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第16話 死神憑き【愚痴よりつまらない無価値な小説】

万人に訪れる死を最悪の形でまざまざと見せつけられ、青年はそれを頭から振り切るように逃げ出した。

冒険者であれば、あんな末路も充分にありうる。

いや、むしろ病老死苦に最も近い街ならば、どんな人物であってもあれに等しい最後を迎えるのではないか。

息を切らして背後を振り返るも盗賊の影はなく、青年はひとまず深呼吸し気を落ち着かせる。

霧が低く垂れ込めた薄ら寒い静寂に包まれる通りは、現代の夜とは似て非なる、死の臭いが充満している。

油断すれば人の魂も一瞬にして濃霧と化すのだ。

緊張の糸を張り詰めて辺りを警戒すると、青白い光が淡く輝いているのが目を惹く―――まるで漫画やアニメの人魂が浮遊しているかのような幻想的な幽火。

それが瘦せ衰え虚ろな瞳の老婆の背後に、ぴたりと張り付いていた。

顔に苦労を感じさせる幾重にも刻まれた皺。

枯れた木のように細く風が吹けば折れてしまいそうな腕を震わせながらも、ゆっくりと歩を進めている。

そして老婆に付き纏う、深淵より濃い黒のフードを目深に被った影を凝視していると―――骸骨の眼窩から朝焼けの太陽が如く、爛々と輝きを放った。

——まるで死そのものが具現化したような、禍々しい佇まい。

手には血塗れの鎌を、背にはシャベルと墓を背負い、老婆の歩幅に合わせるようにゆっくり後をついていく。

―――青の鬼火が現れる死神憑き〟は数日から1ヶ月以内に死亡する人物に現れる、ノックス特有の詛呪(そじゅ)である。

上記の〝死神憑き〟の呪いを受ける彼らは


〝どうせもって1ヶ月の命〟


と街の住民から思われ、生命の有効活用の名目で危険地帯での活動の強要をされる宿命にあった。

また魔物に〝死神憑き〟を捧げて腹を満たし、寿命が定かでない人間たちの犠牲を減らす生贄行為が常態化。

人の尊厳さえも損得で図られる、それがこの街の法だった。

老婆に迫る死の影を目敏く察したのだろう。

死者に蝿やハイエナがたかるように、柄の悪い暴漢が数名で彼女に歩み寄る。


「Hey, you old reaper-possessed hag. We're all getting old anyway. Give us, the future, something rich(おい、〝死神憑き〟のババア。どうせ老い先短いんだ。未来ある俺らによ、金目のモン恵んでくれよぉ)」

「No! No one is going to help a "reaper possession". Just go and feed them to the demons! That's a beneficial use of life. Then we can escape from the monster's clutches! Die, die, old hag! Die, die, die!(ヘッ! 〝死神憑き〟なんざ誰も助けやしねぇよ。さっさと魔物の餌にでもなれや! それが有益な命の使い方だろ。そうなりゃ俺たちは化物の魔の手から逃れられる! 死ね、死ねよ、ババア! 死ね、死ね、死ねッ!!!)」

「The world revolves around sacrifice. And people die in order from the oldest to the youngest. It's like being killed by nature. I have no problem with that!(犠牲の上に世の中、回ってんだよ。それに人間、年寄りから順番にくたばるのさ。無為自然に殺されるようなモンだ。文句ねぇだろ!)」


粗暴な声が静寂を破った。

Nobodyの視線の先で、数人の男たちが老婆を取り囲む。

どの顔も醜悪に歪み、嫌悪と侮蔑を隠そうともせず、みていて心地よいものではなかった。

差別の理屈は現代日本と何ら変わらない——根拠のない恐怖が弱者を排斥し、攻撃を正当化する。

たとえノックスという街で、死神に憑かれた老婆がどれほどの厄災であろうとも。

彼にとっての悪は、暴漢の方であった。


「……目障りだな」

「What the hell, Teme? You're defending the old lady? (なんだ、テメー。ババアを庇うのか?)」

「This old hag doesn't have long to live. So even if she dies now, it won't make much difference! (このババアは余命幾許もない。だったら今くたばっても、たいして変わりゃしねぇだろ!)」


怒声の意味を侮蔑と判断した青年は


「何を言っているかはわからないが……そのお婆さんを襲う理由にはならないだろう」


Nobodyは眉を顰め、唇を噛み締めた。

暴漢に理屈は通じないだろう、ならば戦うしかない。

戦闘態勢になった青年につられるように、暴漢もナイフを手にし間合いを詰めていく。

老婆に危害のないようにせねば……一瞬の沈黙が走ると同時に荒々しい火が視界を覆った。


「Drop your weapons and walk away. No two words(武器を捨てて立ち去れ。 二言はないぞ)」


凛とした声が響き、暴漢の表情が強張った。

路地の奥で暗闇を裂くように現れたのは、街で恐れられる女。

揺れる緋色の毛髪は闇に溶け、憤怒に燃え上がる眼差しで暴漢を見据える。

逆らえば獄炎に焼かれ、命が潰える。

武器すら持たず無抵抗な老婆という弱者を襲った暴漢も、さらなる力には屈服せざるを得ない。


「Oh, that woman is ......The Scarlet Woman? Hiccup, cursed woman! She's going to kill me, she's going to kill me. ......You guys, let's get out of here!(あ、あの女は……緋色の女?! ヒッ、呪われた女だ! 殺される、殺される……お前らァ、逃げるぞぉ!)」

「Scarlet Woman! That scarlet sword and armor is sucking all my blood! Hee hee hee!(緋色の女! あの緋色の剣と鎧に血を根こそぎ吸われるッ! ヒッ、ヒィ〜ッ!)」


蜘蛛の子を散らすように暴漢が去ると、2人は老婆へと向き直った。


「無事でよかった」


老婆は恐怖からか声を震わせ


「Really, thank you ......(ありがとう……本当に、ありがとう……)」


掠れそうな声量で感謝を告げる。


「Thank you for helping me, let me thank you ...... for your recklessness for such an old man. Will you follow me home?(助けてくれてありがとうよ、こんな年寄りのために無茶させたね……礼をさせておくれ。家までついてきてくれるかい?)」


2人は戸惑いながらも彼女が純粋な好意で親切にしてくれるのをそれとなく理解し、誘いに同意した。

血で血を洗う闘争と殺戮に満ち満ちた街で、老婆のような温和な町人が、どれほど心のオアシスになるか。


「...... follow me, the house is at the end of the alley(……ついてきなさい、家は路地の先にあるから)」


誰も寄りつかない路地へと老婆は先導していく。

老婆に連れられた2人と共に老婆に稲光のような蒼の閃光と死神を纏う闇が、死は常に側にいるとでもいうように寄り添い、揺蕩っていた。

拙作を後書きまで読んでいただき、ありがとうございます。

質の向上のため、以下の点についてご意見をいただけると幸いです。


好きなキャラクター(複数可)とその理由

好きだった展開やエピソード

好きなキャラ同士の関係性

好きな文章表現


また、誤字脱字の指摘や気に入らないキャラクター、展開についてのご意見もお聞かせください。

ただしネットの画面越しに人間がいることを自覚し、発言した自分自身の品位を下げない、節度ある言葉遣いを心掛けてください。作者にも感情がありますので、明らかに小馬鹿にしたような発言に関しては無視させていただきます。

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