「……帰還報告、昨日から一件もありません」


 イツキは笑ってない。


「しかもおかしい。

難易度表示ずっとEASY。

依頼内容も『村の調査』。

なのに、人数だけ減ってく」


 その時、奥の席から椅子の音。


 ギルマスが、静かに立ち上がった。


「マスター。来てくれ」


挿絵(By みてみん)

「クエストボードの仕様が変わった」


 ギルマスは、板を見ずに言う。


「剥がしても貼られる。

減らない。増える。

……今までより、明らかに早い」


「原因は?」


「不明だ。だが……意思(いし)を感じる」


「出た、便利ワード」


 イツキが肩をすくめる。


 タニシが元気よく手を挙げた。


「はいはい! 拙者、行くでござる!

EASYなら余裕! 罪滅ぼしにもなるね!」


「黙れ」


 ムーニャン即答。


「でも、行くなら人数必要ッスよね」


 ナツが言う。


先輩マスターも一緒なら安心ッス!」


 ギルマスが頷いた。


「マスター、今回行ってほしい」


「……俺が?」


「理由は二つ。

一つ、お前は戻れる可能性が高い」


 褒め言葉じゃない。


「二つ。タニシを連れていけ」


「なんででござる!?」


「罪滅ぼし+黒曜昇級の査定。

要するに、罰ゲーム」


「人生ハードモードでござるぅ!」


 同行メンバーが決まる。


 新人二人。

 ムーニャン。

 ナツ。

 俺。

 タニシ。


 その時、ふと気づいた。


「……レイは?」


 答えの前に、外が騒がしくなる。

 キャラバン調査隊が、動き出していた。


挿絵(By みてみん)


 俺は外に出る。

 レイは荷車の脇で装備を整えていた。


「行くのか」


「ああ――次の目的地を目指す。」


 レイは地図を差し出す。


「ほら、世界地図。踏破すると、少しずつ判明する」


「……なんで今」


「今じゃない。

でも、いつか必要になる」


 それだけ言って、キャラバンは動き出した。


「生きて戻れ、マスター」


 砂塵の向こうに、レイは消えた。


挿絵(By みてみん)


「行くぞ」


 地下の扉が開く。

 冷たい空気。


 そこにあったのは、棺みたいな装置。


「……これ、遠隔じゃないッスよね?」


 ナツの声。


「違う。本体で潜る」


 ギルマスは淡々と言った。


「失敗は、死だ」


 空気が凍る。


「ゲーム……だよね?」


 タニシが震え声で言う。


「ゲームだよ」


 イツキが答える。


「だから、怖い」


 装置に横になる。

 固定。

 視界が沈む。


 最後に聞こえた声。


「生きて帰るアル、マスター!」


「先輩! 絶対戻るッス!」


「黒曜……黒曜……!」


 ――《DIVE START》。


挿絵(By みてみん)


 降りた瞬間、匂いがした。

 土と、古い木と、人の暮らし。


 曇天。

 色褪せた家屋。


 HUD正常。

 敵性反応なし。

 危険度、低。


 静かすぎる。


ルステラ:

「……ケンショウ中。

 コノ・フィールド、

 ジブンノ・ログト・一致シマセン」


 何か不気味なルステラの反応。


「普通ッスね……」


「普通が一番怪しいアル」


 ムーニャンが低く言う。


 足音が増えた。


 一拍、多い。


 HUDに文字が滲む。


音圧反応:上昇

方向推定:不明



「新人、そっち――」


『……なんか、後ろに――』


 ぷつり。


通信状態:未接続

生体反応:測定不能



 足跡が、途中で途切れていた。


「……なあ」


 タニシが声を潜める。


「敵、いないんだよな?」


 誰も答えない。


 静かな集落で、

 見えない何かが、数を一つ減らした。


【OBSERVE】

対象:Individual-C

状態:応答なし

処理:継続観測



 ――暗転。

後書き


いよいよ「ダイブ」が始まりました。

これまでの遠隔操作とは違い、戻れない可能性が現実として存在する遊びです。


今回のクエストは、

・難易度表示:EASY

・内容:生活空間の調査

という、どこから見ても“新人向け”のものでした。


それでも人が消える。

しかも、戦闘ログも、敵情報も、はっきりした失敗判定も残らない。


見えない敵。

減っていく人数。

そして、説明してくれないシステム。


次回は、外の世界――

ギルド側がこの異常をどう受け止めるのか、という話になります。


「帰ってこない」という事実を、

誰が、どう処理するのか。


主人公マスター現在のステータス


※ギルド表示用/一般冒険者向けHUD準拠

※一部情報は非公開・未確定


名前:NO NAME

通称:マスター

冒険者等級:白磁(はくじ(はくじ)

所属:ギルド酒場るすと


基本ステータス


力:低


守り:低


速さ:普通


賢さ:普通


運:不安定


スキル


???

(※詳細はギルド未把握)


加護


未確認

(※表示なし)


状態


ダイブ後疲労:軽度


精神負荷:やや高


異常判定:なし(※暫定)


観測情報(参考)


クエスト達成状況:未確定


帰還人数:一部未確認


継続観測対象:該当


所持アイテム


冒険者タグ(通信・近距離)


世界地図(未踏破/詳細不明)


個人メモ・筆記具


装備


防具:なし


武器:なし


服装:私服相当(ギルド基準)


補足(世界観メモ)


※本文未記載・読者向けヒント


ダイブ中の情報は、すべてが即座に「結果」として返ってくるとは限らない


「死亡」「失敗」「ロスト」は、必ずしも同義ではない

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読んでいただきありがとうございます。
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

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影森ゆらは今日も死ぬ
女子高生×オカルト×ちょっと変な日常。
そんな空気が好きでしたら、たぶん刺さる作品です。
お気に召しましたら、ブックマークなどで応援いただけると励みになります。
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