歪み
ふと思いついたところを形にしました。
暇だったらお付き合いください。
「俺、知っちゃったんだ」
「うん」
「このままじゃ、きっと、大人にはなれないって」
波の音と少年と少女の声。この空間には、それしか無かった。でも、彼らにとっては、それで充分過ぎた。
「先生や母さん達は、褒めてくれるんだ。大人しくて、成績優秀で、問題も起こさない」
「そうだね」
互いが悩みを言う時、どちらかは、頷くだけの機械になる。それが、彼らの暗黙のルールだった。
彼らの悩みは、解決出来るような物じゃないと、互いが分かっていた。
「嫌なんだ。褒められる事が。」
「そうだよね」
「アイツらと同じように、馬鹿やって怒られたい」
彼らの自由な行動は、この浜辺へ来る事。それだけだった。それでも良かった。
………
この歪な関係が始まったのは、単に偶然としか言いようがない。
一人が死のうとした時、もう一人も死のうとしていた。それだけだった。
互いが似たような悩みを持って、似たような行動をしている事を、彼らは運命だと思った。神様がくれた、最期のプレゼントだと思った。
「私達は、出会う機会に恵まれて、本当に幸せ者だと思うよ」
少女は繰り返し、呪いの様に呟いた。この関係が終わらないよう願って。
「本当に。出会えて良かった」
少年は笑った。人生で初めてかと思える程、本物の笑顔で笑った。
その二人の姿は、波と風だけが知っていた。