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第6話 初絡み

「ねえ、ペア組も!」


「おーい、一緒にやろーぜー」




 今は体育の授業で、バドミントンをやっている。


 ペア、または三人組となって打つことに慣れるためのラリーをするということになった。当然というべきか、僕はあぶれてしまった。


 悠生のところはすでに桜井や藤浪がおり、他のクラスメイトらも続々と組んで練習を始めている。頼みの綱である先生も、僕と同じくあぶれたらしい女子生徒に声をかけていた。こういう時ほど影の薄さが発揮される。


 今回が初めてではなかったので、全員が練習に取り組む頃には黙々とシャトルを壁に向かって打っていた。




「お前ひとり?」




 心を無にしてラケットを振っていると、声がかけられた。


 ぎこちなく顔を向けた先にいたのは、陽キャイケメン・真島。


 ホワイトがかったブロンドを結い、体操着である青ジャージの袖を捲るスタイルが爽やかだ。普段のチャラい感じから良いギャップとなってか、女子の視線を集めていた。




 桜井の次は今まで関わりがなかった陽キャから話しかけられるなんて。


 本当に今日はどうなっているんだ。




「な……何でしょう、か」


「ぷっ、なんで敬語? まあいいや。 えーと……名前なんだっけ」




 ナチュラルに名前を知らなかったことを告げる真島。


 そりゃそうだ、自分と同じ部類としか関わっていないような人間が、日陰で過ごす奴なんかの名前を覚えているわけがない。




「かっ、川辺です。 川辺麻人……」


「あー! そうだ川辺だ! ごめんな、いつも一式といるから顔は覚えてたんだけど。 あ、俺の名前はわかる?」


「真島くん……ですよね」


「そうそう、真島章吾(ましましょうご)! あのさ、ひとりなら俺とペア組まね?」


「えっ。 で、でもさっき別の人と……」


「あいつは他の奴と組むって。 だからちょうどいいかと思ってさ」




 この陽キャ、めちゃくちゃフレンドリーに接してくる……!




 圧倒的「陽」の気を浴びて消し飛びそうになるも、なんとか耐える。


 桜井に親しく接されている悠生に微妙な顔をしていたけど、心根はそこまで悪い奴ではないのかもしれない。


 いち側面だけ見て判断するのはよくないな、コミュ力ゼロに等しいくせに。




「えっと、じゃあお願いします……」


「ん。 じゃあやるか」




 こうして僕は真島と練習を始めた。


 真島は運動ができ、スポーツなら基本なんでもこなしている。なのに運動部のどこにも所属していないらしい。


 今も僕がシャトルを返しやすいように打ってくれる。運動が得意なわけでもない僕にとってはありがたかった。




 緩やかなラリーをそこそこ長く続けていると、真島が訊ねてきた。




「あのさー、川辺って桜井に気があんの?」


「……⁈」




 まさかの質問にラケットを振る姿勢のまま固まる。


 シャトルが僕の足元にぽとりと落ちた。




「なっ、そっ、そそんなことは全くっ」




 首を横に小刻みに振りながら否定する。


 桜井に対して可愛らしいとか綺麗だとかの感想は抱いたことはあれど、異性としての感情は一切ない。




「全力で否定するじゃん。 まあマジっぽいから信じるけど––––じゃあ一式は?」




 人の良さそうな雰囲気が一変、真島の瞳が細められる。


 僕とペアを組んだのって、この質問をするために?




「え……っと、悠生は桜井さんのこと、そういう風に見てるわけではない……と思います」


「マジで意識とかしてないわけ? あの桜井だぞ」


「そういうのは、全く。 たぶん、いい友達とは思ってるかと……」


「へえ……。 そっか」




 真島は視線を別のところへやりながら、ラケットで左手を軽くパシパシと叩いている。考えていることが読めない。


 何度目かの時に動きを止めた真島が顔を上げ、ぱっと笑った。




「急に聞いてごめんな。 あ、お前から一式に言っといてくんない? 優しくされてるだけの陰キャが思い上がるなよ、って」




 俺、桜井のこと狙ってるからさ。




 声の調子は全然変わっていないのに、どこか冷たい。


 人の笑顔がこんなにも怖いと感じたことはこれまでなかった。




 ––––だけど。




「……言えない、です。 悠生は普通に、仲良くしてるだけだから……そこまで言う必要は、ないと思う」




 ラケットの持ち手を強く握りながら、精一杯言葉を返す。


 誰と仲良くしようと、それは悠生の自由だ。


 こういう時に目を見て喋れない自分が恥ずかしいが、これが限界だった。




「……あっそ」




 がらりと変わった声色にびくりと肩が跳ねる。


 真島の上履きが視界に入り込み、落ちたままのシャトルの前で止まった。


 心臓がドクン、と音を立てる。




「真島ー、何絡んでるー」




 ちょっと気だるそうな、のんびりとした声がかかる。


 顔を少し上げてそちらを見れば、ツインテールの小柄な女子がいた。


 ラケットを右肩に背負うようにして持つ彼女は、僕たちから少し離れた位置で練習をしていた織田だった。




「えー、何もしてないって。 ちょっと話してただけ。 だよな、川辺」




 瞬時にいつもの親しみやすい笑顔を作る真島が僕を見る。


 話していただけというのは本当なので、頷いた。




「ふーん……。 あ、そだ真島。 うちとペア交換しない? あの子さっきからずーっと真島のこと見てんの」


「おおお織田さんっ⁈」




 織田がペアを組んでいる女子を指してそんな提案をした。


 あたふたとした様子のあの子はたしか、佐藤さんだ。


 真島は佐藤さんをちらっと見て「いいよ」と返事をする。




「じゃな、川辺。 佐藤さん、よろしくな」


「はっ、はいっ……!」


「わべっち、よろしく〜」


「あっ、は、はい」




 織田と入れ替わった真島は、佐藤さんとラリーをし始めた。


 急にペアを変えることになったが、あのまま続けられそうになかったのでほっとする。


 そういえばお礼、言っていなかったな。


 別の意図があったとしても、ひとりでいた僕に声をかけてくれたのに。




「ごめんね、わべっち」




 急に織田が少し声量を落として謝ってきた。




「美礼以のことで真島になんか言われたでしょ? あいつ美礼以と付き合いたい願望強すぎて、何かと必死なんだよ。 温厚な美礼以がちょっと引くぐらい」


「は、はあ……」


「最近イッシーと美礼以よく話すし、今日はわべっちも話してたじゃん。 今朝なんかあの二人、まー甘い雰囲気出してたっしょ? だから焦って、気が立ってるんだよ」




 これは……僕に気にする必要はないと言っているのだろうか。




「あの、あ……ありがとうございます」


「ん、どういたしまして」




 織田は僕の足元にあるシャトルを拾い上げて言った。




「じゃ、うちらもやろっか」


「はいっ。 ……あ、あの」


「どした?」




 僕はずっと気になっていたことを口にした。




「その、織田さんが僕のこと呼ぶ時の、あれって……」


「あー呼び方? やだった?」


「いいいえっ、ちがっ……。 ちょっとあの、そこまで話したことないのになんでなのかな、と」




 僕と織田が話したのはついこの前、悠生と藤浪の四人で帰った時が初めてだ。話したと言っても、僕はほとんどだんまりだったけれど。


 悠生とは少し前から話すようになっていたから、親しみのこもった呼び方になるのもわかるのだが……。




「んー……。 ナイショー」




 ふふんと笑って、織田は僕から離れて向こう側に立つ。


 なんだか意味ありげな笑みに僕の中でますます謎は深まるのだった。 



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