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王子様の本性

 青ざめた桐山さん、真っ白な私、黒いオーラ全開の相馬さん。全員顔色がまともではないのがわかる。


「……桐山、頭おかしくなった?なに邪魔してくれてんだ」

「いやいやいや、おかしいのはお前だよ。落ち着け、暴走すんな、マジで捕まるぞ。小林さん、大丈夫?」

「はは、はい、私は別になにも……た、ただちょっと頭が混乱して、何から考えればよいのかと、そのぉ……」

「だよね、わかる、一旦落ち着こうか、相馬が狂ってるんだよ、ごめん」

「は?なんで桐山にそんなこと言われないといけないのかなぁ?ただの上司の分際で何様?ちょっと相談とかされて図に乗ってるんだろ」

「乗ってないし!相馬こそ冷静になってくれ!暴走するなって言ったよなぁ?!理性!理性どこやった!!」

「理性的だよ、常に」

「どこがだよ!!会社で同意も得ず押し倒しててなにが理性的だよ!!お前まじで捕まるぞ!!」

 二人がそんな言い合いをしているのを困惑した頭で見つめるものの全く理解が追い付かない。そんな私を見かねて桐山さんが私の顔を覗き込んでくる。


「小林さん、大丈夫?なんにもされてない?会社だから大丈夫と思った俺がバカだった」

「あの……桐山さん、これは、その」

「落ち込んでる?」

「え?」


 ―落ち込まないようにね

 以前桐山さんはそんな言葉を私に投げかけてくれた。その言葉をまた繰り返されて桐山さんをジッと見つめてしまった。


「それは……どういう意味だったのですか?あれは、相馬さんの想い人を見つけてもショックを受けないように、とういう意味だったんですね?」

「相馬の性格知って落ち込まないようにね、って意味だった」


(え)


「桐山……お前はさっきからなぜ僕の小林さんと見つめ合っているのかな。一体何様なんだ、二人で食事に行って相談事まで受けて……そこへ僕たちの二人の時間を邪魔しに来た挙句心配した体を見せて僕をさしおき見つめ合うだと?死にたいんだな、お前」

「小林さん、こういうヤツだよ?かなり狂ってるよ?多分これからドン引きする話がわんさか出てくる、大丈夫?本当に大丈夫?!」

「は、ぁ、えっと、その……」

 ただもう困惑。桐山さんが必死に私を心配して問いかける後ろで相馬さんが黒いオーラ沸々湧かせて桐山さんを睨んでいる。


「ほ、本当に……結婚はされてないんですか?ご結婚予定のこ、恋人は……」

 相馬さんを見つめて問いかけてしまった。やはりそこが一番気になる。


「してるわけないでしょう?小林さん、まだ独身でしょ?」

 そこで私の結婚云々問うてくるのがもうおかしい。


「私はし、してませんけど……こ、恋人がいらっしゃるのだと思っておりました。み、見つめている方がいると……可愛いって」

 あの話はなに?恋人を見つめていると言っていたではないか。


「見つめてたよ?毎日、かかさず、どんな時も君のことを。異動辞令が出た時は絶望したね、一番傍で君のことを見守ってきたのにその場所を桐山に奪われてさ……抱えなくていいストレスを抱える日々に内心うんざりしてきたところだった。そんな時に桐山から聞かされてね。嬉しいより先にやるせない気持ちが湧いたよ。君は全然理解していなかったのかって」

「そんな、私なんかを相馬さんが思っているなんてどうして思えるんですか」

「どうして思えないのか教えてほしい、どうして思えないと思う?どうして気づかずにいたんだ、僕はこんなに君のことを四六時中考えて想って暮らしているのに!」

 相馬さんが頭を抱えて悶絶している、その姿を見ていた桐山さんも頭を抱えて俯いている。頭を抱え合う二人の上司の姿がなんだか滑稽だ。


「そ、相馬さんは……本当に私のことを好いてくださっているのですか?」

「どう言えば伝わるんだろうか、この気持ち……好きなんて言葉ではくくれない」

 嘘、嘘、嘘!!そんなまさか!!


「君が好きだ、ずっと。知れば知るほど好きになる、もっと知りたくなる、どんな君も好きだよ、仕事している君も家でまどろんでいる君も……これからは君の趣味にも僕を混ぜてほしい、想像だけじゃなく楽しませてあげると約束するよ」

「しゅ、趣味……?」

 相馬さんの告げる言葉に冷汗が伝い流れた。そうだ、なんだか困惑して曖昧にしてしまったがさきほど相馬さんはなぜか私の趣味のノベル小説のタイトルを知っていた。今しがたなにか不穏な言葉もなかったか?家でまどろんでいる君?家に誰かをあげたことはないしプライベート空間で過ごす私の姿など誰も知れるわけがないのに。


「王子様に溺愛されるような恋愛が好みでしょ?逃げられないように囲われてねちっこく愛されて囚われるようなものが好き――「きゃあーーー!!それ以上言っちゃダメぇ!!」

 思わず相馬さんの口を両手で抑えて黙らせた。

 なぜか、なぜか相馬さんは私の趣味を知っている!!誰にも言わずに密かに楽しんでいる癖の部分を知っている、なぜ!!


 あわあわする私に口を塞がれている相馬さんは射るように見つめてくる、その眼差しの熱いこと……見つめ返したら焼け死にそうなくらい熱い。その瞳がふわっと弧を描くように緩められて……。


 ―ベロッ。

「!!」

 

 掌を舐められて衝撃を受けて思わずその手を離そうと逃げ腰になったら両手首をがっしり掴まれた。その勢いでテーブルに腰かけていたお尻を引き寄せるかのように腰を抱えられて距離が縮まる。相馬さんの胸の中に引き寄せられた、あの日の……電車の時の出会いのように。


「捕まえた」

「!!」

「僕はもっと前から君に捕まってるけどね。今度は君が僕を知っていく番だよ。手っ取り早く一緒に暮らそうか。もういつ来てもいいように部屋は整えてあるから君はその身ひとつで僕のところにおいで?」

 言葉が出てこない。


「僕に愛する人と幸せになってほしいと願っていたんだよね?だったら答えなんか出てるよね?僕の幸せを願うなら諦めることなんか許さない、一生、死ぬまで君を離さない」

 やっぱり言葉が出なくて慌てて相馬さんの背後に視線を送ったら桐山さんはいなかった。


(い、いない!いつのまに!!で、出て行かれた!!)


「まずは君のご両親に挨拶に行って籍を入れよう。結婚指輪はどんなのがいい?結婚式はいつにしようか。あぁ、決めることがたくさんあるね、とりあえず今日は一緒に帰って……「相馬さんっ!!」

 真っ直ぐで誠実で優しくて穏やかで、自分のことなんか二の次みたいなところがある思いやりに溢れた人、相馬さんはそんな人……だったはず。こんな人の話聞かなくて自分の気持ちマシンガンのように投げてきて周りが全然見えてないみたいな相馬さんは、知らない。


「ま、まずはぁ!!お付き合いから始めましょう!!」


 まずはお互いに歩み寄るところから始めませんか!!!!


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