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止められない想い

 配属先が僕の部署になったのは本当に偶然、いやこれはもう運命なんだ。奇跡のような運命が目の前にやってきた。配属者リストの名簿を見てこれほど嬉しいと感じたのはいつぶりだろう。

 彼女に出会ってから僕の胸は高鳴り続けている。自分では止められないほどに。


 ドキドキどころではない。ドクドク、ドクドク……この胸の動悸は一体どうすれば鳴りやむのか。

 いやもう鳴りやまなくてもいいんだ、生きていると感じる。この胸を叩く振動が、彼女を思うたびに強まる鼓動が、自分の命を燃やすようで生きているんだと痛感させられる、それにただ興奮する。


 そんな彼女が毎日僕の目の前にいる。

 僕を意識して、一生懸命業務に励んでいる。その健気な姿と可愛い容姿が愛しくて愛しくて……愛でるだけでは我慢できなくなってきていた。



「小林さん、ちょっと時間いい?」

「あ、はい、大丈夫です」

 名前を呼ばれて振り向いたその顔は少し照れていて。名前を呼ばれるだけでその白い頬をピンク色に染めるのがたまらなく可愛い。ピンク色……久しく感じなかった色、色づきだした世界は今まで知らなかった世界だ。鮮やかで妖艶に彩って、輝き始める。


(ピンクでも、こんなに可愛いピンク色があるだろうか……薄くてふわっとして、でもどこか紅くて……可愛い)


 誰にでも出せる色味じゃない、彼女だから色づけられる色だと見つめながら思う。この白い肌を染めるピンク色が身体の他の部位を染めたらどんな風に色づくのだろう、想像だけで喉元が鳴る。はやくこの手で触れられたら……そう思うが見つめるだけで我慢しているのだ、必死で。


 振り向いた彼女のデスクに手をかけてマウスを操作する。


「ごめんね、作業の手を止めさせて」

「い、いいえ!共有フォルダの作成ですよね?!」

 声が少し上ずいている、緊張しているのかそんな姿もまた可愛い。


「うん、設定だけ少しさせてね」

「どうぞ!」

 業務上必要なことだと疑うことを知らない彼女、言葉の通り共有フォルダを作成して特定のユーザーを選択、カチカチと彼女の目の前で隠すことなく操作を続けていくが彼女がそれになにと突っ込んでくることはない。新たに立ち上がったダイアログを追加してアクセス許可のレベルの項目を設定、最後に共有をクリックして終了。


「ありがとう、邪魔したね」

「いいえ」

 微笑んだら微笑み返されて抱き締めたくなる。


 自席に戻って同一のLANに接続している自分のパソコンを叩きだす。ネットワーク項目内に、共有設定したパソコンが表示された、それをクリックしてほくそ笑む。これで、彼女のパソコンは取り込めた。社内メールもこれで共有できる、彼女が誰とどんなメールをやり取りするのかも把握できる。これはストーカー行為?いや、パソコンが業務上正しく使用されているかを監視管理する義務と責任が上司としてある、会社側もその中身をいつでも自由に見る権利を有している。社員は見られるという前提で仕事をすべきだ、そこにプライバシーは――ない。


 初めはそれくらいだった。


 彼女が誰と仲良くて、個人的にどんなツールを持っているのかそれを知りたいだけだった。でも所詮社内、プライベートなやり取りがあったところでたいした情報にはならない。

 欲が出てくる。



「小林さん、明日特許庁に行くの同伴してもらえる?」

「わかりました。朝からですか?」

「うん、そうだね。朝一行きたいから駅で待ち合わせようか、いい?」

「も、もちろんです。了解いたしました」

「何かあって連絡とれないと困るから小林さんの個人携帯教えてもらってもいいかな」

「あ、そうですね。私は相馬さんの社用携帯を知ってますが相馬さんにも知っててもらわないと連絡付けにくいですよね」

「僕個人の伝えておくよ」

「え」

 そう言ったら固まってたけれど当然だ、もっとはやくに教えたかったくらいなのに。


「当たり前でしょう?個人的な連絡先を一方的には聞けないよ」

 そして堂々とオフィスで彼女の携帯番号は手に入れた。これも業務上必要な行為だし法には触れていないだろう。

 お互いが個人の連絡先を手にいれた。なのにそこから進展はない。当たり前か、彼女が僕の携帯になにか連絡をしてくることはない。手に入ったところで余計に歯がゆくなった。

 欲は止まることがない。



 ついに僕は聞いてしまうんだ、情報システムやハードウェアに精通した大学の時の友人に。そして手に入れてしまった彼女の携帯のアカウント……その時はもう認めた、これは完全に犯罪行為だ。

 いつか桐山には謝ろう、そして訂正しよう。僕はオセロ症候群ではなかったよと。



 僕は……ストーカーだ。



 僕は僕を受け入れてくれる相手を見つけたらその子だけを愛して生きていきたい、僕を好きだと受け入れてくれる子を生涯愛していこうと、それが歪んだ愛だとしてもかまわない、人にどう言われても自覚した僕は罪悪感も持たずに決めるんだ。


 彼女が好きな自分になる、そうすれば彼女は僕から離れず、僕の愛を受け止めて傍にいてくれるはずだって。

 僕を愛してくれる彼女を愛する、誰よりも。僕を心から受け入れて受け止めてくれる相手を僕が愛せないわけがない。



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