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諦める方法

「小林さん」

「はい」

 呼ばれて振り向くと桐山さんが近くに来ていた。


「出願書類ってもう出来てる?」

「出来てます」

「お、さすが~。仕事が早いね、助かるよ」

「相馬さんにしっかり鍛えてもらいましたから」

 配属されて新人だった私は一から相馬さんに仕事を教わった。そこそこ独り立ちできるようになったのも相馬さんの指導のお陰だ。そんな面倒見の良かった上司は少し前に異動になってしまい、今の私の上司は桐山さんだ。お二人は同期らしく仲も良さそうで、普段から話をしている姿などを目撃した。その二人の姿を社内で見かけた女性人たちがどれほど心を潤わしているのか当人たちは認識しているだろうか。


「相馬って優しそうに見えて仕事厳しくなかった?」

「……少し?でもなにひとつ間違ったことおっしゃらないですし、仕事ですので。なにより相馬さんはその……飴鞭効果ですかね?」

「あ~言いたいことはわかるわ~」

 桐山さんが苦笑いして私も笑ってしまう。相馬さんは飴と鞭の使い方がうまい人なのだ、だから厳しく扱かれてもそのあとに必ずとんでもない甘い飴をくれる、そういう人。


「仕事であんなんだとプライベートどんなんだよ、って思うよね」

「……プライベート……」

 思わず呟いてしまった。


「どうした?」

「相馬さんは……ご結婚されるんですか?」

「は?」

「あ、すみません!なんでもありません!!」

「……相馬はあんまりお勧めしないんだけど」

「なぜですか」

 思わず聞いてしまった。私はなんて馬鹿正直なんだろうか。


「え、本気で?本当に相馬が好きとか言う?」

「桐山さんがなぜ相馬さんをそのように扱われるのか理解に苦しみます」

「え~、俺結構まとも……」

「桐山さん!ちょっとわがままついでに私にお時間ください!!」

 事務所で話すことじゃない!と、思わず桐山さんの腕を引っ張ってミーティングルームに連れ込んだ。


「至極プライベートなことで申し分けないのですが。先日お二人がお話しされているところを偶然耳にしてしまいました」

「それいつのことだろ?」

「休憩スペースです、あそこで」

「……あ~、あれかぁ」

「個人情報をこんな風に人伝に聞くのは失礼だとわかってます。桐山さんが相馬さんの同期で仲良くされてるのをいい事に厚かましいと重々承知です、でも私……それを聞いてから……」

 胸がずっと苦しい。諦めようと決めた、相馬さんの幸せを願うって決めた。


「相馬さんには、好きな方と幸せになってほしいって思ってます。思ってる、のに……」

「諦めたくないんだ?」

「諦めたいんです」

「え」

 諦めたい、ちゃんと。諦めさせてほしい、自分では気持ちの整理をつけられそうにないんだ。



「ちゃんと気持ちの整理をつけて諦めて、そして心から祝福したいんです」

 桐山さんがじっと見つめてくる。それに負けずに見つめ返す。


「相馬さんの恋人の事なにかご存知なら教えていただけませんか?」

「聞いてどうするの?本当にそれで諦められるの?欲が出たらどうする?」

「え……」

「ランチ、いこっか」

 時計はもうすぐランチタイムだ。桐山さんはそう言ってニヤリと微笑んだ。


「結果報告はちゃんとしてよね?」



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