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4-05 世界を救った、その後で。 ―アラサー勇者リクは魔王より結婚が難しいらしい―

「世界は救えた。だが――結婚は、無理だった」


魔王を討ち、世界を救った勇者リク。

だが平和になった王国で彼を待っていたのは、剣も魔法も通じない最大の難敵――結婚だった。

王立結婚相談所で始まった婚活は、元仲間の天才魔法使いティナ、距離感がおかしい受付嬢ココノアを巻き込み、「お見合い馬車ツアー」へと発展する。


「魔王より強い敵が、ここにいたなんてな……」


しかしその婚活は、ただの恋探しでは終わらない。

勇者に想いを寄せる王女、正体を隠して参加する“元・魔王”。

さらには、旅の途中で助けただけの少女たちまで、なぜか名乗りを上げ始める。

好意と因縁、そして世界の後始末が交錯する中、リクは“誰を選ぶか”という、かつてない選択を迫られる。


これは、世界最強の勇者が恋に敗北しかける、勘違いだらけの婚活ラブコメファンタジー。


 この世界における勇者。

 それは一か月前、伝説の聖剣を携えて魔王を討ち滅ぼした英雄。

 絶望を払う最後の光、王国に朝をもたらした、人々の希望そのもの。


 子どもの憧れ、吟遊詩人の酒の肴、大人には税金よりありがたい存在。

 ……らしい。世間の評価では。


 だが、今の俺にはそんな肩書はどうでもいい。


 俺は勇者ではなく一人の男として、ついにこの建物にやってきた。


 見上げる先には重厚な石造りの門構え。

 頭上にはやたらキラキラした金文字でこう書かれている。


【真実の愛 王立結婚相談所】


 よし、行くぞ!

 俺は大きく息を吐いて扉を開く。


 ギィィィ……。


「結婚相談所へようこそっ!」


 花が咲くような美少女が俺を出迎えてくれた。

 白いリボンで結んだ栗色の髪がふわりとなびき、いい匂いが漂う。

 もはや“そういう魔性のモンスター”じゃないのかと思うくらい可愛い。

 彼女は、琥珀色の大きな瞳に俺を映して、ビシッと固まった。


「――えっ、ゆ、勇者様!? 本物……?」

「俺のこと、知ってるのか?」

「この王国、いえ、この世界で勇者様を知らない人なんていませんよ! 夢みたい……! あ、あの……“勇者様”が、こんなところで何を……?」

「実は、結婚相手を探しに来たんだ」

「えーーーーーーー!?!?!? 勇者様が結婚相談!?!?」

「声がでかい!!」


 彼女の口を手でふさごうとして……。


 あっ……近い。

 めちゃくちゃ近い。


 彼女の頬は真っ赤。

 そりゃそうだ、俺はもう二十八、アラサーだ。対して彼女は十代の後半くらいだろ。こんな年上野郎(勇者)に顔近づけられたら驚くに決まってる。


「ご、ごめん!」


 慌てて離れると、まわりの視線が突き刺さる。

 ……変態だと思われてなきゃいいけど!


***


「大変失礼しました。あらためまして、担当のココノア・リュミエルです。それでは受付を進めていきますね」


 個室に案内された俺は、出迎えてくれた彼女と一対一で向き合う。

 このメモ用紙が噂に聞く“お見合い用のプロフィールシート”ってやつかな。


「まず、お名前をフルネームでどうぞ」

「あ、えっと……高瀬たかせりく、いや……リク・タカセです」

「はい、リク様ですね。では……。次に職業は?」

「勇者」


 ココノアの手がぴたり、と止まった。

 

「勇者は称号ですよね? お仕事のお話です」

「冒険者、かな」


 ん? 受付嬢、ちょっと難しい顔。


「冒険者……定期的な収入があるわけでは……ないですよね?」

「まぁ……依頼をこなして魔物倒して、稼ぐ感じだな」

「なるほど、その日暮らしですね」

「その日暮らし?!?」

「“その日暮らし”で登録しておきますね」

「いや、そんな職業あるの!? 聞いたことないんだけど!」

「では――」


 ココノアはキレイな字で『無職』と書いた。


「無職!?」

「大丈夫です。後で訂正できますから」

「そんな理屈ある!?」

「あります。では次、年齢を」

「二十八です」

「二十八……なるほど、三十手前……アラサーですかぁ」

「やっぱり高すぎますかね?」

「いえいえ! ぜんぜんそんなことないです。お相手次第ですよ? 私は十歳差くらいの年の差でも、ぜ~んぜん大丈夫ですし」


 今なんか言った? 聞き間違いか??


「次に資産ですね。どれくらいありそうですか?」

「ええと……帝都に持ち家と、ギルドに……億、預けてるかな」

「わぁ……お金もちですね。でも、お金目当ての方が集まると困るので……こう書いておきますね」


 『ギャンブル好きで借金あり』


「いや借金もギャンブル癖もないから!!」

「いいから任せてください。冒険者なんて実質ギャンブルみたいな仕事ですし。それでも真実の愛を求める方ならちゃんと見抜いてくれますよ?」

「そういうものなのか?」

「ええ。私なら選びます」


 んんーー?


「最後に、好みの女性を教えてください。もしよければ『ココノア・リュミエル』と記載しておきましょうか?」

「いやいやいや、それどんな好み!?」

「冗談ですよ~。年下が好みっと……はい書きました」

「勝手に書くな!」

「そのほうが人が集まりますからね。任せてください!」


 んんんんーーーーん?


「では、今いる会員の中からお互いの条件に合った人を呼び出しますね」

「この条件で、マッチングする相手なんているのか?」

「いませんね、おそらく……。ちなみに私ならすぐにマッチングしますので、お声がけくださいね?」


 この子、ちょいちょいアピールしてない?

 いや……落ち着け俺。

 ココノアみたいな若くて可愛い子が、アラサーの俺みたいなやつに興味を持つわけ――。


 ココノアが操作すると、後ろに置かれていた大きな機械が、うぃーん、と低く唸りだした。

 プロフィール用紙が吸い込まれ、内部で魔力の光がはじける。

 金属音と魔法陣の発光が混じったような「ガチョン、ガチョン」という音。


 なるほど。

 この魔道具で「相性のいい相手」を検索するわけか。


 機械の下部に大きな画面が明滅し、表示が切り替わった。


 マッチング数:1


「ちっ……この条件でなんでマッチングするかなぁ~?」

「あのココノアさん、いま、ちって?」

「いいえ?」


 笑顔がまぶしい。


「ルールなので仕方ありません。相手とコンタクト取りますね」

「えっ、もう?」

「ちなみにお相手の方が合意された場合、この面談室に直接お呼び出しする仕組みになってますから」

「魔王戦より展開早くないかこれ!」


 部屋の奥の魔法陣が光りだす。

 ココノアは小さな魔道具を取り出し、耳元に当てながら、“相手”と話し始めた。


「はい、はい。……ちっ。残念ですが、相手が承諾したので召喚します」

「残念って言った!!」


 魔法陣がまばゆく輝き、人影が形作られ――。

 やがて光がすっと引き、淡い銀髪の少女の姿が現れた。

 きゅっと吊り上がった大きな蒼い瞳がこちらを睨んでる。


「へ? ティナ? なんでお前がここに?」

「ゆ、勇者!! それはこっちのセリフだから!!」


 腰に手を当て、頬をふくらませながら一歩つめ寄ってきたのは、我が勇者パーティの天才魔法使い、ティナだ。


「なんであんたが結婚相談所にいるわけ!?」

「結婚したいからに決まってるだろ!」

「はぁ!? じゃ、お姫様は!? あんたが魔王討伐の褒美で結婚するって聞いたから、私は――」

「ああ、あれは断った」


 ティナの表情が一瞬で固まった。

 沈黙のあと、一気に声が爆発した。


「なんでぇぇぇ!?!?!?」

「声大きいって!! 王女様と結婚したら、俺が王様になるらしいんだよ」

「ふ、ふーん? いいじゃない、男の夢ってやつじゃないの?」

「魔王を追って十年も戦い続けた戦闘バカが、政治なんてできるか? 国民がかわいそうだろ」

「……ふ、ふーん。すこしは考えてるじゃない。っていうか……じゃあ、私にもチャンスがあるんだ……!」

「というか、なんでお前とマッチングしたんだ?」

「そ、それは……もしかすると……運命……じゃない……かな?」 

「運命ねぇ……」


 俺みたいなアラサーと十七歳のティナがマッチングって……。

 どう考えてもティナがかわいそうだろ。

 そこへ受付嬢のココノアが、ぱっと手を挙げて口を挟んだ。


「お二人がマッチングした理由はですね。ティナ様の好みが 黒髪・高身長・自分より強い相手、だけだったからです」

「ちょっと!? なんで読み上げるのよ!!」

「なんだそれ?」

「べ、べつに! あんたみたいな相手を探してたわけじゃないから!!」


 ティナは頬をふくらませ、視線をそらしながらつんと顔をそむける。

 怒ってるというより、拗ねてるときの“あの顔”だ。


「わかってるよ。なにせお前のことは、子どもの頃から知ってるしな」

「ううう、にぶちん!! 五年も一緒にいたのに全然気づかないバカ!」

「え、いや……なにを気づくんだよ。ヒントすらねぇぞ……?」

「だいたい今の私はもう子供じゃないよ! 今年で十七歳なんだから!」

「すとーっぷ!!」


 受付嬢が両手を上げて割って入る。


「わたし思うんですけどー、部屋で話しててもお二人は永遠に平行線ですよね?」

「そんなこと――!」

「たしかにそうかもしれないな……」

「なので! 場所と気分を変えましょう! お見合い馬車ツアーに参加するのはいかがですか!」


 ――その瞬間、室内の空気がぴたりと止まった。


「馬車ツアーって……あれか? 名所を巡りながら、参加者同士でゆっくり話せる婚活イベントだろ?」

「その通りです! 職員わたしも参加、いえ、同行しますので安心ですよ!」

「いいじゃないか! 俺、一度参加してみたかったんだ!」

「むっ……! リクが行くなら……わ、わ、私だって行くに決まってるじゃない……っ!!」

「決まりですねっ! すぐ申し込みしちゃいましょう!」

「おう!」


 だけどココノアが申し込み用紙を魔道具に読み込ませた途端、俺の心がざわっとする。

 ――なんだろう、この感覚。

 まるで、魔王討伐に向かう前夜みたいだ。


 そのとき。

 ココノアの後ろにある魔道具が、ピコンッと鳴った。


「……あれ? 追加マッチング……? リク様と相性ぴったりの方が……さらに二人……? むううう?」


 ――このときは誰も気づいていなかった。

 ただの婚活イベントだと思っていた物が、第二の魔王戦の始まりだったなんて……。


 ***

 →Nextミッション!

 「勇者のドキドキお見合いバスツアー」

 ***

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