第14話 弱肉強食
精神的に〝これを書き上げよう〟という気力も尽きかけ、有料の短編ファンタジーに注力したいので、ある程度仕上がった14話を完結させたら完結扱いにし、しばらくは筆を置く。
無反応な読者ばかりなのだから、本来はいちいち休載をすると宣言する必要性も、わざわざ俺が精神的に消耗してまで執筆してやる義理もないが、一応報告しておく。
蔦が絡まったまま日常を送るノックスの建造物の街並みは、遥か昔から似たように刻を過ごしてきた歴史を悠然と語った。
死者特有の青白い魂がゆらゆらと揺れ、青年は身構える。
敵対的で憎悪に満ちた魂であれば―――人間の生者や魔物に見境なく襲いかかるものだ。
大丈夫か……距離を詰めても決して視線を外さず、背後を見せることなく、Nは臨戦態勢を取った。
しかしながら特段こちらに害は及ぼさず、彼は拍子抜けした。
取り越し苦労ではあるが、まだまだ自分は弱いのだ。
気を持ち直し再び正面を向くと、今度は眼前に1、2、3……ゆうに10は超える光が現れたではないか?!
ごくり……唾を飲み込むと喉が鳴り、涙が頬を伝うように汗が垂れ落ちていく。
あれが全て魔物なのか、もし自分が襲われたら……緊張で嫌な不安が巡り、頭とは裏腹に上手く体が働かない。
街の中も妙に静まり返り、自らの吐く息だけが鼓膜に届く状況下で
「どちらにせよ霊と戦っても、互いに利益がないじゃないか……何とか戦いにならないよう通り抜けよう」
腰の鞭に手を掛けたが自身の冷静な独り言に救われ、彼は矛を収めた。
炎の魔法を操るエレインがいれば物理攻撃を通さない霊体と戦闘になろうと対応できるが、彼女がいないとどうにもならない。
コツコツコツコツ……闇に足音が響き、次第に不規則に揺れ動く灯火が―――亡者の行進が彼の近くまで寄ってきた。
周囲が光炎に照らされ、〝死が差し迫っているぞ〟と知らせるように早鐘を打つ鼓動を無視し、勇気を振り絞って歩を進める。
すると闇からフードを被った人の顔が、ぬうっと現れて彼は肝を冷やした。
「What, you're just an adventurer?(なんだ、ただの冒険者か?)」
「Damn, you scared the shit out of me(ケッ、ビックリさせやがってよ)」
「There might still be a monster nearby. Let's get the hell out of here(まだ近くに化け物がいるかもしれない、さっさとズラかるぞ)」
しかし、なんということはない。
商店の商品の護衛を承る冒険者一行と店主が、帰路についていただけである。
一瞥した彼らはNobodyに舌打ちし、横を通り過ぎていく。
言語は理解できないものの傲慢極まる態度から、青年は侮蔑の意図を察した。
駅で肩がぶつかった相手を睨めつけるかのような……鋭い眼差しが言葉以上に苛立ちを語っていたのだ。
「なんなんだよ、態度悪いな」
いらぬ気苦労だったのか。
2度の注意が無用で終わって、ほっと胸を撫で下ろす。
道を直進すれば無事宿へと辿り着く、その時であった―――心の安寧が乱されたのは。
先ほどまでは暗黒の中からも耳に届いた、微かな生活音がぱたりと途絶えたのである。
代わりに聞こえてくるのはクチャリ、クチャリ……分泌された唾液と何かを噛む咀嚼音。
「いったい何がどうなったっていうんだ?」
まだどんな異変が起きたのかさえ判断できぬ彼に、現状を報せるかのように―――幾度となく嗅いだ鉄臭さが鼻腔に充満し、粘膜を刺激する。
漂う死の臭いに青年は瞳を見開き、辺りを警戒しつつ道なりに進む。
恐怖心から脚が竦むと想像していた彼自身にも、信じられない行動である。
しかしそれ以上に人は恐怖に相対した際には、好奇心に駆られ、頭の嫌な想像を確かめたくなる生物なのだ。
(こちらからきた冒険者たちと鉢合わせた時、何かぼやいていた……それが関係してるのか?)
冷静に分析をするも、推測に過ぎない。
臭気漂う方角に足早に近寄ると青年は、暗夜に秘匿された人の本質、人の業を垣間見た。
―――横たわる人間を獅子の頭部の怪物は、有蹄類の胴体を窮屈そうに折り曲げ、貪欲に貪る。
怪物の蛇の尾は周囲を監視しているのか、或いは餌を得て満足しているのか。
定かではないが頻りに、細長の体をくねらせた。
そしてそれを眺め平然としている、軽量な革鎧で身を固めた小悪党。
威張り散らすボスらしき盗賊の男は眼帯で右目を隠し、血塗られたナイフを掲げ、嘲笑うように遺体を指差す。
てっきり街の魔物が彼らに襲いかかり応戦したが、返り討ちにあい、1人が帰らぬ人になったのかと考えた。
しかし魔物にも盗賊にも、傷は見受けられない。
それにボスが食われた仲間を侮蔑するだろうか?
そんなことをすれば、生き残ったメンバーの士気が下がる。
そもそも捕食された人物は、統一感のある服装の連中とは、まるで背格好が異なるが……
1つ1つの疑問点に解を見つけた瞬間、1本の線となる。
違う、これは……人間が同族を殺害し、魔物たちに贄を与えているのだ!
大方、自分たちが助かるために亡くなった人物を殺害したのだろう。
殺人の現場を目の当たりにした青年は、思わず足を止めた。
否、両の脚が震えて動かないのだ。
(……バ、バレたらこいつらに殺される! あの人みたいに)
額に玉の汗が浮かび、背中は水を浴びせられたかのようにびしょ濡れだ。
気が動転した彼が奇襲を仕掛けるでも、逃げるでもなく地獄絵図を静観していると、縦割れの蛇眼が此方を睨み据えるのであった。
拙作を後書きまで読んでいただき、ありがとうございます。
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