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王子様の素顔

 目の前に相馬さん。視界の中いっぱいに相馬さん。これは夢だろうか、いや、そもそも夢であってくれ。


 状態がおかしい。

 私、今、押し倒されています。ミーティングルーム、長机の上に。見下ろされています、長机の上で。


「そ、相馬さん!!」

 この扉の向こうにはまだ仕事をしている人がたくさんいる!上司は周知しているとはいえそこにいる!!こんな現場を誰かに見られたらどう言い訳するつもりなのだ相馬さんは!!


「だれ、だれか入ってきたら、そのっ!!」

「入ってくるわけがない」

 なぜ断言できる!!この部屋に鍵はないのに!!


「桐山が入れるわけない。入れたらどうなるかあいつが誰よりもわかってる」

「は?」

 フッと微笑むその笑顔が恐ろしく黒い。黒い?相馬さんに対して初めて持つ印象の色だな、瞬間冷静になって思ってまた目の前に思考を奪われる。


「この時間を邪魔されて僕がどうなるか、どうするか、どうされるか……考えたら意地でも開けさせないだろうね。僕が知っている桐山はそんなにバカな男じゃない」


(信頼されてるんですね……)


 なぁんて!そんな呑気にうっとりしかけたけれど違う!相馬さんがツラツラと述べるがどれもしっくり響かない。私が知っている相馬さんはどこへ行ったのか。相馬さんってこんな感じだったかな、しばらく一緒に働かなくなって忘れちゃった?


 ううん!!忘れるわけないし!!


「相馬さん!!」

「なにかな?」

 真っ直ぐ見つめられて心がもう溶けかけて吸い込まれてしまう、でもそれに負けないように見つめ返す。


「結婚は……もうしてるんですか?!もうしたんですか?!」

「してません」

「じゃ、じゃあ誰とする予定なんですか!!」

「小林衣都さんとです」

「こばっ……小林、い、と?」

 相馬さんは一体何を言っているのか。ちょっと理解が追い付かない。


「お……」

「お?」

「お金持ちのお嬢様は?御曹司なのに、こんな一般人の私と?」

 そもそも、私?と??


「御曹司?誰の事を言っているのかな」

「え?小林衣都って私ですか?ほ、ほかにいませんか?」

「小林さんは何人かいるけど衣都さんは君しか知らないなぁ」

「け、結婚?」

「結婚する、結婚したい、結婚しよう」

 三段階の聞き捨てならない発言を連呼されて固まる。

 まだお付き合いさえしてないと思うのですが。いやいやいや、付き合う以前にだ!!相馬さん私の事何知ってるっけ?何にも知らないでしょ?


 私は会社ではとても真面目に固い感じで外の仮面をかぶって過ごしてきたのだ。なんなら素の自分はバレないように徹底して隠してきた。相馬さんを好きになってからは好意を持ってもらうべく品よく丁寧にをモットーにして少しでも育ちの良い風に言葉遣いも気を付けて装ってきた。それでも私はただの一般人、その繕っただけの仮面を取った私は面白味も何もない普通の女だ。なんなら素の私が相馬さんに好かれるわけがない!!

 私が普段どんな感じで何が好きで何が嫌いでとか、実はオタクでライトノベルとか夜な夜な読んじゃうみたいな腐女子だとか、実は頭の中でいろんな妄想(主に性癖関係)したり変なこと考えてたり(主に欲望関係)とかぁぁ~、自分で言っててヤバいと思えてきた。とてもじゃないが告白できそうにない!!


「相馬さん、私のことたいして知らな……「知ってる」

「はい?」

「君の事、なんでも知ってるよ。だから安心していいよ、全部受け入れてあげる」

「へ?」

「今一番好きな本は、【溺愛する御曹司様は今日も私を寝かせません!】だっけ?」

 なぜそれをっ!!!!それは最近電子書籍で購入したライトノベル小説!!!!なぜそれを相馬さんが知っている!!!!誰にも話したことはないのに!!!!

 御曹司ヒーローが相馬さんに似ていると思って即買いしたその作品、電子書籍で購入しているのにどうして知っているのか。その疑問もそうだが私の趣味を暴露されて頭が真っ白になる。


「知っているよ?知ってて好きだよ?ずっと前から」

「ずっと……前?」

「入社試験で君を見つけて一目惚れ、それから君のことを調べて……あの電車だって偶然だと思ってるの?」


(え)


「シャツに口紅をつけられたときに震えたよ、あの時のシャツは今もちゃんと残してる」

「えー!!」

 叫ぶように声をあげてしまった。そんな大きな声をあげてしまったからか、いきなりミーティングルームの扉が開いた。


「こら!相馬!!げっ!!お前何やってんだ!!」

 机に押し倒されている私を見た桐山さんが青い顔をして飛び込んできた。




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