序章 常闇の夜の街ノックス
活動報告にも掲載しましたが、あらすじに載せるのは文字数が足りないのと、後から〝無償で投稿しないのか〟と読者の批判に晒されたくないので、序章の前書きを借りて今後の小説公開について抜粋します。
・無料公開部分は全年齢対象の場面を第1章か第2章まで。
今は明確にどこまで無料にするかは決めていません。
気紛れで無料公開範囲を広げるかもしれませんが、あくまで有料部分への誘導、宣伝目的での投稿になります。
・直接的な性描写のある場面は、1部分100円での有料販売。
・小説は12万文字600〜800円(1部分2万文字100円〜1部分1万5000文字100円)に設定予定。
マガジンごと購入の方には、よりお求めやすい価格で提供します。
なお文章量が増えるごとに値段は変動していくので、早期のマガジン購入が得です。
本来であれば12万文字ごとに1巻とし、マガジン分割が理想ですが、現時点でnoteで利益がでていないため、月500円のnote有料会員になるのはケチって控えています(note有料会員だとマガジンが21から1000に増え、細かく管理しやすい)。
・筆者のモチベーションは著しく低いので、不定期更新です。
・金銭にならなければ打ち切りにし、別の作品に注力するかもしれませんが、ご了承ください。
基本的な12万文字600〜800円の値段設定、マガジン購入の割引などはnoteに有料部分投稿中の「異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~」と同じです。
続きの読みたい方は創作活動の支援をお願いします。
プロローグ
「ヴォートゥミラ大陸にまた、迷える子羊が1人。どう向かう」
……頭の中に爽やかな声が聞こえた。
木の硬い感触に青年はまた寝落ちかと、呆れたように重い瞼をこする。
暗闇に呑まれハッキリしない意識が徐々に目覚めると―――目を瞑り光を拒んだ時よりも濃い陰影が一面に広がっていた。
「う、何がどうなってる……」
ここは何処だろうか。
確か電気をつけて受験勉強に取り組み、室内にいたはずだが……
ともかく現状を確認したい。
突っ伏してだらしなく伸びた腕に力を込め、立ち上がろうとした刹那―――ゆらゆら、ゆらゆら……波濤が力強く乗り物を叩きつけ、再び五体投地した。
風が吹くと潮の匂いが鼻腔にまで届き、荒ぶる波は容赦なく全身を濡らす。
何が何だかわからず寒さに震える自分は、傍からみれば雨が降りしきる日に捨てられ、路頭に迷う子犬のような姿だろう。
小舟に乗せられ海を漂う最中だと状況を把握し
「ゆ、夢なら覚めてくれ」
独り弱音を漏らす。
「おお、お気づきになられましたか、ヒヒヒ」
すると何処からともなく、返事が返ってきたではないか。
声の主を探そうと瞳を左右に動かし、妖しげに輝く幽火に目をやる。
肉体の拠り所をなくした魂魄の如く蠢く、それをじっと眺めると夜目が利きはじめた。
ぼんやりとした輪郭が、次第に鮮明に映し出され
「ウワァァッ!」
次の瞬間、青年は思わず素っ頓狂な悲鳴を上げた。
なんと目の前には黒のローブを羽織る骸骨が、自分を見下ろしていたのだ!
「し、死神か……! 俺は亡くなったのか?!」
「……ヒヒヒ、滅相もない。私めはしがない渡し守でございますよ。しかし〝迷い人〟は、どの方々もいい反応をなさる」
嘲るかのように体を揺らすと、カタカタ、カタカタ……
骨の軋む音が、寄せては返す波音と共に鼓膜に響いた。
渡し守と名乗る怪物は船を漕ぎつつ
「もうすぐつきますよ、とこしえの幽冥に……ヒヒヒ!」
「まさか地獄に?! い、嫌だ、嫌だ!」
悲鳴にも似た青年の叫びを無視し、小舟に入った魚を投げ捨てる。
とクジラが飛び跳ねる行動、ブリーチをしたかのような大きな水飛沫が上がる。
何事かと見遣ると成人した人間の胴ほどはあろう巨大な触手が、ピチピチと抵抗するそれを捕らえ、底なしの奈落へと引きずり込んだ。
一瞬の内に海の藻屑と化す無情の原理に、呆気にとられていると
「ヒヒヒ、泳いで逃げ出せば、あの魚のように……」
心を見透かすような一言に、心臓がビクンと鼓動した。
絶対絶命だが、もう逃げ場などない、どうすれば……困惑した青年に
「ヒヒヒッ! なぁに、取って食ったりはしませんよ……貴方には貴方の役割があるように、私めには私めの使命があるのですよ……」
「それはいったい?」
聞きたいことがありすぎて整理がつかず、曖昧な問いをしてしまう。
話をしていると小舟に乗せるのは親切心ではなさそうだが、敵意も不思議と感じられなかった。
「もうそろそろ到着しますよ。どう生きるか、息絶えるか、そして何を残すか。これからは貴方様が決めるといい。また私めと遭うことのないよう、ご武運を祈っておきましょうか……ヒヒ!」
こうして何もかもわからぬまま青年は小舟から降ろされ、終わらぬ夜の街へと足を踏み入れた。
それから数週間後の〝夜の街〟の訓練場にて
ヴォートゥミラ大陸最西端に位置する、宇宙から日の光が差さぬ、絶海の孤島にある常闇の街ノックス。
混沌を司る神メタモルフォシスが誕生したと囁かれる地は、人々が生を受けてから逃れられぬ病老死苦に満ちた場所だ。
1日中コウモリが空を飛び交い地上は糞に塗れ、行き場のない青白い魂は人々を陥れるなど、極めて敵対的。
さらには夢魔や死霊、死神といった夜や闇に紛れて活動する魔物が常に徘徊し、冒険者のみならず一般市民をも殺しにかかる。
とはいえ日光が必要な植物は自生しており、気温は20℃ほどで安定した環境は、唯一の救いか。
彼らが頼るのは大海原を仰ぐ断崖絶壁に建てられた、混沌神の居住地、〝混沌の城〟から放たれる不可思議な薄明。
時間感覚の狂う過酷な環境の中でも―――大陸を闊歩する冒険者たちは居を構え、荒涼とした不毛な大地に根を降ろしていた。
「フッハッ、フン」
無造作に乱れた黒髪と、髑髏の眼窩のような無機質な瞳。
真一文字に閉じた口からは一切の感情の読み取れず、更には顔の左半分を漆黒の仮面が覆う。
不気味な風貌の男は木製の人形に鞭を振るい、淡々と訓練に励む姿は何処か異様だ。
周囲の新米の冒険者志望の人間たちは
「That's creepy(気味が悪いわね)」
「Hey, what would they do to you if they heard you?(おい、聞こえたら何されるかわからないぞ?)」
と口を揃えた。
彼の名はNobody。
無論本名ではないだろうが深く追及するのを恐れ、それを聞いて黙り込む。
冒険者志望であれば門出は開かれる。
たとえ得体の知れない人物であってもだ。
この世界で長く生きるコツは適度に無知であるか。
或いは類稀な才覚と頭脳を有するか。
2つに1つしかない。
Nobodyの素性には、その場にいた誰もが関心があったが、敢えて触れずに刻は過ぎていく。
彼にはただ1人、冒険者ギルドの女性職員以外に隠した秘密があり―――それは彼が現代から、異世界ヴォートゥミラへと招かれた異邦人だということだ。
いつも通りに、何となく、無為に大学受験の勉学に時間を費やし、気がつけば異世界の大地に立っていた。
自室からノックスに訪れるまでの間の記憶の道は、綺麗に寸断されており、1番困惑していたのは彼自身である。
(解離性健忘、解離性同一性障害の症状が近いが、今までそんな兆候はなかった……他に何が原因になりそうだ?)
仮面の青年は自らの置かれた立場を、俯瞰的に眺め分析を試みる。
医学的にそれらしい答えを並べるのは可能だが、まだ推測の域を出ない。
初めは夢かと考えたが幾度となく眠りから覚めても、この世界から抜け出すことはできなかった。
異世界に招かれて生命以外のほぼ全てを失った彼は、この世界で生き抜こうと。
そして未だ何者ではない自分から、脱却しようと藻掻いていた。
しかし当の本人が語らぬ以上は、噂に尾ヒレ背ヒレがつくのは自然な反応だ。
本来であれば指導を任される教官でさえも、おっかなびっくり。
戦々恐々としながらも好機の眼差しを向けられるNobodyに
「……ギルドから面倒を見るように言われたけれど。貴方が例の志望者かしら」
「Scarlet Woman!(緋色の女!)」
紅蓮の炎を思わせる赤髪を棚引かせ、1人の女性が青年の前に立つ。
その鋭い瞳は野生の獣特有の強さと気高さを感じさせた。
蜘蛛の子を散らすように彼女から距離を取る野次馬が、彼女の危険性を暗に語る。
よほどの問題児なのかと首を傾げて、彼が
「ああ、俺の名は……」
と伝えようとしたところ
「別に教えてもらわなくても、貴方については知ってるわよ、Nobody。薄汚いボロに身を包む不審者が、最近訓練場で鍛えていると聞いたから。長いから今後はNと呼ばせてもらうわ」
随分な物言いだが一理はある。
その時に初めてNは、自身の振る舞いを省みた。
「ただ金銭を稼ぐためという理由もあるが、自分が何を為せるか、何を為すべきか……冒険の中で見つけてみたい気持ちもある」
「新米冒険者らしい殊勝な心掛けね。でもそういって皆、命を落としていくの」
職業が職業だけに人の生死に対して、感覚自体が麻痺しているのだろうか。
緋色の女は特段自身の放った言葉の意味を、その重みを大して理解していないように軽々しく言い放つ。
顔を合わせたばかりの相手の嫌味に、眉を顰めた仮面の青年に
「それを現実にしない為に、あの子は私に貴方の指導を任せた。休養期間は実戦を意識した訓練と知識を、体と脳味噌に叩き込むわ。覚悟しておいて。後は先輩の私の指示に従い、冒険を行うこと。明日さっそく魔物討伐の依頼をこなすから同行しなさい。でも疲労を残さぬよう、今日は切り上げて」
彼女は自らの責任を理解しつつ、指示をする。
少々厳しいが頼りになるのは、現状は彼女だけだ。
「ああ、理解した。訓練は軽く済ませ備える」
会話を済ませるとNは身支度を整え訓練場を去り、冒険者に用意された宿泊施設へと戻る。
これから先の自由な生き方には、常に死が付き纏う。
教育係の彼女とも上手くやらなければ……先行きに不安の残る一日となった。
拙作を後書きまで読んでいただき、ありがとうございます。
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作者にも感情がありますので、明らかに小馬鹿にしたような発言に関しては無視させていただきます。