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 成年がパン、パンと手を大きく叩き、皆が注目するとギターを激しく一回鳴らした。打ち合わせが終わりいよいよ演奏が始まるのである。女将と成年は互いを見合いながら成年の足が床を踏む合図で演奏を開始した。かなり速いテンポの軽快な曲からなので、小太りの男は、いきなりこれからかと自分の予想が外れたのに驚きながらも、慌ててグラスをカウンターに置き、もう踊り始めている娘二人を手本にリズムを取ろうと、両手を上下に、重心は左右に揺れ動かしながら、漁師にも「踊りましょう」と誘うが、漁師は苦笑いを浮かべて首を横に振り皆のダンスを眺めていた。初老の男女に挟まれていた男は一番激しくステップを踏んで床を鳴らすので、女将が「抜けちゃわないかしら」とチラッと後ろを振り返ると、手にはグラスを持ったままだったので「グラスを置きなさい」という女将の注意も耳に入ってはおらず、足がもつれて転びそうにもなるので、娘二人は笑っているが女将の声に反応した漁師が男の手からグラスを取り上げようとすると、男は漁師にもたれかかり二人はもつれ合って転んだが、漁師はかろうじてグラスは手に持ったままで中身が少しこぼれて自分の顔にかかっただけだった。女将は演奏を止めて立ち上がり男たちのところまで行くと、起き上がってきた漁師にまず声をかけ、顔が濡れているのに気付くとポケットからハンカチを取り出そうとしたが、エプロンはカウンターの中に置いてきていたので、姪を呼ぼうとすると、すでに姪は側まで来ていてタオルを女将に手渡した。受け取った女将は、この子も気が付くようになったもんだと思いながら、漁師の顔を拭こうとするが、漁師は、いい、いいと女将の手を払いのけるように服の袖で顔を拭った。「何を照れてんの」と女将の声に気圧され、結局は手をおろし、女将のされるがままになった。その間、倒れた男の方はうつ伏せになったままなかなか起き上がってこないので、材木屋と二人組みが男を囲み、材木屋が、「どっか打ったのか?」と手を伸ばし相手の腕を掴み起こそうとすると、男は材木屋の手を振り払い「ほっといてくれ」と言って、そのまま声をあげて泣き出してしまった。成年は女将が演奏を中断してからも音を下げてギターを弾き続けていたが、突然鳴り響いてきた大の男の泣き声に、指の動きは止まってしまった。周りの皆もこれには困惑し何と声をかけてやったらよいものかと男を見下ろしていると、漁師の顔を拭きながら、女将が「いいかげんにしなさい、死んじまったものはしょうがないだろ」と語気を強めて言うが、「またすぐに生まれるわよ、あんたがこの調子じゃ亡くなった鼠も浮かばれないよ」と最後の方は優しく語りかけるように言った。

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