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曲は休むことなく続いていき、もう今が何曲目か、演奏している二人ですらもいちいち数えてはいなかった。まだ踊り続けているのは見習いと姪、娘二人とそれを追い続ける男、そして二人組みのうちの出っ歯だけだった。皆はじめのときに比べると動きが鈍くなっていて、演奏する二人も段々テンポのゆっくりとした曲へと移行していくので、誰もが音楽に合わせて体を揺らしているだけのように見えた。自らの踊りが終わった後いつもの定位置に戻った父親を娘は起こしに行き「お父さん、いい加減に帰るわよ、姉さん達に大目玉をくらっちゃうわ」と自分が残ると言ったことをもう忘れてしまったような言いぐさで老人の肩を揺すった。老人はすぐに目を覚まし「寝てはいない」と目をパチパチさせながら言い立ち上がると、娘が引こうとする手を払いながら入り口へ向かった。しかし、ハッと気付き振り返ると、材木屋がすぐ後ろにいて、あの年季の入った帽子を持ち「忘れ物だよ、じいさん」と老人の頭に被せた。そして、材木屋が「みんな、俺はじいさん達を送ってくよ。女将さん」と言うと、女将はピアノを弾くのを止めて立ち上がり入り口まで見送った。店内にはギターの音だけが流れ、娘二人も「私達も帰りましょうか」と話していて、ちょうど小太りの男や鼠飼いの男、二人組みもそろそろお開きにしようかと考えだしていたところだった。