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4-02 次代の最強魔法使いは、自由過ぎる異世界マダムのおもり役?!

「どーも異世界に来ると、探偵の真似事もできるらしいで?」

「あら嬉しいわぁ。私らのおった世界ではそんな経験、フィクションの中だけやと思てましたさかい」


 大国の使節団の前でも相変わらずのマイペースさを崩さないセツコ様とミヨ様。

 異世界召喚したところ、やってきたのはこのちょっと言動に癖のあるアラフォー女子二人だった。


 どうやら仲良しの様子のお二人は、来て早々に剣を突きつけられながら陛下に気さくに挨拶し、召喚主である我が師の体調を慮って陛下の騎士に檄と飛ばすなどの奇行を連発。

 鑑定の結果、残念な能力しか持っていないとされた二人の世話係に任命された私だけど、世話するどころか我が師共々世話をされるような状態で?!


 異世界の尺度じゃ計れない。アグレッシブすぎる二人のフォローにてんてこ舞い!


「なんや毒とか、サスペンス劇場かいな」

「よう笑ぅてるはるなと思ったら、私たちを殺そうとしてはるなんて」


 異世界から召喚した、救世主――セツコ様とミヨ様。『聖女』でも『勇者』でもなかった二人が、大国の外交官に対峙していた。


 事の始まりは、突然やってきた使節団に歓迎の宴。そこで先方の国から持ってきたという献上品の酒を飲んだ我が国の重鎮貴族が、急に倒れた。

 勿論あちらが黙っている筈もなく、「我が国にあらぬ疑いをかけるなど、許される筈が!」と怒りをあらわにしたけれど、ここでセツコ様の口から、ビリビリと空気が震える程の怒号が繰り出された。


「あらぬ疑いじゃないわ、阿保ぉ!」


 いつもは何事もガハガハと景気よく笑い飛ばすセツコ様の変わり身に、きっとこの場の誰もが驚いただろう。


「むしろ、小国相手とはいえ一国の政治を担う重鎮に毒を盛っといて拘束すらされへん思うとったやなんて、こちらの事をバカにし過ぎとちがう?」


 ニコリと微笑んだミヨ様からも、今までにない圧が出ている。


「証拠は私らのスキルでがっつり押さえとる! あんたが毒盛ったフェイグレス卿はな、せっかくうちが背中を叩きまくって元気にしたったんや! それを寝込ますなんて何してくれとんねん!」

「あの方の出してくれる食材は、どれもえらい美味しかったしねぇ。いーひんようになってもろうちゃあ、困るんよ」


 ……少々我欲の混じった理由だけど、お二人が我が国の人のために、我が師のために怒ってくれている。

 それがとても嬉しくて、少しばかりジーンと来た。


 これで少しは私の、数々の苦労と心労も報われる。

 最初の出会いから自由人過ぎた二人に振り回され続けてきた私は、今日ほど報われたと思った事もない。


 ◆ ◆ ◆


「なんや眩しくなったと思ぉたら、なんやの? これ」

「私知っとるで! これ、異世界召喚っちゅうやつやろ!」


 およそ一月前。異世界から召喚した我が国の救世主たちの第一声は、コレだった。



 ――異世界召喚。それは禁忌の呪法にして、この国を救うための最大の一手。

 余程ひっ迫しなければ術を使う事のないものであり、この呪法を行った人間は魔力回路が焼き切れて、以降魔法は使えなくなる。


 そもそも魔法の使い手自体がかなりの熟練者でなくては発動さえできない上に、再起不能になる魔法だ。魔法が武力の一部として数えられるこの世界において、そして国も小さければ有能な人材の数にも勿論限りがあるこの小国・ベルンドラにおいて、正に身を切る思いで行った術だった。


 だから、もっと荘厳で神秘的な物を期待していたのだけど。


「っちゅうかうち、着物に割烹着のままなんやけど」

「あんたの方がまだマシやん。うちなんて、庭の草むしりの途中やったんやさかい。草の根をほじくるための錆びた草刈り鎌と一緒に来てもうたわぁ」


 言いながら、「困ったわぁ」と頬に手を当てる変わった服姿の女性と、あっはっはーと豪快に笑う錆びた何かを持った女性。お二人の姿は、私たちに馴染みのない姿でありながら、何故かそれがひどく庶民的であると分かるものだった。



 異世界召喚とは、異世界にいる救世主を、魔法でこの世界に引き寄せる魔法。そこにあちら側の同意はなく、故にこれを使うと相手にひどく恨まれる可能性がある……と、古文書には書いてあった。

 前回召喚を行った時には、召喚された人間はひどく取り乱し、大変だったという事だが。


「異世界召喚ってあれよなぁ? ようアニメやらでやってる」

「小説やら漫画やらでもぎょうさんあるで! なんかの理由で中世ヨーロッパ的な異世界に飛ばされて、そこで悪い奴をギッタバッタと倒したり、頭脳戦を繰り広げたりすんねん」

「よう知ってはるなぁ」

「うちの息子が好きでいつも見てんねん。下手したら寝る間も惜しんで見てるもんやから、よう尻蹴飛ばして宿題さしてる」


 今のところまったくその片鱗はない。


 思わず拍子抜けしたのだが、どうやらそれは私だけじゃなかったらしい。


「よ、よく来たな。お主たち」


 陛下が動揺しながらも、気を取り直して声をかけた。

 すると二人は揃ってそちらに目を向けて――。


「あらー、なんかえげつない装飾を付けてる人がいてるなぁ」

「それ言うならセツコも、あんまり人の事言えへん思うけど?」

「たしかに私も派手好きやけど、あそこまでちゃうわ。あんなビッカビカの宝石をジャラジャラつけるより、トラ柄の方がカッコええやん」

「好きやなぁ、セツコはトラ柄が」


 うちの国王は、見た目の威厳だけはそれなりにある。貴族は相対するとまず委縮するのが常なのだけど、二人は欠片もそんな様子を見せない。

 それどころか、セツコと呼ばれた人の方は、ツカツカと陛下の方にまっすぐ歩いていく。


 陛下の周りには当たり前だけど、複数人の近衛騎士がいた。彼らの仕事は陛下を外敵から守る事であり、今しがた召喚したばかりのどんな来歴の人間かも分からない召喚相手を警戒するのも役割の一つだ。

 勿論不躾に近づいてきた彼女に、剣を抜いて突きつけた、のだが。


「うちは世津子。三人の男兄弟のおかんで、平日昼はスーパーでパート。休日は、決まって遊びに出るで。じっとしとかれへん性分でな。あんたは?」


 刃を突きつけられても尚、彼女は気さくさを崩さない。


「わ、わしはこの国の国王で、トラジェンド・ベルンドラと言う」

「とら……なんかよう分かれへんから、トラちゃんでええな!」

「貴様! 陛下にどんな口の利き方を!!」

「よい!」


 その言動に近衛騎士の一人が激昂したが、陛下がそれを手で制した。そして申し訳なさそうに眉尻を下げる。


「すまぬな、拒否権もなく召喚をしてしまって。しかし我が国はもう滅亡寸前なのだ。世界的に起きている魔物被害に、飢餓。その原因となっている土地がギリギリ我が国土に入っているせいで、近隣国からは常に圧力をかけられておる。臣民の心も離れつつあるし、国の外にも中にも問題だらけだ。故に、救世主を呼び出さずにはおれんかった」

「ふぅん? それで?」

「助けてほしい。……勝手に呼び出しておいて、虫のいい話だとは思うが」

「えぇよ」

「へ……?」


 陛下の口から、気の抜けたような声が出た。声が出たのは陛下の口からだけだったが、この場にいる誰もが同じ気持ちだろう。


「セツコはまた、そうやってすぐに安請け合いして」

「いいやん。どうせやるんやろ?」

「まぁ困ってる人を放っとく程、うちもまだ人間やめてへん」


「ほんで? どうしたらええの?」

「と、とりあえずお二人のスキルと称号を確認させてほしい」

「称号?」

「人にはそれぞれ天命というものがある。それを魔法で判定するのだ」

「えぇよ。なぁミヨ」

「まぁ必要な事なんやろうしね」


 普通なら自分の内側を見せる行為を嫌がる人もいる中で、二人は即答で了承した。

 陛下がこちらに目を向ける。


「じゃあ頼む」

「は、はいっ!」


 私は呼ばれるままに、二人の前に立って深呼吸した。



 こういう事は、本来なら私の魔法の師であるフェイグレス卿が行うものだった。


 が、彼は二人を呼び出した代償に、もう二度と魔法が使えない。

 彼の跡は、私が継ぐ。だからこれは私の役目なのだ。


「『鑑定』!」


 師がこの国一の魔法使いではなくなってしまった事が、どんなに辛くて悲しくても、魔法は淀みなく発動する。

 今の私が師のためにできるのなんて、もう誇れる弟子である事くらいしか残されていないのだ。だからたとえこの国にはもう、これを使える者など他に一人もいないような高難易度の魔法でも、いや、だからこそ、失敗する訳にはいかな――。


「え……」

「どうした? 結果を申せ」

「はっ、はい! えぇと……」


「セツコ様の天命は『草狩り師』で、スキルは『どこでもPC画面』。ミヨ様の天命は『料理人』で、スキルは『サイコメトリー』です」

「まさか、召喚者だぞ?!」


 そう、召喚者。世界を救う事を期待された者たち。その天命が、『救世主』でも『聖女』でも『勇者』でもなく、何だかよく分からないけど平凡だという事だけは分かるものだなんて、私だって信じたくはない。


 それでも私の魔法と言葉を疑わないあたり、陛下はとてもお優しい方だ。代わりに気が抜けたように呆然としてしまわれたけど。


「草刈りやなんて、来た時まんまやないかい!」

「うちも、晩御飯作りの途中やったさかい、そのままよ」


 こちらのない芯などまるで分っていない二人が、楽しげにそんな軽口を叩き合――。


「ところでおっちゃん、大丈夫かいな?」

「あら本当や、なんか疲れてるみたいやけども」


 セツコ様が軽く駆け寄った先にいたのは、我が師だった。

 二人を召喚し魔法回路が焼き切れて、へたり込んだまま動けずにいる人だ。


「ちょっと疲れてしまってね」

「力が出んのやったらこんなところにへたり込んどらんで、ベッドに寝とかないかんやろ! ほら、あんたたち、早ぅこの人運んで!!」


 セツコ様が勝手に騎士たちに檄を飛ばす。


「元気になるには、食事もきちんとしたもん摂らなぁね」

「任せとき! 私らの手にかかったら一週間後には背筋シャンとさせてやるからな!」

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