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第8話 修行③ 師匠の秘密が見えた日 ――最後の修行は、最後にしたい重さだった――

修行編の締めになります。

少しだけマスターが「見えるようになります。」今回はその集大成です。それでは、本編をどうぞ。

第8話 最後の修行

――本気出したら、師匠の秘密が見えちゃった件


挿絵(By みてみん)


 荒野の風が、低くうなっていた。

 陽は傾き、赤く染まった砂と岩の影が、長く地面を引きずっている。


 俺とレイは、数歩の距離を挟んで向かい合っていた。


「――これで最後だ」


 レイが言う。

 声は淡々としているが、剣を握る手に、迷いは一切ない。


「次で終わりにする。来いッ!」


 逃げ場はない。

 ごまかしも、手加減も。


 ――本当に、最後だ。


 俺は、ゆっくりと息を吸った。


 そのときだ。


「兄貴ぃぃぃ!! いっけええええ!!」


 背後から、やたらと()い声が飛んできた。


 振り向かなくても分かる。


 タニシだ。


「ここで決めないと一生白磁でござるぞぉぉ!!

 男なら! 漢なら! 行くしかないでござるぅ!!」


「うるせえ!!」


 思わず怒鳴り返した瞬間――

 視界の隅に、淡い光がにじんだ。


〈通信接続:RUSTERRA〉


『マスター』


 いつもの、カタカナ混じりに聞こえるあの声。


『シンコクな状況デス。

 デモ――』


 一瞬、間が空く。


『……ガンバッテ』


 短い。

 励ましとしては、不器用すぎる。


 だが、不思議と――

 胸の奥が、静かになった。


 ――来た。


 頭の奥で、()()が走る。

 視界が、()()()で塗り替えられていく。


〈HUD:観測補助 起動〉

〈HUD:戦闘補助 待機〉

〈HUD:倫理補助 警告〉


 《オーバードライブ Lv.1》


 ()()()()


 前回とは違う。

 暴走じゃない。

 ()()()、踏み込んだ。


 世界が、()くなる。


 風が粒子に分解され、

 砂の跳ねる角度が、()()できる。


 レイの重心が――

 〇・三秒後に前へ移る。


「……ほう」


 レイの声に、わずかな驚きが混じった。


 次の瞬間――

 俺は、地面を蹴った。


 速度は足りない。

 力も、剣技も。


 ()()()()()()


 だから、()()からは行かない。


〈HUD:最適行動 提示〉

〈回避ではなく、被弾を選択〉


 レイの剣が、俺の肩を斜めにかすめた。

 ――これは、わざとだ。


 痛覚が、()()に変換される。


 同時に、()()()()が跳ね上がる。


〈HUD:反撃ウィンドウ 開放〉


「兄貴今でござるぅぅぅ!!」


 ――分かってる。


 体勢は最悪。

 足は流れ、剣もない。


 それでも、()()だけは()えていた。


 拳を突き出す。


 狙いは――

 胸部中央。


挿絵(By みてみん)


 次の瞬間、

 鈍い破裂音が荒野に響いた。


 レイの身体が、半歩、後ろへ流れる。


 拳が当たった場所――

 男性用ボディアーマーの胸部装甲が、内側から砕けていた。


 装甲片が、砂の上に散る。


「……っ」


 レイが息を詰める。


 その破損した隙間から見えたのは――

 というよりも、殴ったので触ってしまった――とても柔らかい感触であった。


挿絵(By みてみん)


 空気が、止まる。


 同時に、レイの顔が――

 揺らいだ。


 まるで光が剥がれるように、

 無骨な男性の顔立ちが崩れ、

 ()()が抜けた瞬間、


 男性的な顔から一変した、違う顔が現れる。


 短く整えられた髪。

 鋭いが、どこか柔らかい目元。


 ――光学迷彩。


 胸部装甲の破損で、

 緊張制御が解けた、というわけか。


「……はぁ」


 レイは短く息を吐いた。


「やられたな」


 その声は、

 もう隠す気のない、はっきりとした女性の声だった。


〈HUD:オーバードライブ 終了〉

〈副作用:頭痛/震え〉


 俺は、その場に膝をつく。


「す、すげえでござる兄貴……

 って、え? レイの兄貴が…!?!?」


 背後で、タニシの声が裏返る。


 レイ――は、砕けた装甲を一瞥いちべつし、

 剣を納めた。


「……一発、入れた」


「……はい」


「完全じゃない。倒れもしない」


 夕焼けを背に、レイが言う。


「でも、()()()

 それでいい」


 胸の奥に、重いものが落ちる。


「修行は、()()()()だ」


 それは、終わりの宣言だった。


「勝ったわけじゃない。

 強くなったわけでもない」


 これまで、何度も聞いた言葉。


 だが――


()()()()()()()()


 それだけが、確かな成果だった。


 レイは、こちらを見る。


「……さっきのこと」


「はい」


()()()()


 視線が鋭くなる。


「私の顔や体が別物だってことも、

 今の挙動も、

 オーバードライブの中身も」


 そして、少しだけ声を落とす。


()()()()()のは、

 お前だけでいい」

「タニシ――――いいか。絶対に忘れろ。誰かにこのことがバレたら…

わかってるな?」


「も、もちろんでゴザルゥゥ!!墓場までこの秘密は守るでござるよ!!」

「フン――まあいい。バラしたらすぐにわかるからな」


 タニシが相当レイが怖いのか、ガクガクと震えながらおびえている。

 そんな中、荒野の風が、二人の間を吹き抜けた。


「――これで終わりだ」


 修行は、そうして終わった。さあ、ギルドに帰ろう。

後書き


第8話、お読みいただきありがとうございました。


■ 修行編について


この話で、レイによる修行は一旦終了です。

ただしこれは「卒業」でも「合格」でもありません。


作中でレイが言っている通り、


勝ったわけじゃない

強くなったわけでもない

ただ、死ににくくなった


これが、この世界における“成長”の最低ラインです。


■ オーバードライブ Lv.1 について


今回、オーバードライブは初めて完全に意図して起動しています。


・観測

・戦闘

・倫理


三つの補助が同時に動くことで、

一瞬だけ「正解の()()」が見える状態になります。


ただし代償も大きく、

連続使用や長時間の維持は不可能です。

(このあたりは、今後さらに掘り下げていきます)


■ レイについて

マスターは“手触り”で気づいてしまいました。

ただし、答えはまだ言いません。

この世界では、見え方ひとつが生死に直結します。

すべて、

「この世界で生き延びるための()()」です。


なお、この事実を知っているのは

現時点ではマスターのみという扱いになります。(タニシもですが、レイの中では数に入っていないようです)


■ タニシとルステラについて


緊張感の強い回が続いたため、

タニシの応援と、ルステラの短い通信を挟みました。


どちらも「軽さ」のためではなく、

マスターが完全な孤立状態ではないことを示す役割です。


この先、

その“支え”がどう変化していくのかも

一つの見どころになります。


■ 次回予告


次回からは舞台が再びギルドへ戻り、


・修行後の違和感

・白磁等級から黒曜等級への昇級条件

・新キャラクター(リコーラー)の登場


と、物語が「次の段階」へ進みます。


主人公・現在のステータス(第8話終了時点)


名前:NO NAME(通称:マスター)

等級:白磁はくじ

レベル:低位固定


【スキル】


《オーバードライブ Lv.1》

 観測/戦闘/倫理の三系統同時最大稼働

 ※1日1回が限界

 ※使用後に強い反動あり


【危険度】

上昇中(管理側からの影響リスクあり)

※管理側のみ閲覧可


【観測度】


高(例外挙動として記録済み)

※管理側のみ閲覧可


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読んでいただきありがとうございます。
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

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