灯る光
店を出て、夜風が未来の頬を冷ます。寿司屋の喧騒が遠ざかり、街のネオンが静かに瞬く。未来は哲也の背中を見送りながら、足を止める。
恋愛の進展は、結局なかった。
カニ味噌も、ビールも、未来が夢見た「特別な夜」を彩ったはずなのに、話は仕事の愚痴に終始した。哲也の「あざっす!」と軽い笑顔が、胸に刺さる。
28歳、主任としての責任、30歳を目前にした焦り――それらが、未来の心に重くのしかかる。
でも、未来は小さく微笑んだ。
哲也の無邪気な愚痴、仕事への熱意、彼の笑顔。それらは、未来の恋心を叶えはしなかったけれど、確かに彼女の心を温めた。
特別な関係にならなくても、好きな人とこうやって一緒に過ごせる時間は、幸せだ。明日も、明後日も、哲也と一緒に仕事ができる。それだけで、未来の毎日は少しだけ輝く。
哲也が仕事のことばかり話すのは、確かにちょっとどうかと思う。未来はクスッと笑い、夜空を見上げた。
でも、それが岡田哲也の魅力だ。彼の軽いノリ、真っ直ぐな愚痴、全部が彼そのもの。
未来は、今日の食事会が、明日への気力をくれたことに気づく。哲也と一緒に、もっと良いチームを作ろう。もっと良い仕事しよう。そんな思いが、胸に灯る。
未来は鞄を肩にかけ直し、ゆっくりと歩き出す。
夜風が、彼女の髪をそっと揺らす。『まぁ、距離は縮まったよね。明日も会えるんだし、明日の仕事も頑張ろう』と、自分に言い聞かせる。心の奥で、ほのかな甘さが広がる。
そして、小さく呟く。
「……でも、二年以内にはなんとかなりたいかな?」




